第7話 ドライバーキャット
「俺が離れれば勝手に解けるみたいだから安心すると良い。まぁ、解けなくても数分後には解除するから勘弁な」
「「………」」
世の中金だと再確認した。男たちにダイヤモンドを渡すととても大人くなった。……というか、コイツら本当に話を聞いているのだろうか?
さっきからダイヤモンドを見詰めて動きもしない。
「まぁ、いいや」
今は無駄な事を考える暇はない。とにかく時間が惜しいのだ。
シロネの話では呪いの影響で何処に居ても村の位置と距離が分かるらしい。それによると現在ファンタジー定番の騎獣に乗って4日はかかる位置にいるとの事だった。
「レオに騎乗して行けないのか?」
「う〜ん、魔力が戻れば飛行出来るからそこらの騎獣よりは断然速く着くけど期限内には無理かな?」
レオの話では飛べたとしてもまともなスピードが出せないらしい。しかも本人の感覚が最低3日なだけで確実ではないらしい。
それを待つくらいなら少しでも距離を詰める方が良さそうだ。
「そこでちょいと提案。少し耳を貸せよ」
レオは俺の耳元に来るとシロネに聞こえない内緒話をしてきた。
「……よし、それで行こう。間に合うなら車が一時的に壊れても良いや。シロネは俺の隣に座ってくれ。運転の仕方を教えるからあとで交代してもらうよ」
「はっ、はい!」
シロネを助手席に座らせて車の操作を教える事にした。最短で距離を詰めるなら、交代しながら休みなく行くのが一番だろう。
運が良い事にキッチンカーはATなので動かすだけなら問題ないだろう。それに3日も経てばレオも短時間なら飛翔出来るとの事だった。
「それじゃ、行くよ。シートベルトはしっかりしてね」
「あっ、この紐ですね。分かりました」
「よし、大丈夫そうだな」
俺はシロネがしっかりとベルトをしたのを確認して、アクセルを思いっきり踏み抜いた。
「文字通り最短ルートで行く!!」
「えっ? ちょっ!? ぶっ、ぶつかる!?」
高速で動き出したキッチンカーは前方の木へと激しく激突した。
バキッ! ボキッ! ガン!!
「きゃあ~~っ!?」
強い衝撃音と共にシロネの悲鳴が車内に木霊する。前方では木は薙ぎ倒されて吹き飛んでいった。
「レオの提案通りだったな! これなら間に合う!!」
レオの提案とは障壁をキッチンカーの前方に円錐状に展開するといったものだった。
その結果は見ての通り、前方にある木々が棒倒しの様に次々となぎ倒されてるか吹き飛ばされるのであった。
「だろ? キッチンカーの馬力なら障壁さえ張れば難なく進むと思ったんだよ!そのまま行っちまえ!」
「おうよ!」
ここは異世界です。スピード違反? 交通ルール? 知らねぇ!!
俺はただひたすらに前だけ見据えてキッチンカーを走らせた。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「ジャイアントベアー……」
森にてジャイアントベアーと呼ばれる3メートルはあろうという巨体を携えた熊に似た魔物と対峙する冒険者たちの姿があった。
「(なんで新人講習の日に、こんなバケモノが出てくるんだよ!?)」
冒険者たちのリーダーを務めるカイトは皆を動揺させない様に心の中で現状を嘆いた。
彼は最年少にして誉れ高きSランク冒険者である。今回はそんな彼を信頼したギルドからエリート新人の教育を頼まれて平穏なこの場所へとやって来たのだ。
しかし、そこへ突如として現れた凶悪な魔物。自身だけならまだしも新人の警護も一緒となると苦戦を強いられる事となる。
「かっ、カイトさん! コイツってまさかっ!!」
「じゃ、ジャイアントベアーなのか!?」
「嘘だろ!? 冒険者数人がかりでも倒せないというあの!?」
命のやり取りに乏しい新人たちが動揺するのも時間の問題だった。
「落ち着け!ゆっくりと俺の背後に周り周囲の警戒をーーっ!?」
「ガルルゥゥ!」
新人たち落ち着かせ様と背後に気をやった瞬間、カイトの身体を大振りの手が凪払った。
「ぐっ!?」
「「「カイトさん!?」」」
何とか直接的な被害は剣でガード出来たものの、ジャイアントベアーの膂力により吹き飛ばされたカイトは木へと激突した。
「(不味い! アイツらとの距離が……)」
カイトが吹き飛ばされた事で足が竦み動けない新人たち。そこへジャイアントベアーがゆっくりと近付いていく。
カイトは偵察や索敵の為に木の上に潜んでいた者に助けを求める事にした。
「ナタリア! 新人が襲われない様に弓で奴の気を引いてくれ!!」
ヒュン! ヒュン! ヒュン!!
