第13話 そうは問屋が卸さない
宴は終わり、静寂が包み込む村を警備する冒険者たち。
「あ〜っ、良いな結婚。俺もあんな嫁さん欲しいわぁ〜」
「そう思うんなら、まずはモテる為にもキリキリ働いてくれませんかね!? さっきから俺しかまともに見張って無いんですけど!?」
村の見張り台からそんな仲間たちの事が良く見えた。
「大丈夫。大丈夫。眼下は平和そのものさ!」
「見るのは外!! 何の為の高い台だ!?」
真面目に監視を行ってるにも関わらず、相方は落下防止の柵に身体を預け、ダラけきっている。そんな相方をげしげしと足で小突き、働けと催促した。
「蹴るなよぉ〜。大体さ、お前は真面目過ぎるんだって。こんな辺鄙で平和な村に何も起きないでしょ? 魔物の生息分布からだって、かなり外れてる訳だしさ」
「それをフラグって言うんだよ!今後、変わるかもしれないだろ?!」
冒険者稼業において、"口に出したら現実になりました……"とは、よくある話である。
(最も、もう遅いかもしれないが……)
自分はこれ以上追求しない為にも口を噤んだ。
「今後ねぇ……分からねぇのは確かだわ。そう遠くない内に何かしら起こるだろうよ」
しかし、相方はまだ話を続けるようだ。
放っておいても勝手に喋りそうなので話に乗ることにした。
「それはどういう事だ?」
「カイトさんに聞いたんだけどよぉ。天変地異の影響か、各地で魔物の動向に変化が出たんだとさ」
「あぁ、そういえば駆け出し連中のレクレーション中に高位の魔物が出たそうだな。でも、アレから数日経ってるし、少しは落ち着いたんじゃないのか?」
「一応はな。出発直前の情報じゃあ、落ち着いたって聞いたぜ」
「なら、安心じゃんか」
「でもな、それはそれ、これはこれ。ここは長らく村人たちくらいしか住まわない荒廃した土地だった訳よ。それが1日で復活したんだよな? という事はだよ? 有った森が無くなったんじゃなくて、無かった森が生まれた訳だ」
「つまり、何が言いたい?」
「ここは生き物たちにとっては縄張りも何もない
「どれどれ?」
急に真剣な面持ちに変わった相方に困惑しながらも、彼の指す方向へと望遠鏡を向けた。
「ーーッ!? 警鐘を鳴らせっ!!」
「やっぱりか!!」
そして、村中に魔物の襲来を告げる警鐘が激しく鳴り響いた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
披露宴が終わり村人たちが帰る中、俺とシロネは巫女さんの屋敷に用意された部屋へ泊まることになった
「それじゃあ、お姉ちゃんとお兄さん。お邪魔虫は帰るのでごゆっくり〜。レオちゃんも一緒に帰ろうね」
「レオちゃんって……」
レオはユキネの"ちゃん"付けに不満らしい。
しかし、彼女の腕に捕まってしまった以上、既に拒否権は無いようだ。
「ツバキ。再三言ったけど、盗聴防止と視覚阻害の魔法はしっかりな。せっかくの初夜を台無しにされたくないだろ? それから例の指輪だ。外してても良いけど、近場だけは置いておけよ。そうじゃないと効果がないからな」
神様からの結婚祝い。樹木とヤギをあしらった白銀の指輪。
【名称】アイギスの指輪
【効果】浄化・危機回避
【説明】付けた者の異常を無効化し、癒しを与える。また、一日に一度だけ如何なる状況からも生命を保護される。
「それからーー」
何だかんだと人の良いレオはその後も色々お節介な忠告を残し、ユキネにお持ち帰りされていった。
「それじゃあ、俺たちもそろそろ……」
「はい……」
残された俺たちは、気恥しさを残しつつも手を繋いで用意された部屋へ向かうのだった。
「「ーーッ!!」」
部屋に入った瞬間、その光景に俺たちは動きを止めた。
ピッタリとくっつけられたお布団。側には何に使うと言わないが、お湯が張られた桶と手ぬぐい。
隣に目を向けると彼女もこの後の事を想像したのか、顔を真っ赤にさせていた。
(ここは、男の俺がリードするべきか?)
「シロネ」
彼女の腰に手を添えて、一緒に布団へ行こうと促した。
「あっ、あの、ツバキさん! だっ、ダメです!!」
「えっ……?」
ここに来て、まさかの拒絶。
(やっぱり、伊達男みたいな行動は俺には無理だったのか!?)
