第9話 病室にて(凛視点)

お花畑の中に、1人佇む私。

どこを見ても、この世界には私しかいない。でも、そんなことはどうでもよかった。

「ふふふっ〜」

自由に走り回り、花の匂いを満喫する。

幸せで、幸せで。

しばらくすると、空も飛んでいた。

見渡す限りの広い

なにも不自由がなくて、楽しくて。

凄く、嬉しい。



「おい、来たけど?」

(、、?何?)

私は、この声で目を覚ました。

目の前には、同い年くらいの男の子。

「誰?」

見たことがなくて、そう呟く。

その子は、顔を顰めて言った。

「寝ぼけてんの? 大丈夫か、凛?」

「、、、!」

突然に、私は思い出した。寝ぼけていたみたいだ。恥ずかしい。

「ご、ごめん!広夢くんだよね? そっか、もう日曜日なんだ。ちょっとまって!1回外に出て!」

私は、今問題集に頬を付けて寝ていた。

これは、頬になにか写ってるパターンだ。

とりあえず広夢くんを追い出して、洗面器の所まで行ってバシャバシャと洗う。

「お前、歩いて大丈夫なのか?」

「?! は?! 出ててって言ったでしょー!なんで入ってきてんの?!」

知らないうちにまた広夢くんが隣にいて、少しどころじゃなくびっくりしてしまう。

崩れまくった言葉遣いにはっ、としたが臆することなく、広夢くんは返事をしてくれた。

「だって、目を離すとなんか心配でさ」

「·····そう、ありがと」

私を見つめる広夢くんの視線が熱くて、恥ずかしくなって素っ気ない返事を返す。

―あんまり見つめられると、顔が真っ赤になっちゃうからやめて欲しいんだけど。


「でさ、凛問題集解いてたのか?」

しばらくして、落ち着いてベッドに戻った私に広夢くんが聞く。

「うん。だって、なんかやることないし、中学校に行く時に、困るでしょ?」

本当は、もう戻ることなんてないと分かっているけれど。それでも期待してしまっているところもある。やることないって言うのが大きいけれど。

でも、そんな思いをしらない広夢くんは、

「そっか。なら、凛は治るんだな、良かった。じゃあ俺がちょっと教えてやるよ」

治ると、勘違いしたみたい。

でも、ここで重い空気にするのもなんだかなぁ、と思って微笑むだけに留める。

「ホントに? いつも一人でやってたから、なんか嬉しいな」


「ふ〜っ。このくらいでいいかな?」

二時間後。広夢くんは、勉強している私の隣にずっといてくれた。

時折私が質問すると、

「え?! なんでかって? えっと、、、なんで?」

なんて言って、あんまり役に立たなかったのだけれど。

でも、真剣に悩んでいる広夢くんがおかしくて、何回も聞いてしまう。好きな人をからかいたい男子の気持ちがわかった。

「すごいな、凛。俺より頭良いんじゃね?」

「そうかな?ありがと」

·····頭が良くったって、時間がなければどうにもならないんだよ。私は、高校受験も大学受験も出来ないんだし、社会人になるなんて夢のまた夢なんだから。

そう考えてしまう私。卑屈すぎて、嫌になる。

「すごいな!絶対にトップの高校入れるじゃん!」

何も知らず、無邪気に私を褒めてくれる広夢くん。その整った明るい顔を見ていると、なんだか悔しくなってきてしまった。凄く、幸せそうな顔。自分が死ぬなんて、考えてもいない顔。自分がどんなに恵まれているかも、考えようとしていない。

「おい、凛? 大丈夫か? 俺、なんか悪いこと言った?」

気づくと、泣いていた。

はっ、いけない。広夢くんだけが悪いんじゃない。もうすぐ死ぬ、それが私の運命。受け入れようって、思っているのに。

ー大丈夫だよ、ありがとう

そういえたら、どんなに良いだろう?

でも、私はそれを言うことが出来ない。大丈夫じゃないって、心が泣き叫んでいるから。

「·····広夢くんは悪くないよ」

そっと言ったけれど、広夢くんはそれで誤魔化されてはくれなかった。

「なんだよ、じゃあなんで泣いてるんだよ?俺、凛のこと、全然わかんないけど、なんか大変なことを抱えてるのは分かるよ。悩んでるのも。俺でよければ、話し相手になるよ。なんか、このままだとお前がどどかない所に行きそうで、怖いんだよ。話して、くれよ」

「·····」

私のことを、泣きそうな顔で見つめる、広夢くん。でも、話すことはできない。悲しませたくない、のもそうだけれど、他人だから。

多分、その想いが顔に出たのだろう。さらに泣きそうな顔になる。

「凛?」

その声を聞いたら、急に我慢できなくなってしまって。

「広夢くんに、何がわかるの? だって、広夢くんは私が望むものをなんでも持ってる。自由な暮らしをしてるでしょ? 私のことも、なんにも知らないじゃん。それで何がわかるの?」

静かに、でも怒りを込めて問う。広夢くんはぐっ、と苦しそうな顔になった。

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