第10話 黒糖饅頭

「うぅ〜〜ん……ん?」


 俺が目を覚ますとそこに広がるのは、とても見知った花畑と川なのであった。


「また、死にかけてるやないかい!?」


「「「「お帰り〜っ!」」」」


 当然の如く川の向こうからはやはり見知らぬ爺婆たちが手を振って出迎えていた。


「ハウス!」


「「「「お前がなぁ〜」」」」


「ノリ良過ぎない!?」


 三途の川の爺婆たちは、相変わらずのご様子だ。とりあえず、言われた通り俺は帰るとしよう。


「え〜っと、確か石を投げ込んで……」


 出てきた魚に食べられる事で戻れた筈だ。

 俺は覚悟を決めて前回と同様に近くにあった石を投げ込んだ。


「よし、何時でも出てこい!!」





 ……あれから数十分後。


「……出てこないのですが!?」


 大魚は川から一向に姿を表さないでいた。


「あ〜っ、そういえば出張の辞令出とらんかったかね?」


「そうやった。あの魚は出張しとるんやった!」


「辞令!? 出張って何っ!?」


「あの魚はあの世に勤める社会人百年生のエースだからね。普通に出張くらいするわい」


「普通じゃねぇよ!!」


 まさか、あの世が会社とは……。これには驚きを隠せなかった。


「うん? じゃあ、どうやって俺は帰れば良いんだよ!! 魚以外に帰り道を知らないんですけど!?」


「「「「ピッ♪ ピッ♪ ピ〜〜ッ♪」」」」


「聞いてます!?」


 何故か、ジジババたちはホイッスルを取り出して吹き出した。


「ちゃんと呼んでやったわい」


 ドドドドドドッ!!


「えっ?」


 背後から聞こえてきた轟音に振り返るとバッファローの群れが迫って来ていた。

 よく見るとその視線が俺へと向けられている事に気付き、冷や汗と共に嫌な予感が駆け巡った。


「おい……まさか……」


「「「「達者でなぁ〜〜」」」」


「だと思ったよ! ドンチクショーーッ!!」


 俺はバッファローの群れから逃げるように全力で走り出した。

 しかし、当然ながら俺が逃げ切れる訳もない。バッファローのかち上げ落下から足踏みによる蹂躙で意識を失った。





「痛ぇんだ……おふっ!?」


「キャッン!?」


 俺が身体を起こす柔らかい感触にぶつかった。

 慌てて頭を下ろすといい匂いのする枕がそこにはあった。


「ツバキさん。起きたんですね」


「この声はシロネ? という事には……?」


 顔は見えないが声はしっかりとシロネだった。しかも頭の下の枕がもぞもぞと動くのも感じた。

 つまり、俺は人生で初めての膝枕を経験中らしい。


「やっ、ヤバい……」


 初めての膝枕で凄く興奮する。そこへシロネの大きな果実が追い付いをかける。


 正面から見た時にデカいと思ったが、下から見てもデカいだと!?


「あの〜っ、起きたのでしたら退いて頂いても? その……結構な時間こうしていたので催してしまい……」


「あぁ、ごめん! すぐに退くよ!!」


 俺は彼女の膝を惜しみながらも急いで退くと彼女は急いでトイレへと行ってしまった。相当我慢させてしまった様だ。


 その後、帰って来た彼女と共に外へと出た。


「やっちまった……」


 俺は村の光景を目にして罪悪感が込み上げてきた。

 何処もかしこも緑一色。村の大人たちが総出で家に巻き付いた木々を刈り取っているのだ。


「おおっ、起きられましたか! ツバキ殿!!」


 俺に気付いた村長のダダンさんが作業の手を止めて駆け寄ってきた。


「ダダンさん。悪ぃな。村をこんなにしてしまって」


「何を仰る。自然を元に戻したのです。これくらいの被害は受け止めますよ!」


 そう言って豪快に笑うダダンさんなのであった。


「何か出来る事があったら力になるよ」


「いえいえ、そこまで手を煩わせる訳にはいきません。それにツバキ殿は大魔法を使われたのです。ゆっくりお休み下さい」


 ダダンさんに協力はいらないと断われてしまったので、俺はする事が無くなった。

 でも、何もしないというのは日本の気質なのか申し訳がない。


「「「「………」」」」


 そんな中、危ないからと参加出来ず、大人たちの作業を見詰める子供たちの存在に気が付いた。


「そうだ。彼らに協力して貰おう」





 それから1時間後。


「皆さ〜ん、差し入れです!」


 俺がそう叫ぶと村人たちが何だ何だと集まってきた。

 そこへ俺の指示で子供たちが小さなお饅頭を大人たちに配って回った。


「おっ、黒糖饅頭じゃん! 頂き!!」


 そこへ甘味に気付いたレオが飛来して貰っていった。


「餡無しだけどシンプルにうめぇな!!……なんだ、お前たち? 食わねぇのか? だったら俺が貰うぞ?」


「お前用はこっち。俺が別に作ったからこっちを食え」


「流石はツバキ! 分かってる!!」


「「「「………」」」」


 レオが美味しいそうに食べるのを見て大人たちも気になったらしく食べ始めた。


「あっ、甘い!一口に収まるのになんて甘さだ!!」


「疲れた身体にこの甘さが良いな!!」


「凄いでしょ! ボクたちが作ったんだよ!!」


「「「「えっ?」」」」


 これには大人たちも驚いたらしく、目を白黒させて子供たちを見ていた。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




