「車椅子とセーラー服」

少年はうっすらと目を開けると、

後ろの着ぐるみの方を向き、

驚いた顔をしてこう言った。


…ミカお姉ちゃん。


だが、それ以上言葉が続けられることはない。


瞬間、左右の着ぐるみが

勢い良く横へと吹っ飛んだからだ。


そして二体のいた位置に、

二人の人間が同時に立って

煙の上がる銃口を見つめている。


片方は僕が先日美術館で見た、

制服姿の青年。


そして、もう片方はセーラー服姿の女性。


でも、その女性の顔は

どこかで見たような気がして…


「ユウリ、お前がここにいるということは、

 俺たちの選択が間違っていなかったという

 ことでよかったんだな?」


銃口をあげる青年はどこかさわやかな声で

目の前の女性にそう問いかける。


それに対し、

女性は長い髪をかきあげると、

涼しい声でこう答えた。


「まあね、あらかたの事情は察しているわ。

 …でも未来は連続していないから、

 あなたの知っている世界線での私は、

 このカンガルーの着ぐるみで間違いないわ。」


そう言って、女性はつい今しがた銃で撃った

ナンバーずの片方をごろりと転がす。


僕はその着ぐるみから

のぞく顔を見て息を飲んだ。


おそらく、顔こそ見えないが、

近くにいるユウリや、

やっちんも驚いているに違いない。


…そこにいたのは、

目の前のセーラー服の女性を

少し幼くした顔。


それは僕らが見慣れている、

ユウリの顔で間違いなかった。

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