第14話 襲来

 警鐘と悲鳴が村中に響き渡る。


「ーー村人の保護が優先だ! 魔法か弓が使える者は対象の牽制、他は俺と共に回収するぞ!!」


 カイトの指示の元、冒険者たちが迅速に行動する。

 冒険者で村人の周囲を取り囲み、移動しながら回収を行う。


「やっぱり、弾かれて届かねぇ!!」


「クソっ、ツイてねぇな……。なんで、こんな大物がここにいやがるんだ!!」


 冒険者たちが魔法や弓矢でいくら攻撃しても一切を寄せ付けないその魔獣は、獅子の胴体にワシの頭と翼を持つーー。


「「「グリフォン!!」」」


 その群れであった。

 そんな絶望的な状況で、唯一の救いなのはグリフォンたちが攻撃的で無いことだ。

 周囲を取り囲み襲うでもなく、冒険者たちの正面で羽ばたき続けている。


「「「(何を考えている?)」」」


 グリフォンは上位種に数えられるだけあって強く、知能が高いので人口を解する者もいると伝えられている。

 それ故にグリフォンの行動に冒険者たちは困惑していた。


「ふむ。まだ、村には数名残ってるいる様だが……こっちへ向かっている様だし問題無かろう?」


「「「なっ!?」」」


「ぐっ、グリフォンが喋っただと!?」


「しっ、信じられん……っ!!」


 集団の中からリーダー格らしい一際大きな魔獣が姿を見せたと思ったら、流暢な人語で話し始めた。


「単刀直入に申す。この村を我らに明け渡すがよい」


 唐突に告げられる理不尽な要求。当然、村人たちからは反感の声が上がった。


「ふざけるな!どんな思いで村を守ってきたと思う!!」


「そうよ!やっとの思いで村を建て直したのよ!!」


「そうだ!そうだ!」


「【エアブレード】」


「「「ひっ!?」」」


 グリフォンの放つ風の刃が逃げ道を断つ様に周囲を駆け抜けた。


「ならば、居場所を掛けて戦うか? 今ですらお主たちの攻撃は届いて居らぬというのに?」


「それはーー」


「我は構わぬぞ。やれると言うならやってみよ」


 さらに攻撃は増すも、グリフォンたちは涼しい顔を崩さない。


「ゼイジャク。ゼイジャク」

「オサノショウヘキ、ゾクイチ」

「ヒトノコフゼイ、ヤブレルハズナシ!」


「ふっ、当然のことーーごはっ!?」


「「「オサァァァーーっ!?」」」


 障壁を貫通した物で、グリフォンの長は落下した。



 ◆◇◆◇◆◇◆



 少し前。


「上級魔法も防がれた!? 噂はだてじゃないという事かっ!!」


「コレは撤退も考えた方が……!」


「カイト、村人たちを説得しろ! このままじゃ、血を流す事になるぞ!!」


 焦りを見せる仲間の冒険者たち。リーダーであるカイトは重大な決断を迫られていた。


「なぁなぁ、お兄さん。アレに攻撃していい?」


「はいっ?」


「あれ? 煩くて聞こえなかった?」


「いや、聞こえたけど……」


「なら、コレを投げ付けて良い? こちとらアイツにムカついているんだよね?」


 突然現れた青年に困惑していると、彼は拳大ほどもある水晶の様な白い塊に握り投げつけようとしている。


「投げても良いが、無駄だと「良いんだね。じゃあ、投げるわ」ーーえっ、ちょっ!?」


 忠告もむなしく、白い塊はグリフォンへと投げ付けられた。案の定、障壁に弾かれて落下する。


「へっ?」


 しかし、その後の挙動には目を疑った。何故か、落下途中から……高速で動き。


「ごはっ!?」


「「「オサァァァーーっ!?」」」


 障壁を貫通、グリフォンの身体にぶつかって爆散した。その衝撃で落下するグリフォンたちの長に目を丸くした。


「うん。俺はツバキ様ならやれると思ってたぜ!」

「うわぁ……モロに地面と激突したよ」

