「三人のユウリ」

『おめでとうございます!

 カンガ・ルール、スタンプクリアです。

 ただいまを持ちまして本日のスタンプは完了です。』


床に落ちたユウリのスマホから

なめらかな女性の声が流れてくる。


それは、僕らがここにとどまれる時間が

あとわずかであることを告げていた。


でも、ユウリは落ちた自分のスマホにも構わず、

目の前のセーラー服の女性にたずねる。


「ねえ、あなた。このカンガルーの顔って、

 それに、あなたたちは一体…!?」


その疑問は僕らも同じ。


ユウリの目の前で銃に撃たれ、

全身が焦げてしまったカンガルーの着ぐるみ。


そして、そのカンガルーの着ぐるみを

銃で撃ったセーラー服の女性。


この二人はともに

ユウリと同じ顔をしていた。


…これは一体どういうことなのか。


それに対し、女性は答える様子もなく、

床に落ちていたスマートフォンをひろうとユウリに握らせ、

再び気絶してしまった少年の車椅子に手をかける。


「…この車椅子の彼は私たちが保護するわ。

 そこのソファの彼も知っているだろうけれど、

 あなたたちがこの悪夢のラリーをクリアした後、

 何を願うかをよく考えて。うかつな願いをすれば、

 この二人のようになってしまうから。」


その時、ユウリは何かに気づいたように

僕と後ろのカンガルーにも目を向けるが、

女性はそのまま言葉を続ける。


「それはこの時間軸…ひいては三年後の私たちの未来とも直結する。

 私があの未来に行かないようにくれぐれも慎重に考えて。」


だが、それ以上の言葉が続く前に時間切れになり、

唐突に僕らの意識は遠のいていく。


…そして気がつくと、

僕ら三人はやっちんの家に戻っていた。


でも、その部屋の主であるやっちんは

天井を見上げながら「ウソだろ?」と呆然とつぶやき、

座り込んだユウリは、僕の方を向くと、

消え入りそうな声でこうたずねた。


「…ねえ、マサヒロくん。あの人も言っていたけれど、

 もしかしてナンバーずが人間の子供だったって、

 願いを叶えた後の姿だったって知っていたの?」


僕はそれに静かにうなずく。


あの場にいた女性がどうして知っていたのかはわからないが、

ここでウソをついても仕方がないことはわかりきっていた。

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