第8話 キジカ村

 天井がくの字に凹みエンジンもかからなくなったキッチンカーへ俺たちは乗り込んだ。


「……うん。エンジンはかからないな。まぁ、これからする事には関係ないけど」


「おい、ツバキ。お前、今から何するつもりだ? 何故か凄ぇ嫌な予感がするんだけど……」


「何って山を超えるのさ」


「どうやって……?」


「………(ニコッ)」


「おい、マジで何をするつもりなんだよ!?」


 レオは俺を問ただそうと顔に張り付いてきた。俺はレオを引き剥がしながら重要な事を尋ねた。


「一応確認だけど……教えて貰った障壁の耐久ってどのくらい?」


 各場所や各自に展開出来る事は以前の走行で確認済み。耐久に付いても車の最高時速でも壊れない事は実証した。


「障壁の耐久? そんなもの込めた魔力量次第だな」


「……前回の3倍で魔力を込めたらどのくらいまで耐えられる?」


「2倍じゃなくて3倍ともなると……スカイダイビングで大丈夫なくらい……」


「よし、展開」


「おい、待て!? なんだこの障壁は!? マジで3倍の魔力を込めてるじゃねぇか!?」


「レオ〜っ、俺やシロネみたいにシートベルトしなくて良いの? ケガはしないと思うけど吹き飛ぶよ?」


「説明しろ! マジで何する気だ!?」


「言ったでしょ? 粒子操作。粒子ってのは見えないけど常に動いてるよな? この下の地面もそうだ。粒子操作でその動く向きを一方向に向けるとどうなるでしょ?」


「そんな事すると光速で動くカタパルトが出来……」


 理解と同時にどんどんと青ざめるていくレオ。


「シロネ。しっかりしがみつけよ!!」


「はっ、はい!」


「ベクトルレーン!!」


「ちょっ、待……っ!?」


 俺がアビリティのワードを唱えると視界のレオが背後に吹き飛んでいった。


「「っ!?」」


 そして、俺とシロネはジェットコースターが登る時みたいに座席の背もたれへと思いっきり押し付けられた。

 しかし、障壁のお陰か痛みなどはない。むしろ柔らかい何かを挟んでいるかの様に感じた。

 余裕が出来たのでレオが吹き飛んだ先を見て見ると奴も俺たちと似たように壁へ張り付いていた。


「おまっ、ふざけんな……」


 どうやらレオも無事らしい。壁に張り付いて文句を言っている。


「あっ、空が綺麗です……」


 シロネの言う通り前方と左右を空の青色のみが見えていた。


「村までどれくらい?」


「村ですか? え〜っと……下っ!?」


「真下か。圧力」


「きゃっ!?」


 ゴンッという音と共に運転席が空を向いた。

 何をしたかと言うと俺が車体の後ろに圧力を加えて向きを変えたのだ。


「今から当キッチンカーは落下します」


「「もう落下してます/るよ!!?」」


「うん。知ってる」


 俺は片手を伸ばし、壁からフロントへと飛ばされてきたレオを空中でキャッチして引き寄せた。


「なぁ、それで耐えれそう?」


「やる前に言えや!? 保険で二重にしてろ!!」


「了解〜」


 俺はレオに言われるまま障壁をもう一枚追加で張るのだった。




 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 ツバキたちがスカイダイビングを行っている頃、真下にあるシロネの故郷『キジカ村』では騒ぎが起きていた。