それを合図に魔法を宿した矢がジャイアントベアーへと降り注いだ。
「ガウッ」
しかし、あまり効果はないらしくジャイアントベアーの足が止まる気配はない。
「どうする? 魔法で目くらましをした後、新人だけで逃がすか?」
必死に攻略の思考を巡らせているカイトに頭上より危険が発せられた。
「カイト! 何かが森の木々を倒しながら高速で子っちに向かってくる!!」
「この上、更に魔物の追加ってかよ!!」
痛みに耐えながら立ち上がったカイトは逃がす事を優先し、新人たちへと激を飛ばした。
「根性みせろ! 殿を務めるから俺の背後から逃げて生き延びろ!!」
「「「っ!?」」」
激が聞いたのか、死の恐怖が限界に来たのか。新人たちは自分の方へと走り出した。
「よし、コレで心置きなくーー」
「来た!!」
ナタリアの叫びと共にカイトの視界の端から巨体な物体が木々をなぎ倒し森から飛び出してきた。
バキッバキッ!ギュルギュル!ガンッ!!
その物体は止まることなくジャイアントベアーへ向かい。
「ギャウッ!?」
「「「「「えっ?」」」」」
盛大に吹き飛ばすとそのまま去っていった。
あとに残るのは車輪の轍と物体の背面。それから
「クゥ〜ン………」
弱々しく鳴いた後、全く動かなくなったジャイアントベアーだった。
「いっ、今のは……馬車なのか? 中に2人ほど見えたし」
「アレで馬車!? どんだけ硬いんだよ!? 鋼鉄の塊じゃないのか!?」
「鋼鉄の馬車か……? 聞いた事はないが、俺たちが彼らに助けられた事実だな」
これが今後長い付き合いになるカイトとツバキの出会いだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「………なぁ、今何か轢かなかった?」
「ふぇっ? すみません。恐怖で顔を塞いでいたので良く見てませんでした」
「むにゃむにゃ……」
「シロネは見てない。レオは器用に空中でお昼寝。つまりは気のせいだな!」
ちなみに当の本人であるツバキはこの件を忘れる事にしたので、カイトに言われるまで完全に忘れてたいたのであった。
丸一日運転すると俺たちは森を抜け出した。
目の前には広々とした平原が広がっている。遮蔽物も無く気持ち良い程に運転がしやすいので、シロネの練習も兼ねてここで交代する事になった。
「凄いです!馬車よりも操作し易く……スピードが出ます!!」
シロネに簡単な説明を行い運転させてみた。
彼女は呑み込みが速いのか、あっという間に操作技術をマスターし車の虜になってしまった。
「ツバキさん、疲れてません? 交代しませんか?」
「いや、今交代したばかりだよね?」
彼女は運転を交代しても物足りなさそうにハンドルの方を見詰めてくるのだった。
「ねぇ、この後の道のりってどうなってるの?」
「え〜っと、森を抜けて平原に入りましたので、……次は岩山ですね。それを越えると直ぐに村へと着きますよ」
「なんだ余裕じゃないか。それなら明日には着くな」
………その時、俺は本当にそう思っていた。
平原を抜けて岩場に辿り着いた俺たち。
「「「しっ、死ぬかと思った………!」」」
言葉通りに死にかける羽目になった。
原因はキッチンカーの横転事故によるものだ。高速でスライディングして大岩へと激突したのだ。
皆と協力してなんとか車外に出て見ると、そこには天井がくの字に折れ曲ったキッチンカーの無残な姿があった。
「わっ、悪いぃ……」
「いや、そもそもレオにハンドル握らせた俺たちが悪いわ」
話は少し前に遡る。
「なぁ、車の運転ってそんなに楽しいのか?」
「うん?」
「どうしました、レオさん?」
「なんかさ、ツバキとシロネが嬉々として運転してるのを見てたらな……」
「私は楽しいですよ。帰るのが間に合わずに死んだとしても良い思い出になるほどに」