「いっ、いや、違うです!! ツバキさんとするのが嫌とか、そんなじゃなくて……そのっ……」
ショックを受けてる俺に気付いたシロネが、アワアワしながら必死に弁明を始めた。
「わっ、私の方がダメなんです!」
「やはり、心の準備が……?」
「違います! ツバキさんとするのが嫌とかじゃなくて、絆を深めたいし……むしろ……沢山求めて欲しいというか……? はい、こうなったら素直に言います!! いっそ子供が出来るくらいして欲しいです。最低でも3人は欲しい……かな? でも、今はダメです! 披露宴で汗をかいてます! それに楽しみにしてくれてた服も途中で着替えちゃって、今はラフなもので……あっ」
テンパって、色々暴露したシロネは正気に戻る。
「…………………お風呂に行ってからで良いですか?」
羞恥のあまり、真っ赤になった彼女は消え入りそうな声でそう呟いた。
「うっ、うん!行っておいで、待ってるから!!」
「すっ、直ぐに帰って来ます……!」
彼女は熱に浮かされた様にフラフラとお風呂へと向かっていった。
「ふう〜っ、暑い暑い。シロネがあそこまで考えてくれていたとは……」
彼女の気持ちに当てられて、嬉しさと恥ずかしさで自分も熱くなる。
それにしても、あそこまで考えてくれていたとは……。コレはしっかりと準備をしなければいけないな。
俺はレオに教わった事を思い出し、魔法を発動させる事にした。
「よし、さっさと準備を済ませておこう。え〜っと……
自分を中心にシャボン玉の膜が広がる様に部屋を包み込んだ。
「それから
展開した魔法陣から発生した霧が周囲に満ちて、ゆっくりと薄れていった。
「よし、後は物の確認だな。寝床よし、事後の処理も準備よし……うん?」
そこで枕元にメモ書きと一緒に、液体の入った瓶が置かれている事に気付いた。
『我が村の秘伝の一品です。夜の営みにでもお使い下さい。ダダン』
メモ書きには、そうとだけ記され説明も何もない。
液体は透き通っているが、そこそこの粘度がある様だ。
「ローションだったりして(笑)」
正体が分からないと使いようもない。鑑定魔法を使って調べる事にした。
【名称】バニラオイル
【説明】一般にお菓子の香り付けで使われる事が多いが、体に塗る事で保湿効果、滋養強壮効果、感染症防止効果。甘い香りはリラックス効果を与える。また、滑りが良くなるので夜のーー。
俺は説明を読む途中で鑑定魔法を解除した。
「………」
何とも言えない気持ちになる。
その昔、行為の際にローションの代わりとしてオイルを使っていたと聞いたことがある。
まさか、一番入手が困難だと思った物がこんな経緯で真っ先に手に入るとは思ってもみなかった。
「まっ、前向きに考えよう! アルコールに漬け込めばバニラエッセンスな訳だし!!」
余談だが、バニラの香りの主成分を油に溶かした物を"バニラオイル"で、アルコールに溶かした物を"バニラエッセンス"と区別される。ちなみに、オイルの方が香りが飛びにくいのでわざわざアルコールで作り直す必要はない。
そのまま使えるから良しと自分に言い聞かせた。
「中に入るとちゃんと見えるんですね」
タイミング良く、シロネが部屋に帰って来た。
ウエディングドレスに着替えた彼女は、風呂上がりな事もあって妖艶さを増している。
「お帰り。魔法は仕事してた?」
「あっ、はい。大丈夫みたいです。扉は開いていたのに、中は靄がかかったみたいに先を見通す事が出来ませんでした。音も入口に見えない膜みたいなのがあって、内側で手を鳴らしても外には聞こえませんでしたよ」
つまり、これで俺たちを邪魔するものは何も無いという事だ。
「シロネ!」
「きゃっ!?」
俺が彼女を引き寄せるとバランスを崩し、倒れ込んできた。
「悪い。でも、そろそろお預けは限界でね。……キスしていい?」
「あっ、そうでした。待たせてごめんなさい。んっ……」
自分がするより先にシロネの柔らかい唇に塞がれた。
俺は彼女を抱き締めると優しいキスを交わし、ゆっくりと舌を唇の隙間に侵入させていく。
「んんっ!んっ……ちゃっ……」
絡み合う舌と混じりあう唾液に俺たちの理性が溶けていく。長いキスの後、離れる頃には一条の筋ができ、彼女の顔は蕩けきっていた。
俺は庇護欲と独占欲が入り交じり、体勢を入れ替えて彼女を押し倒す。
「シロネが欲しい」
彼女の首筋へキスをしながら、手をドレスの上からでも分かるふくよかで柔らそうな胸にうずませた。
「んんっ。どうぞ……優しく……して下さいね?」
熱を帯びたシロネに誘われ、俺は彼女の帯へと手をーー。
「はい、ストーーーップ!!」
「えっ、柔らっ……へぶしっ!?」
正体不明の柔らかさを持ったモノから生まれた衝撃が俺を吹き飛ばし、強制的に現実へと引き戻された。
「れっ、レオさん!?」
「えっ、レオ!? 肉球かっ!? 今のは肉球なのか!?」
俺たちは突然のレオの襲来に驚いた。
「お楽しみの所悪いが緊急事態だ。文句が有るなら奴らに言いな」
「「奴ら?」」
顔を見合わせた俺たちはレオに促され、急ぎ宿の外へと向かった。
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