第14話 それから(広夢視点)

俺たちは毎週会うことになった。

そこに、気恥しさがなかったと言ったら嘘になる。でも、それよりも。あやふやな関係に名前がついた嬉しさの方が、圧倒的に大きかった。




ある日は、ふたりで広場に行った。

またある日は、カフェでお茶をした。

またある日は、凛の母親と会った。とても喜んでくれていて、電話番号まで交換した。

幸せな日々だ。言うまでもなく。

大抵は、俺が学校のことや、部活のこと、クラスメイトのことなんかをひたすら話して、それを優しく凛が聞き、相槌を打っていた。

凛は俺の下手な話を真剣に聞いてくれて、リアクションしてくれた。凛が驚いてくれるのが嬉しくて、外の暮らしに興味を持って欲しくて。




ふたりで黙って空を見上げた時もあった。

広場に行くまでは喋っていたのに、凛の指定席だというベンチに座った途端に凛が空を見たまま黙ってしまったから。

「なんだよ。どうかしたのか?」

そんな言葉は凛の顔を見た途端に消えた。

すごく幸せそうな顔で微笑んでいたから。

俺の知らない凛の一面だった。

俺に『心臓病』ということを伝えてくれた時。俺はまだその意味がわかっていなかった。でも凛の顔を見ていると自然と分かってしまう。その横顔は、儚くて美しい雪細工のようで。

――この顔を、何回見れるのだろうか?

そんな不安に駆られてしまう。

それほどに、その中には人じゃない何かの視点から世の中を見ているような、そんな「穏やかさ」が存在していた。


思わず、見とれていた。

凛が空から視線を外して俺に向かって笑った時は、もう俺の知る凛だった。

「広夢くん?」

その声が俺を呼ぶことは、あと何回あるのだろう?

考えちゃいけない、それは分かってて。

でも、それでも、考えてしまう。

凛はきっと、自分の症状が分かっている。


「広夢くん?大丈夫?」

目の前には、ひたすらに俺を心配する凛の顔。

目の前の凛がいなくなる、そんなことは考えられなかった。

「あぁ、ちょっとぼーっとしてた」

「変なの」

そう言って笑う凛は、俺を見つめている。凛の目は、俺だけを見ている。

その顔は、俺が凛の存在を感じるのに充分だった。


――凛の病気が治るのか·····治らないのか。そんなことは、俺にはわからないけれど。そんな俺に出来るのは、凛に寄り添うこと。凛のそばに居て、凛と笑って。

俺は、凛の微笑みを見ながら、そう思ったのだった。

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