「ハッ!? 神から! 神から新たな神託が降りました!!」


「「「「なんだって!? 人を集めろ!!」」」」


 神託を受けた巫女の話を聞くために村人が集められた。


「それで巫女様! 神託とは雨の事でしょうか!?」


「そこまでは分かりません。ただ、私は降った神託のみを告げます」


 そして、巫女の神託が始まった。


「白き娘と獣を従えし者が星と共に舞い降りる。血塗られた祭壇は砕け、大地も砕く。大地は痛みで嘆き、白き涙を流すであろう。以上です」


 神託を言い終えると巫女は震え出した。その目には涙が浮かんでいる。


「……それとこれは私事なのですが、本日で巫女を辞めます」


「「「「「えぇーーっ!?」」」」」


 突然の宣言に村人たちは驚きの声を上げた。


「神はもう神託を与えないそうです。これからは巫女も儀式も止めて過ごしなさいと言われました。……グスッ。生贄なんて考えた罰だそうです……」


「「「「「………」」」」」


「私、今まで巫女しかして来なかったのに……。神よ、これからどう生活しろと!?」


 大泣きしだした巫女を村の女たちが駆け寄り慰める始めた。

 その間、男衆たちは集まって今の神託について話し合う。


「巫女様の事はとりあえず放って置いて白き娘……シロネの可能性が大きいな? だとしたら、目的の人物も見付けたのだろうか?」


「だが、後半のはなんだ? 血塗られた祭壇? 儀式場の事か?」


「星ってのも気になるな。今は昼だってのによ?」


「まさか、今から星が降って来るとか?」


「バカ言うなよ。空は今日も至って普通……」


 その村人は空を見上げたまま固まってしまった。


「おい、どうしたよ? 空を見詰めて固まるなんて。本当に何か落ちて……?」


 それを見ていた他の村人も気になって空を見上げると同じ様に固まってしまうのだった。

 そして、誰が呟いた。


「うん。星だわ」


「「「「「「っ!?」」」」」」


 それを聞いて皆は直ぐに正気に戻った。


「全員退避!! 巫女様の屋敷から離れろ!!」


「ただ逃げるだけじゃダメだ! 家を盾にして隠れるんだ!! 巫女様の家の面した裏手に逃げ込め!!」


「女や子供を優先して隠せ!みっ、巫女様も泣いてないで急ぎ避難を!!」


「えっ? えっ?」


「こっちだ!手を!!」


「アナタ? 何か起こるの?」


「あとで話す!何も聞かず直ぐについてきてくれ!!」


 男衆が慌てて避難誘導を行うと女衆は意味が分からず困惑するも支持に従い避難する事にした。


「マナト? 一体、男衆は何を考えているの? この避難は何の為?」


 家の裏手へと避難した巫女は自分の手を引いてここまで避難させてくれた幼馴染の男性に声を掛けた。


「カンナ……」


 マナトは可哀想な物を見る目で巫女であるカンナに告げた。


「心を強く持つんだ。例え……」


「例え?」


「家が無くなっても」


「はい?」


 マナトが何を言っているのか分からない巫女へ他の男性の叫び声が聞こえてきた。


「来たぞ!!衝撃に備えろ!!」


「っ!?」


「えっ!? ちょっ、マナト!? 突然抱き締めてどうしたの!?」


 マナトは男性の叫びを聞くとカンナを強く抱き寄せた。


「わっ、私としては嬉しいだけど……巫女という立場が……」


「口を閉じて少し黙って!!」


「はっ、はい!」


 マナトの真剣な眼差しに覚悟を決めたカンナはその時が来るのを目を瞑って待ち構えた。


「(ああ、他の村人も側に居るのにこんなにも大胆に求めてくれるなんて! やっと思いを告げてくれるのね!!)」


 そんな風に期待に胸を膨らませた巫女を強い衝撃が襲った。周囲でも自身と同じ様な悲鳴が響き渡る。


「きゃあ!? いっ、一体何よ! せっかくマナトと良い雰囲気だった……のにっ!?」


 衝撃でマナトと共に倒れた巫女は衝撃の元を見ようと目をやって愕然とした。


「わっ、私の家がぁああーーっ!?」


 そこには巫女の家へ垂直に突き刺さるキッチンカーが有るのであった。





 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇




 着地の衝撃は思いの外強く障壁越しとはいえ激しく揺れた。


「いっ、生きてるか?」


「きゅう〜〜……」


「なっ、なんとか生きてるぜぇ……。無茶しやがって……」


 心配して見るとシロネが目を回しているだけで皆が無事なのが確認出来た。


「レオは一人で出れそう?」


「出来なくはない。でも、窓を開けてくれると助かる」


「今開ける。ついでに先に行って村人に説明してくれないか?」


「ok。さっさと来いよ」


 レオを開けた窓から出すと今度は手を伸ばしてシロネのベルトを外した。


「シロネ? 着いたよ?」


「きゅう〜〜……」


「あっ、ダメだ。まだ気を失ってる」


 シロネはどうやら着地のショックで気絶してしまったらしい。


「仕方ない。俺が降ろすか」


 幸いにもドアの外は直ぐに屋根だったので助手席へと簡単に移動する事ができた。

 その後、ドアを開けて彼女を引きずり出す事に成功した。その際に背中を覗くと彼女にあった呪いのアザが綺麗に消えていたのだった。


 全てが順調で安心した。でも、ここで問題は起こってしまった。


「どうやって降りよう」


 高さ的には2階。飛び降りられなくもない。

 ただし、その手には女性を一人抱え中。このまま飛び降りたら確実に俺の足が終わる。


「う〜ん……おっ?」


 悩んでいると足元に風が吹き俺たちの周囲を包み込んだ。

 そして、ゆっくりと浮かぶと地面へと降ろしてくれた。


「まだ、こういうのは使えないと思ってな」


「悪い。助かった」


 どうやらレオが気を効かせて降ろしてくれたらしい。


「シロネお姉ちゃん!!」


 声のした方を振り向くとシロネを幼くした様な女の子がこちらへと走って来るのが見えた。

 また、その後ろからは泣きそうな顔をした妙齢の女性がついて来ていた。


「アレがシロネの妹だってよ。そんで後ろのがこの村の代表を務める巫女だとよ」


「彼女が……」


 色々神託やら何やら行った人か。なんか凄く辛そうなんだけど?


「そういえば、巫女からお願いされたんだったわ。家に刺さったキッチンカーをどうにかして下さいだってよ」


「どうにかって……とりあえず収納するか」


 俺がキッチンカーを収納すると家にはぽっかり大きな穴だけが残された。


 ドゴォーーン!


 キッチンカーが消えた後、轟音と共に穴から水柱が立ち昇った。予想外だっだが、これなら雨も要らないと思いきや。


「これなら水問題も……んっ? 熱っ!?」


「お湯じゃねぇ?」


 良く見たら水だと思った物からは湯気が出ていた。飛沫が顔にかかるととても暑かった。


「なぁ、レオ。温泉って飲めるっけか?」


「知らねぇよ?」


 どうやら水問題は解決していないらしい。

 そして、レオが巫女だと言っていた女性は膝から崩れ落ちていた。

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