「グリフォンよ。可哀想に相手が悪かったな……」


 驚く冒険者たちだが、村人たちはさも当然のようにその光景をあっさりと受け入れていた。


「お〜い、他のグリフォン共。逃げなくて良いのか? 次は貴様らの番だが? なぁ、ユキネ」


「えぇ、逢瀬邪魔した罪を償って頂きましょう」


 先程青年が投げた白い塊を抱えた両手一杯に抱えた少女が村人や冒険者たちにそれを配っていく。


「なぁ、知ってたか? 今日ってさ、俺たちの結婚初夜な訳よ。つまり、お楽しみタイム中だった訳よ。それをお前たちは……絶対に許さん!!」


 怒る彼の手にはいつの間にか、白い塊がまた握られていた。


「氷砂糖ーー投擲っ!!」


「「「うおぉぉぉぉーーっ!!」」」


 状況について行けない冒険者たちを他所に、村人たちは次々と投げ付けた。


「ヒッ!? に、逃げーー」


 危険を察したグリフォンたちが四散して逃げようとするが何故か空中で硬直、動けていたとしても謎の挙動で塊が襲い、彼らは次々に落下していった。


「「「ぎゃああぁぁーーーっ!?」」」


「「「んんっ!?!?」」」


 青年だけでなく、村人たちも障壁を貫通した。

 あれほどまで苦戦した強敵があっさり落ちていく様子に呆れを通してため息が出たのは言うまでもない。





 数分後。全てのグリフォンが地へと伏した。


「「「うぅぅ……痛い……甘い……痛いっ」」」


 しかし、風の障壁は今だに健在の様だ。彼らを護る様に地面へ後を刻んでいる。


「マジか。あのグリフォンたちを……」


「どうする? 今なら頑張ればトドメを刺せるかもしれないぞ?」


「ここは彼に任せよ」


 趨勢を見極めんと皆が青年に注視する中、彼はグリフォンの長の前へと立った。


「さて、これからーー」


「【ストームウォール】!」


「「「なっ!?」」」


 天まで届く竜巻が青年とグリフォンの長を飲み込んだ。



 ◆◇◆◇◆◇◆



「ーーどういうつもりだ?」


「うぅ……貴方に決闘を申し込む……」


 グリフォンの長は呻きながら無理やり身体を起こした。


「なんで、そうなった? 素直に帰ってくれるなら殺す気はないんだけど?」


「優しいな。人の子よ」


「……理由くらいは聞かせてくれるよね?」


「我らには帰る場所がない」


 グリフォンの長が自分たちの置かれた現状を語る。

 種の増加、狭い縄張り、食料難。そのどれもが急務であり、放置すれば部族の崩壊に繋がりかねないこと。


「ーー故に土地を移る必要がありました」


 そんな折、枯れた大地がマナに愛され生まれ変わった。

 マナが豊富で有れば植物は良く育ち、動物たちが集まってくる。しかも、まだ縄張りという縄張りが存在しない事が決め手となった。


「なら、素直に森へ住めば……」


「住むだけでは遅かれ早かれ人族の荒いになったでしょう。それにこの場にはマナを生み出す霊泉があるのです。危険を犯すだけの価値がある」


 運が良いことに住んでいるのは人族。多少威圧すればあっさりと手に入るとグリフォンたちは考えいた。


「ですが、貴方……神族がいたの想定外でした。しかし、無理承知!貴方を倒せば、後は有象無象。現に貴方が力を貸した者たち以外は、我らの障壁を突破することすら出来ていない。なので、戦って頂きます!」


「好戦的過ぎるだろ!? もっとお互いに話し合うとか「【エアブレード】」ーーうわっ!?」


 死を感じて飛び退くと先程まで自身がいた場所を大量の風の刃が通り過ぎていった。


「【ストームパレット】」


 間髪入れず結界を貼ると、弾丸の様に収束した風たちが結界を揺るがしヒビを入れた。


 どうする? 相手をするにも攻撃魔法はまだ習ってないぞ!?

