scene15 二人の夜はまだまだこれから? 1/2

 僕はしどろもどろで山本さんの部屋を後にする。

 

「そ、そういうわけで、おやすみなさい。また明日の朝に」

 

 そそくさと縁側の方に出ていく。

 

「ゆーとさん、おやすみなさい」

 

 背中に山本さんの声を受け、振り返る。

 にっこりと微笑みを返してくれる山本さん。

 

 見透かされているとは思わないけど、何もやましいことはないけど、なんとなく慌てて障子を閉じた。

 

 縁側へ出るけど雨戸は閉めず、ガラス戸だけ風が通る程度に閉める。

 居間へ戻りの扇風機と電灯の電気を消す。

 台所に行って火の元をチェック。

 玄関の鍵を掛ける。

 

 そして自分部屋に戻り、布団を敷き、電気を消して横になる。

 縁側と部屋の間にある障子から、藍色の薄明るい光が透けている。

 

 いつもの流れを終えるとだいぶ落ち着いた。

 

 それにしても、今日は盛りだくさんの一日だった。

 知らない女の子が訪ねて来て。

 でも祖母の知り合いらしくて。

 どういう訳か一緒に住むことになって。

 

 ふぅ。

 

 大丈夫、大丈夫。

 親戚みたいなものなんだし。

 なんてったって、祖母の知り合いなんだから。

 

 ……しかも、その女の子が、とびきりの美少女で。

 

 いやいやいや。

 大丈夫、大丈夫。

 親戚みたいなものなんだってば。

 

 ……しかし、いい匂いがしたな……。

 

 まてまてまて。

 

 美少女と同居と言っても幸運と捉えるな。

 そんなところで運を使うわけにはいかない。

 むしろ急に押しかけられたんだから、本来はアンラッキーなはずだ。

 

 うん、そうだ。

 ふむ。

 そう……だ。

 そう、これは人助けだ。

 住むところがないまま日本の高校に通うことになったんだから。

 しかも、祖母の知人を助けないわけにはいかないし。

 

 むしろ運貯金が貯まるはずだ。

 

 もやもやと考えつつ、暗い天井を見る。

 

 汗ばんでいる自分に気づき、部屋の扇風機のスイッチを入れ忘れたことに思い当たる

 もそもそと扇風機へ近づき、スイッチを入れる。

 同時に、山本さんに使い方を教えてなかった事に気づく。

 

 ……とはいえ、今からは山本さんの部屋に行けないしなあ。

 

 少しの不安と少しの罪悪感がブレンドされた感情を抱えてしまう。

 すぐに山本さんの寝姿を思い浮かべそうになったので、慌てて明日の不備がないか考える。

 もちろん、宿題はいつも通りの平均点仕上げなので大丈夫だし。

 他にも考えてみる。

 だけど、始業式だけなので特別な準備なども思いつかない。

 

 思考はふらふらと学校を離れる。

 

 山本さん、祖母とはどういう関係なんだろう?

 山本さん、なんで一人で日本に来たんだろう?

 山本さん、かわいかったな。

 

 ……おっと。

 

 

 

 

 

 

 明日から二学期が始まるのに、なかなか寝られない夜です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る