「君たち。大人の役に立ちたくないかな?」


 手持ち無沙汰だった俺は子供たちのグループへと声をかけた。


「あっ、神様のお兄ちゃん!」


「神様! ボクはお父さんの役に立ちたいです!!」


「神様! 私も!!」


「………」


 どうやら子供たちの間で神様として定着してしまったらしい。

 なんか本当の神様には申し訳ないが、子供のあだ名付けだと思って勘弁して貰いたい。


「それじゃあ、ついて来てくれ」


 子供たちをキッチンカーにある厨房へと案内した。

 結構な大人数になってしまったが、コレから作る物の戦力としては十分だ。


「まずは、鍋に黒糖と水を入れて火にかけます。コレをする時は大人に見て貰ってね」


 流石に子供だけで火を使わせるのは問題なので注意しておく。

 今回は俺やシロネが見ているので問題ない。指示に従い子供たちは鍋を火にかけて黒糖を溶かしていった。


「黒糖が溶けてシロップ状になったら火から鍋を離して容器に移し、あら熱を取ります。あら熱はなかなか冷えないのでその間に他を用意しよう。

 重曹を小さじ1杯から1杯弱程の水に溶かして何時でも入れられる様にしておく。

 それから小麦粉を振るいに掛けよう。そうする事で塊になり難くなったりするよ」


 容器に移すくらいは子供たちでも出来る様だ。

 ただ、危なっかしい子もいるので一人くらいは大人が必要かもしれない。


「よし。シロップのあら熱が取れたみたいだな。なら、次は用意していた物を順番に投下して混ぜ合わせるんだ」


 この時に混ぜ過ぎや練るのをは禁止など有るが、子供なのでいい感じに混ぜる事が出来た。


「生地が出来たら涼しい所で少し休ませる。その間は休憩としよう」


 冷やす事で生地が扱い易くなるのだ。

 うちには冷蔵庫が有るのでそこで15分ほど寝かせる事にした。


「それじゃあ、君たちの力を見せてくれ! ヘラで一口大を手に取り、こんな風に丸めるんだ。出来たら団子同士がくっつかない様に蒸し器に並べてね」


「うわぁ〜っ、泥団子みたい!!」


「見てみてシロネお姉ちゃん! 綺麗に出来たよ!!」


「うん。よく出来たね。えらいえらい」


「うわ〜ん、神様! ベタベタで丸まらないよぉ〜!!」


「手を洗ってもう一回やってごらん。今度は上手くいくから」


「あっ、本当だ!」


 子供たちは楽しいのか、キャッキャ言いながら次々にお団子を生み出していった。


「ここからは最終工程の蒸す作業だ。蒸し器で10分蒸すんだ」


 そして、完成した物を子供たちに持たせて外に出た。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇



「……ツバキ殿が教えたのですかな?」


「ここの常識か分からないけど、温泉にはお饅頭。コレは定番だよね? それに温泉だけで財政を立て直すのは難しいからもう一つくらい目玉があっても良いでしょ? 材料は少ないし、レシピと黒糖は後で大人に渡すから子供たちと作ってみてよ」


「なんとそこまで考えてくれたのですか? コレは何かで返さないといけませんね」 


 ダダンは少し考えて、何かを思いついた様に手を打った。


「そうだ。ツバキ殿の結婚式」


「えっ?」


「ツバキ殿とシロネの為に今出来る限り盛大な物を後用意しましょう! こうしちゃおれん。皆の者に伝えねば!」


「ちょっ!?」


 ダダンは俺が止める間もなく去っていった。


「……私を貰うというのは嘘ですか?」


 隣で終始見ていたシロネが寂しそうに見てきた。


「えっと……嘘じゃないよ。前から言ってる通り、こんな可愛い娘を嫁に出来るなら嬉しいのは確かだけど……シロネは本当に良いの?」


「はい。ツバキさんなら喜んで」


 女の子にここまでハッキリと言われると男冥利に尽きるというものだ。


「分かった。なら、妹さんの所に言って2人で告げよう」


「はい!」


 俺は2人で結婚の報告をしに妹さんの所へ行くのだった。

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