 使える魔法と言えば、防御魔法と生活魔法。後は、スキル由来の能力か……。


「うん? スキル?」


 まさか、アレとか再現出来たりするのか?

 自分の中のスキルへ問いかける様に意識を向けると求める知識が浮かび上がってきた。

 実際の威力や効果までは予想できないな。やるからには確実に当たる状況での一発勝負。


「よし、その勝負引き受ける! だが、引き受けるからには条件がある!!」


「……条件とは?」


「あぁ、そうだ。元々、お互いに殺す気が無かったんだ。なら、お互いの一撃に全てを賭けないか? この村の人に悪いが……アンタが勝ったら責任をもって俺が皆を連れてこの村を出る。俺が勝ったら村人を襲わないと約束してくれ」


「ふむ。確かにこのままやっていては負ける方が高そうですし……良いでしょう、受けて立ちます。しかし、これでは我らにメリットしか有りませんが?」


「それなら勝ったら誰か従魔になる奴を紹介してくれ」


「……わかりました。交渉成立です」


「助かる。死なない程度に全力で殺り合おう? 死ぬなよ?」


 使えるものは何でも使おう。出たとこ勝負になるが負ける気がしない。

 緊張感で高鳴る心臓、俺は指で銃のポーズをとる。


 スキル【原子操作】


「対称金属の召喚。加速を開始」


 指の先で光球が生まれ、放電を帯びつつ大きさがどんどんと増していく。


「全魔力注入。最大出力【ストームブレス】!」


 グリフォンの準備が整い、全身を覆う程の巨大な風の塊が先に放たれた。


「【荷電粒子砲】」


 光球から放たれるレーザーが、風の塊をぶち抜き直進する。そこで自身のミスに気付いた。


 マズイ!? 位置がっ!!


 このままではグリフォンの顔に直撃するという所で。


「うっ!? うぉおおぉぉーーっ!?」


 本能が告げる命の危機に、グリフォンは必死な形相で身体を逸らした。

 光線はズレ、竜巻の外まで駆け抜けていった。


 ドスッ!!


 どうやら光線が掠った様だ。

 根元が融解したグリフォンの角が落ち、地面へと突き刺さった。


「……我の負けです」


 勝利を告げる様に周囲を取り囲んでいた風の檻もゆっくりと消えていき、朝日が目にしみる。


「んっ……」


 どうやら長い夜は終わりを迎えた様だ。


「ツバキさん!!」


 ユキネの呼ぶ声がいの一番に聞こえてきた。彼女が無事な様で安心した。


「それじゃあ、勝った訳だし。約束は守ってね」


「承知しました。従魔の件、我がなっても?」


「それは頼もしいな。よろしく頼むよ。さて、グリフォンたちとの住み分けだけど……」


「でしたら、もっと良い提案が御座います」


 長からの提案は、俺が考えものよりも良いモノで同時にとても現実離れしたものだった。


「面白いね。説得出来るの?」


「お任せを」


 話し合ってる俺たちに決着が着いたと察した皆が心配で集まってくる。俺はグリフォンの長との話を経緯を交えて彼らに説明した。


「「「「!?!?」」」」


 説明を受けた皆は驚きの余り、目を白黒させている。


「ーーそんな訳で彼は俺の従魔になって」


「我らグリフォンはこの村の守護者として、共に生きる事となった」


「という訳で、今後共よろしく!」


「「「いや、何でそうなる!?」」」


「「「ツバキ様、すげぇえぇぇっ!!」」」


 こうして、この村の厄災は冒険者たちの激しいツッコミと村人たちの驚きの声と共に幕を降ろした。

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パティシエ椿の異世界放浪記 ユメノ @yumeno0960

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