第15話 大好きな凛(広夢視点)

コンコン

「はぁーい」

ガラガラガラ

「凛。久しぶり」

「久しぶり!」

もう、恒例となったやり取り。

でも、今日は何かが違った。



凛は俺とベッドに寝たままで会話していた。



カレカノになった初めの時は、凛がドアを開けてくれた。

それから一週間後に行った時も。

でもいつだったか、「入っていいよ」と言われて。中に入ったら、ベッドの中で上半身だけを起こした凛がいた。

それがしばらく続き、今日は上半身も上げずに横向きに寝ている。



些細なこと、かもしれないけれど、俺は不安が押し寄せるのを感じていた。

――起き上がる気力もないってことなのか? それとも、ただ疲れてるだけ? いや、でもこんな直ぐに具合が悪くなるわけない。だってつい二、三か月前には元気にカフェにも行けてたのに·····

「広夢くん?」

ドアの前で考え込んでいたことに気づき、凛のベッドの傍の椅子に腰掛ける。

「今日はちょっとこの体勢でよろしくね」

笑顔だけは変わらず、「今日は具合がいいの」とでも言っているかのように軽く言う凛。でも、言っていることは反対だ。

取り繕って微笑めるだけ良いのか、それとも笑顔で取り繕うしかないほどに辛いのか。

なんなんだよ。そんなに悪いのかよ。

問い詰めたい気持ちを、

「凛、辛かったら言えよ」

その言葉に変えて吐き出す。

この言葉は付き合い始めてから何回目だろうか。凛はきっとこう言って笑うだろう。「うん、ありがと」

でも、今日は違った。凛は、俺を見てなんだか悲しそうな顔をしている。

――なんだ? なにかあったのか?

俺は緊張して凛を見る。

凛は、俺の視線を受け止め、口を開く。

「あのさ。あの、その··········もう、あんまり会えないかもしれない」

「え?」

ずん、と空気が重くなったような気がした。

「どういうことだよ」

問い詰める声は、自分で思っていた以上にきつかった。

「え、えっと、あ、去年手術したときの痕が痛くて、だから安静にしていなさいって言われたってことだよ」

「·····」

つまり、どういうことだ?

「だから、その、傷が良くなるまではこうやって寝ながら会話するしかないから、あんまり楽しくないかもと思って」

「·····」

「広夢くんが良ければ、そりゃあ毎週会いたいけど、この前の中間テスト大変だったでしょ? だから、そろそろ期末あるしあんまり欲張って会うわけにはいかないかなと」

「それだけ?」

「え?う、うん。でも、大切なことだよ。だって、あんまり私が広夢くんを縛っちゃダメだもん」

脱力した。なんだ、そんなことかと言いたかった。

――俺を優しい凛が気遣ってくれただけなのだ。

答えが見つかれば、あとは納得するのは早かった。

「心配させんなよ。大丈夫に決まってんだろ。毎週会いに来るよ」

「·····ありがとう。でも、私のこと、あんまり構わなくて良いからね?」

「構うよ」

「·····ありがとう」

離れたくない。嫌われたとしても、そばにいて、痛みを共有するって決めたんだ。

俺は、心から凛のことが好きなんだと実感していた。

「凛は一時的に具合が悪いだけなんだよな?」

しつこいかもしれないが、大切なことだ。

でも、もしこれで違ったら·····そう思うと、多少声が震えたけれど、凛はしっかりと答えてくれた。

「うん。良くなったら、広夢くんと一緒の高校に行きたいな」

「そうだな」

この時の、凛のはっきりとした答えは覚えている。なんの迷いもなくはっきりと言ったように聞こえた。










でも、違った。









その次の日の夜。

凛の具合が急変して、亡くなったと、凛の母親から電話があった。

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