第13話 残りの時間(凛視点)

今私は、病室で広夢くんと向かい合っている。

「凛、悩んでるなら言えよ?」

優しく微笑む広夢くん。

“悩んでるなら、言えよ”

···こんなこと言われたの初めて。しかも、広夢くんは私が勝手に巻き込んだだけなのに。優しすぎる。嬉しい。

「あ、りがとう」

でも、広夢くんのなにか期待するような目を見て少し辛くなる。

私には、命の期限があって、だから広夢くんとはあと少ししか居られないと思う。他の人には話せない。絶対に。だって、困らせちゃう。巻き込んじゃう。本当は話したい。でも話さない、話せない·····。

「好きだよ」

一瞬、いや二・三瞬、何を言われたのか分からなかった。

ん?好き?それは·····え?!えええ?!えええええ!

バチッと視線が絡み合い、ドキッとする。

広夢くんは真剣な目で私を見ていて、冗談を言っている感じではない。

·····本当に、私の事を好きでいてくれてるんだ。本気で、好きって思ってくれてるんだ。伝えてくれてるんだ。もうすぐ死んでしまう私だけれど。必要としてくれる人がいた·····

そう思ったら、止められなかった。

「う、ぅぅぅ〜〜·····ありがとう」

この言葉に、ありったけの想いを込めて。

「凛のことが心配なんだ。会ったばっかだしキモイかもだけど、なんか悩んでるって分かる。だからそれが心配で、力になれるならなりたい」

私の抱えてるものの大きさは、察してるはず。でも、それでも、こうして力になろうとしてくれる。なんで悩んでるかも打ち明けようとしない私に、自分の思いを伝えてくれる。

神様、私幸せです。

「·····ありがとう」

この言葉、神様にも届いてるかな?

「付き合って」

そっか。悩みを聞いてくれる、それだけじゃなくて、てくれるんだ。

どれだけ優しいの。広夢くんは。

本当に、出会えてよかった。

そう思ったら、また泣いてしまった。




「ありがとう、嬉しくて泣いちゃった」

私は、泣いてしまったことで恥ずかしい思いをしながらも、言葉を紡ぐ。

広夢くんは、私に思いを伝えてくれた。

だから、私も伝えなければいけない。

「うん」

広夢くんが、私を見る。

そう、今、言わなきゃ。

「私ね、先天性の心臓病なんだ」

軽く軽く、を意識したけれど、少し声が震えたかな。

「それも、結構重いやつ。だから、きっともう長くないんだろうなー。なんて思ったりして」

·····正確には、確実にんだけれど。

広夢くんに何か言われないうちにと思って、矢継ぎ早に喋ってしまったから、広夢くんは理解できないような顔をしている。

「え、えっと」

でも今がチャンス。

私が話せるうちに、話しとかなきゃ。

今なら、打ち明けられる気がする。

「だからダークモードなの、最近。心臓病なんて、聞くからにやばいでしょ?」

私はふふ、と笑っていた。少しでも与える印象が変わればいいな、なんて思って。

「それって·····悲しくないのか?」

え。その言葉は、意外だった。

意外すぎて、本当に悲しくなる。

これ以上思いが重くならないうちに、言ってしまおう。

「悲しいよ。悲しい。だから悩んでるんだよ」

「·····そっか」

広夢くんは、悲しそうな顔で黙り込む。

·····重い?いつ死ぬかわかんない子となんて、付き合いたくない?

気持ちが落ち込む。

確かめないといけない。こんな私とでも、付き合いたいと思うのかを。

「だからね、もしかしたら広夢くんといられる時間は少ないかもしれないよ??それでも、良いの?」

ここでダメって言われる可能性も十分ある。

広夢くんだからって、期待しすぎちゃダメ。

広夢くんが本当に思ってるのかを、見極めなきゃ。

「当たり前じゃん。俺は、凛が好きなんだって、言ったろ」

若干睨んでいた私に、広夢くんは穏やかな顔で宣言した。

ねえ、もう少し、欲張っても良いかな?

裏切られまくってもうなにも望まないと思ってたけれど、望むものができちゃった。

これはもう、止められない。

「そっか。そっか·····ありがとう。じゃあ、よろしくお願いします」

そう言った時の、広夢くんの顔。

私は、見とれていた。

「おう。凛が悲しまないように、凛が知らない楽しみを、教えてやるよ」

幸せを、噛み締めて。

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