第16話 凛の気持ち(広夢視点)
「広夢くん。凛が·····亡くなったの」
耳を疑った。
おかしい、何かの間違いだと。
だって、昨日は、「良くなる」と言っていたじゃないか。
だって、昨日は、俺と会話していたじゃないか。
だって·························。
そんなの、おかしい。おかしすぎる。
「昨日から、具合が急変していて。広夢くんが帰ってから、急によ。でも、いつかこうなるはずだったの」
「どういうことですか」
「凛は、小さい時に余命宣告をされていたの」
「え?そんなこと、凛は一言も」
「本人に伝えたのは1か月前ほどなんだけどね。穏かな顔で頷いて、『広夢くんには伝えないでください』とだけ言っていたの」
「·····」
「とにかく、病院に来てくれる? 凛に会ってあげて?」
「は、はい·····」
電話を切り、
「ちょっと行ってくる」
とだけ言いおいて走った。
バスに乗る時間も惜しくて、ひたすらに走った。
二十分ほど、走る間に。俺は、凛のことをひたすらに考えていた。
まだ、信じられない。
凛の母親と凛で騙しているんじゃないか。
病院に行ったら「引っかかった」と笑う凛がいるんじゃないか。
夜中に電話してくる訳は? 別に日曜でも良いはずだ。
そう、冷静な自分が問いかけてくるけれど、そんな少しの無理を押し通してでも、俺は凛に生きていて欲しかった。
病院につくと、凛の母親がエントランスにいて、
「広夢くん!」
と呼びかけてきた。
俺たちはそのまま、凛のいる部屋に行った。
凛は、病室ではなくどこか別の部屋にベッドごと移されていた。
凛の母親がゆっくりとドアを開け、待ちきれずに俺が中に飛び込むと。
広い部屋の中、白いベッドに横たわる凛がいた。
「え、嘘、だよな?」
「·····ほんとよ。凛が心臓病で余命宣告を受けていたことも、そして、今日亡くなったことも」
凛の母親は、感情の無い声で俺に淡々と事実を突きつける。きっと、それを言うのも辛いはずなのに、俺に理解させるためだけに言ってくれてたのだろう。
――本当なんだ。凛は、「すぐ死ぬ訳じゃないよ」って言っていたけど、本当は気づいていたんだ。そして、昨日も俺を安心させるために嘘をついた。
覚悟はしていたけど、凛が亡くなったことの衝撃は予想していたよりもっともっと大きかった。
凛は――――死んでしまったんだ。
凛の顔を、凛の母親が見せてくれた。
穏やかで、優しい顔。
凛は、本当に頑張っていたんだ。
この、すっかり痩せている体で。
俺に、心配をさせないように。
凛。凛。
凛に呼びかけたけれど、応えてはくれない。
もう、凛が俺に笑いかけてくれることは無い。もう、話しかけることは無い。
その事実が、重すぎて。悲しむことが出来ない。
ただただ、呆然とするだけ。
凛はもういない、この世界のどこにもいない。そう頭で分かってはいても、どこかでそれを認めようとしない俺がいて。
寝て、目を覚ましたら凛が笑いかけてくれるんじゃないか。
しばらくしたら凛が「びっくりした?」といたずらっぽく微笑んでいるんじゃないか。
現実感がまるで無かった。
しばらくして。
「広夢くん、凛と仲良くしてくれてありがとう。あのね、凛から広夢くんに渡して欲しいって言われてたものがあるんだけど。受け取ってくれる?」
「·····はい」
「ありがとう。じゃあ·····はい、これ。」
俺に、凛が残していたのは手紙だった。
「読んでいいですか?」
「ええ。」
白い封筒から便箋を出して、読む。
凛が、俺に残した、手紙を。
今の俺に宛てた、メッセージを。
手紙を、読み終わった頃。
俺は、静かに涙を流していた。
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