第2話 色々貰いました
「それで、何を頂けるんですか?」
俺は、3人に聞いてみた。見た目が少年みたいだが、神見習いだから丁寧に接した方が良いかな?
「
だから、今からするのはキャラを作る段階かな?
どんな技を持たせようかって話だし。実際に僕らが与えられるのも戦闘系だけだからね」
こんな風に丁寧に説明してくれたのは、最初に出会った神見習いの子だった。
「話し方が違うくないですか?」
「あれは、神っぽい振る舞いをしたくてやった事だから……」
こっちが素なんだよと言う神見習いは恥ずかしそうだった。
「所で、そろそろお名前を教えて頂いても? 名前が無いので、呼び辛いのですが………」
「あっ、そうだったね。ボクは、アカシ」
「俺は、アオメ」
「ワテは、キガネや。よろしゅうな!」
やっぱり、信号機やん。多分、神様もそう思ってる気がする。
「どうも、お三方よろしくお願いします」
自己紹介が終わった後、神見習いたちの会議が始まる。
「とりあえず、鑑定能力は必要だろ? 彼は向こうの知識が無いし、植生や呼び名まで違うものさえある。情報は、彼の命にも直結する」
アオメさんはさっきと違い大人しくなったが、堅物そうな印象は変わらなかった。
「あっ、それは欲しいです」
「ほな、ワテがあげよう。これでも鑑定には自身があるんや」
「そんな気がしましたよ。お願いします」
キガネさんに関しては、全く変わってないな。うん。
「ほな、行くで」
キガネさんが俺に触れると何かが流れ込む感じがした。
その後、身体の底に燃えるような火を感じる。
「よし、決めた。僕は、君が圧力を操作出来る様にしよう。攻撃としても日常でも使い易いからね」
「圧力? 圧力鍋的な?」
「それだけじゃないよ。気圧、水圧、電圧なんかも含まれるね。とりあえず、君の知識でも使えると思ってね。天気予報とかでも聞くでしょ?」
「あっ、天気圧。高気圧なら晴れるって、アレですか?」
「そうそう、そんな感じ。一応、少しは知識もあげるから大丈夫だよ」
そう言って、アカシさんが俺に力を流し込んだ。
それと同時に簡単な使い方がイメージとして流れていった。
「なら、私はコレだな。最高の能力をあげよう!それは、『分子操作』だ!」
「「「………」」」
ドヤ顔を晒すアオメさんに対して、俺たちは沈黙した。
「どうした? 嬉しく無いのか?」
「いや……イメージが出来なくて。どんな事が出来るです?」
分子を操作出来ると言われても全くイメージが出来ない。
確かに、ラノベとかで書いてある事もあるが、あれはタダのチート能力だしね。
「そうだな。簡単な物なら水の分子運動を停止させて氷に、炭素の分子配列と結合力を弄ってダイヤモンドにも出来るな」
「下さい! ついでに、知識も下さい!」
予想通りの能力に歓喜した。ちゃんと知識も下さいよ!
「そうだろう!そうだろう!」
俺の反応に凄く喜び、力をくれるアオメさんだった。
なるほどなるほど。酸化に還元、分解、構成。
凄いなコレ。イメージのお陰である程度使い方が分かったけど、チートっぽい能力だよ。
「椿はん。ちょっと、こっちへ来てくれへん?」
「貴方にだけ大事な話があるです」
2人に呼ばれて行くとアオメさんに聞かれたくないらしく小声で言われた。
「椿はんも分かってはるですよね?」
「その力は、ボクの奴よりも使い辛い能力ですよ。なんせ、神並の分子知識がないとフルに使えないですから」
確かに、教えて貰った知識は一部のものだろう。
しかし、俺が食い付いたのは別の目的の為だ。
「ダイヤモンドって異世界でも売れますよね?」
アオメさんに見えない様に指をマネーの形にして2人へ見せた。
「あっ、そういう事。確かに異世界での路銀は必要ですよね」
「安心してええよ。高値で売れるから」
よし、貰って正解だった。
一応、知識によると攻撃としても防御としてもかなり使えるみたいだから最高じゃないか。
「俺に内緒で、一体何を話してるだ?」
怪訝そうな顔でこちらを見詰めるアオメさん。
「ちょっと、さっきの能力の事で伝え忘れてたんや。鑑定眼で食品の鮮度も見れるって事をや」
えっ、それは知らないですけど。鮮度が見れるの? 便利じゃん!
「僕も分子操作と圧力と組み合わせれば、雨を自在に降らせれると教えていたんです」
もう完全に天候操作じゃん! これなら水に困る事が無いね!
水は人間が生きる上でかなり重要だから無いと困る。
「確かに雲が出来ても、水滴が大きくならねば雨にはならないな」
「でしょう? だから、それを教えていたんです」
「そうか。俺の能力のお陰だな!」
「あははっ……」
なんとかアオメさんを俺たちは誤魔化す事が出来た。
それか数分程して神様が帰ってきた。
「終わりましたか?」
「あっ、おかえりなさい。今、受け取った所です」
「それは良かったです。私も準備できましたよ」
その手には色々握れていた。
右手には銀色に光る鍵を持ち、左手は翼の生えた黒猫のヌイグルミの首を持っている。
それが気になって見詰めていると尻尾がピクッと動いた。
「あの〜っ、そのヌイグルミは?」
「これは、椿さんの相棒としてサポートをしてもらう"レオ"君です。ほら、挨拶しない。貴方の主になるのだから」
「どうして俺が……戸棚に隠していたケーキを食べただけなのに……」
「うん。それが原因だよね、猫ちゃん」
「誰か知らねぇが、俺は猫じゃないぞ」
思いの外、男前の声で答えられて。
「まぁ、確かに翼が生えた猫は居ないよね」
「黒豹だ」
「豹!?」
何処からどう見ても翼の生えた猫にしか見えないんですけど!?
何処に、黒豹の要素が有るんだろう?
確かに、黒豹も猫科だった気が………そういう事なのか!
「何を納得してるか知らんが、これは仮の姿だぞ」
「えっ、そうなの?」
「ええ、私のケーキを食べた罰として、この姿にしました。契約者が許可しないと元の姿に戻れない様にしてます」
「おっ、お前っ、神様のケーキを食べるって!?」
どんだけ命知らずなんだよ!よくその姿で済まされたな!
「まぁ、この姿も悪くない。普段なら一口で食べるケーキが、巨大なケーキになるからな。アレは、良いものだ。全身でクリーム埋もれる感じも」
どうやら、この猫は甘党の様だ。仲良く出来る気がする。
「それじゃあ、契約権を椿さんに移しますね。後、私の付与する力も一緒に渡します」
神見習いと同じ様に手が触れてからは色々と流れ込む。
しかし、その変化には凄い差があった。
例えば、レオとの繋りを強く感じる様になった。目を瞑っても何処にいるのかを感知出来る。
それと能力。神見習いよりも鮮明な能力のイメージが流れてきた。
頂いた能力は、生産系の能力を2つ。
まず、砂糖生成。
液体から粉末、固体まで各種砂糖を生み出すことが出来る様だ。
しかも、上白糖にグラニュー糖、黒糖にと種類も豊富で選べるとは至れり尽くせりだ。
そして、もう1つが醗酵。
対象物の醗酵を促す効果が有るらしい。
具体的に言うと酒だな。材料を樽に詰めて、能力を発動させれば酒になるそうだ。これは実際に試さないと分かり辛そうだ。
でも、酒は大変助かる。ケーキやチョコ等、色々な場面で香り付けや隠し味として使うのだ。
能力によると材料には制限が少ないみたいなので、道中手に入れた果実を酒にするのも良いかもしれない。
「小麦や牛乳、卵に関しては手に入らなくは無いので、入手困難な物にしました。
砂糖などは、とても高価であまり市場へ出回っていませんからね。
発酵は、酒やバターの為にと思いまして。特に、発酵バターの方が椿さんも馴染みが有りますよね?」
「確かに、ヨーロッパでは発酵バターの方が多いですね。私もよく使いました」
元々、発酵バターは保存技術の不足から生まれと言われている。その為、自然と発酵が進んでしまい出来たのだと。
しかし、技術の進歩とともに非発酵バター。つまり、俺たちが日本でよく使うバターが誕生したそうだ。
「後は、器具ですね。材料が有っても器具無いと困ると思い用意しましたよ。私の要望も合わせたので、気にいって頂けると思います。どうぞ」
「あのっ……これは?」
神様に手渡されたのは、ミニチュア。レオをモデルにした猫バスみたいなキッチンカーだった。
「砂糖で動くキッチンカーです。圧縮して持って来たので、向こうに行ったら広い所に置いて下さい。そうすると通常のキッチンカーに戻ります」
おかしい。俺の耳がおかしくなったみたいだ。
「………砂糖?」
「砂糖」
「キッチンカーの燃料が砂糖? バイオエタノールじゃなくて?」
「砂糖です。内部のタンクに詰めれる砂糖ならば何でもokです」
「どんな構造してるの!? そんな車、聞いたことないんですけど!?」
「そこは、神の秘密です」
「神様、すげえ!!」
俺は、能力のお陰で砂糖を無限に生成出来る様になった。
だから、燃料を買う必要も探す必要もないじゃないか!
「後、自動修復機能が備わっていますので、大破しても翌日には元へ戻っているでしょう」
「凄すぎませんか! そんなのを貰っていいんですか!?」
「ええ、こちらからお願いすることなので、これくらいは当然ですよ。後は、レオも持っているコレですね」
次に手渡されたのは、銀色の鍵だった。
「少しそのままで持っていて下さい」
神様が懐をあさり始めたので、手の平の上に鍵を置いた状態で少し待たされた。
そして、神様が取り出したのは、赤い液体の入った試験管だった。
それを鍵の上に垂らすと変化が起きる。銀色に輝いていた表面が一瞬で錆びた様に赤黒く変色し、元の銀色に戻った。
「えっ?」
先程の変化にも驚いたけど、次の変化は更に驚くものだった。
手の平に上で、水面に落ちた雫の様に鍵を中心とした波紋が起きたのだ。
そして、手の平の中に沈んでいき、元から何も無かったかの様にただの手の平へと戻った。
「コレで、銀の鍵の登録は終わりです。その鍵は、生涯椿さんと共にあるでしょう」
「あのっ……今のは?」
「おっ、銀の鍵を貰ったのか? 良かったな。神以外でそれを持つなんて珍しいんだぞ」
神様が手を離した事で、レオは宙を飛び俺の元までやって来てきた。そして、目と鼻の先で空中に留まっている。
「俺からしたら君の方が珍しいよ」
翼をパタパタさせていないのに宙に浮いているのだ。今のも不思議だったが、これの方が不思議でしょうがない。
「そろそろ、俺の名前も普通に読んだらどうよ? 否応ながら、お前さん……椿だっけ? アンタが死ぬまで相棒をする事になったんだからな」
「そうなのか、レオ?」
「おうよ。次からもその調子で頼むわ。それで、銀の鍵が気になるのか?」
「あっ、うん」
俺は、レオに向かって頷いた。
「それは、天の門を創る鍵さ」
「天の門? 何それ?」
「簡単に言うと
「車で直ぐに行けない距離も一度行ってしまえば自由に行き来出来ますから役に立つと思いまして」
「マジで至れり尽くせりですね」
「その分、期待してるんですよ」
「分かりました。頑張ります」
「それでは、そろそろ向かって貰いましょう。レオ頼みましたよ」
「安心しろよ。やるからには、しっかり役目は果たすぜ」
そう言って、俺の頭の上に登ってだらけるレオ。マンガとかではお馴染みだが、これが思いの外重い事を始めて知った。
「重い……」
「省エネだ省エネ。転移範囲を小さくするためのな。転移が終わったら降りてやるからよ」
「え〜っ……」
「さっそく、仲が良くなったみたいですね。嬉しいです。それでは、転移を開始します!」
神様の宣言と共に俺とレオをキューブ状に包む魔法陣たち。
「行く先は、異世界『モンドル・ノウ・スクレ』。貴方が、かの世界を甘くしてくれることを期待してますよ。お達者で」
パンッ!
挨拶と共に弾ける様な閃光が走った。俺は、眩しさのあまり目を閉じてしまった。
そして、目を開けた時には綺麗な湖畔のほとりにレオと佇んでいたのだった。
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