scene16 二人の夜はまだまだこれから? 2/2

 畳の上に敷かれたお布団は、ふかふかすぎず、気持ちいいです。

 お家からもってきた、手のひらと同じ大きさの、うさぎの人形も一緒に寝かせてあげています。

 

 日本に来られたんだなぁと実感します。

 

 そうです。

 今日はいろいろあったのです。

 

 今、わたしは日本にいます。

 ふわふわと今日一日のことを考えてしまいます。

 恵まれた一日でした。

 

 ここで暮らせるようになりましたし、これからが楽しみです。

 

 ……ゆーとさん。

 ゆーとさんは、一人で住んでいたのですね……。

 知りませんでした。

 

 人の気持ちの全てがわかるわけなんてないのですが、一人残されたゆーとさんの気持ちをどうしても考えてしまいます。

 

 いろいろあったんだろうな、と思ってしまいます。

 

 それでも、ゆーとさんは思っていた通り優しくて素敵な人でした。

 

 空港から迷いながら、やっとこのお家までたどり着きました。

 

 そうしたら、

 ゆーとさんがお出迎えをしてくれて。

 ゆーとさんがお買い物に連れて行ってくれて。

 ゆーとさんに大福を買ってもらって。

 

 わたしは本当に和菓子が好きなので、特に大福が好きなので。

 日本に帰ってきた初日から食べることができるなんて、とてもラッキーでした。

 

 それにしても、ゆーとさんの「運貯金」のお話はびっくりしました。

 

 なにがあんなにゆーとさんを追い詰めるのでしょう?

 

 ゆーとさんみたいに考えると、大福を初めての日から食べられるなんて、初日に出会える運を持っていて使えるなんて、良かったと思いました。

 あれ?違うのかな?

 ゆーとさんだったら、もっと大きなことのため、貯金をしていたいと思うのでしょうか?

 

 わたしは、ゆーとさんに言えてないこともあります。

 嘘というか隠しごというか、三つもできてしまいました。

 

 ゆーとさんが、スーパーでカリフラワーをじっと見ているときはどうしようかと思いました。

 わたしは、どうもカリフラワーが苦手で。

 あの白くて小さな丸いのが集まっているのがどうもダメなのです……。

 ゆーとさんがカリフラワーのサラダにしようと言って、手に取ったらどうしようかと思ってしまいました。

 

 あと、わたし……実は猫舌なのです。

 大福だから熱いお茶が良いですだなんて、つい大人ぶって言ってしまいました。

 だって、ぬるいお茶をお願いするとか、なんていうか、子供っぽいような気がして……。

 ちょっと恥ずかしくて。

 ゆーとさんに知られたくなくて。

 

 最後の一つは……。

 …………。

 …………。

 …………。

 やっぱり、まだ言えません。

 いつか、いつかちゃんと話せたらと思います。

 

 押入れの時は怖くて内緒にできませんでした。

 これも子供っぽいとは思いますし、恥ずかしいのですが怖さに負けてしまいました。

 いつかは、大丈夫なようになるのでしょうか?

 

 ……思い出すとまた怖くなるので、他のことを考えます。

 

 明日からは学校です。

 日本の高校はどんな感じなのでしょう?

 お友達もいっぱいできるのでしょうか?

 みんなでおしゃべりしたり、お弁当食べたりとか楽しそうです。

 

 明日、お買い物もまた行けるのです。

 明日も楽しいことがいっぱいありそうです。

 

 そろそろ寝ないと思うのです。

 でも、なかなか寝つけません。

 目を閉じているのですが、なかなか寝つけません。

 

 一度目を開けてみます。

 

 暗闇に慣れてきたせいか、天井の模様まで分かるようになりました。

 自分の家ではないということを、改めて実感します。

 

 ……どうしても押入れの方を見てしまいます。

 

 大丈夫です。

 角には見慣れたわたしのスーツケースがあります。

 

 だけど、スーツケース横の扇風機が、一つ目のお化けみたいに見えてしまいます。

 押入れの中からも何か出てきそうな気がしてきます。

 

 大丈夫です。

 お気に入りの、うさぎのラビーちゃんをちゃんと握っています。

 

 最初だから怖いだけです。

 慣れてくれば何も怖くないはずです。

 

 ここはゆーとさんのお家です。

 優しくて楽しくて、だから安全な場所なのです。

 だから大丈夫です。

 

 ぶぅぉん。

 いきなり低い音がしました。

 

 何かが迫ってきては遠ざかるような音がします。

 

 ゆ、ゆーとさんっ。

 

 怖くない、怖くないですっ。

 気のせいですっ。


 と思っていても、涙が出てきてしまいそうになります。


 だから、わたしは、ぎゅぅっと目をつむりました。

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