「不吉な事を言わないの」
「てへっ、ごめんなさい」
ツバキがシロネの頭に軽くショップすると彼女は笑って誤魔化した。そんなやり取りが彼女との距離が近くなった事を感じさせた。
「なあなあ、俺も運転出来ねぇ?」
「えっ? 私は良いですが……でも、レオさんだとアクセルやブレーキに足が届かないのでは?」
「おいおい、見ろよ。そんじょそこらの猫よりもスマートで長いオレの足を」
自慢げに伸ばして見せてくるレオの足は確かに他の猫に比べて細く、そして長かった。
「確かに思いの外長いですが……」
「それでも全然届かないからな」
「oh……やっぱりダメか……」
目に見えて残念そうにしているレオ。そんなレオを見ていたら俺はある事を思い出した。
「あっ、でも、ステッカーでハンドルを握るの猫を見た事が有るからハンドル操作ならイケるかもな。アクセルとブレーキは俺が踏めば良いしな」
「えっ、マジで良いのっ!?」
「うん。良いよ。レオの手を貸してくれ」
目を輝かせているレオにダメと言える気はなく、それ以前に猫が運転している所を見たいとさえ思ったので任せる事にした。
「よっしゃあぁぁっ!人の手ならぬ猫の手を貸してやるぜ!!」
こうして俺がアクセルを踏み、レオがハンドルを握る事でキッチンカーは動き出したのだった。
そして、起こってしまった横転事故。足場の不安定な岩場での可動域の少ないレオのハンドル捌きとスピードの出し過ぎが原因だろう。
「ヤべぇ……」
「だっ、大丈夫だって!キッチンカーには自己修復機能が有るから明日か明後日には復活するさ!」
一度収納して再度出してみると車体は起き上がり塗装も少しは回復していた。
凄いなこのキッチンカー! マジで明日には治るんじゃねぇ?
「いや、心配してるのはそっちじゃねぇよ。シロネ件だわ。オレの魔力がまだそんなに回復して無いんだよぉ……」
「マジかよ……」
俺はレオの言葉に血の気が引いた。呪いの日数から明日の日の出までに村へ着かないとシロネが死んでしまう。
「でっ、でも、この岩山さえ超えれば直ぐのはず……?」
「この山を徒歩で超えるのか?」
「………」
俺の背後にそびえる岩山は人の足で超えるには1日を要するのは目に見える程に高かった。
「そうですね。もし、超えられたとしてもそこから村まで半日。もう間に合いませんね……」
シロネは悟りきっているのか、その表情はとてもスッキリしたものだった。
「何かないのか!? この状況を打開する術は!? レオはダメ。シロネも無理。なら、頼れるのは俺自身。魔法は知識不足。アビリティなら……」
俺が頭を抱えて座り込み悩んでいるとシロネはそんな俺に対して優しい声をかけてきた。
「もう諦めて良いんですよ。ここまでありがとうございます。私をツバキさんに捧げますので残り日数好きにして下さい」
「あ〜っ、もう、だから、本人が諦めるなよ!?」
勝手に救おうとしてる俺もどうにかしてるけど、全てを諦める掛けてるシロネにもイライラした。だから、こんな事を言ったのかもしれない。
「シロネ!さっき言葉に二言は無いよな!?」
「えっ? はい。妹を救ってくれるのでしたら……」
それを聞いて、俺は後にやり直しをする事になる言葉を彼女に告げた。
「よし、決めた! シロネを俺の嫁にする! そんで意地でも期日内に連れ帰って救った妹さんの前で宣言してやる!!」
「はぁあ!?」
流石にこれにはシロネも驚いた様だ。俺はそんな彼女の手を握りキッチンカーへと向かう。
「シロネ。レオ。車に乗り込め! シートベルトは必ずして頭を守るんだぞ!」
「おいおい、ツバキ。何をする気だ?」
「粒子操作を使う!」
それは俺が悩んだ末におもいついた秘策だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます