第8話 俺の思い(広夢視点)
「凛? だよな??」
俺がそう声をかけると、広場にぽつんとたたずんでいた(車いすで、だけどな)少女は振り向いた。
「そうです!」
にこ、と微笑みかけられて、少しドキッとする。なんでだろうか?女子なら、学校で嫌というほど見ているというのに。
「あの、ここではなんなので地下一階でお茶でもしませんか?」
自信なさげに見上げてくる凜に、俺は軽くうなずいた。
「あの、ミルクティとかコーヒーとかあるんですけど、どれが良いですか?」
「お茶でいいよ」
きっと、この子はなんかしらの病気に違いない。ばあちゃんはお医者さんからお茶以外を禁止されているようだし、一応茶にしとくか。
「あの、急に先週誘ってしまったせいで、だいぶ迷惑をおかけしたと思うんですけど」
凜は、ここでいったん間を置いた。なんだろう。
「私、小さい頃からずっと病院にいて、あんまり外に出たことがないんです。ここって私と同じくらいの子は少ないし、なんだか親近感が湧いたって言うか」
「うん」
「あの、とにかく、私、お母さんもお父さんも仕事でたまにしか会いに来てくれないし、結構つまんなくて。だから、あの、少しの間でいいので、話し相手になって貰えませんか??」
え。俺、だよな?俺は、カサカサになっていたくちびるを舐めた。
「別に良いけど。俺、ばあちゃんの見舞いで毎週来るから、その時で良ければ」
「え?!」
は?え、って何。あ?凜が言ってきたんだよな?
「あ、ええと。嬉しいです、ありがとうございます。じ、じゃあ、あの、とりあえず名前を教えてもらってもいいですか?」
·····とりあえず、こいつがすげえ自分に自信がないってことはわかった。
ってか、俺まだ名乗ってなかったのか。
「あ、うん。俺、橋本広夢。今中一。よろしく」
「あ、同い年なんですね!よろしくお願いします。」
同い年か。なら、話しやすいな。だいぶ砕けた言葉遣いだったから、年上だったらどうしただろうかと、今更思う。
「じゃあ、えっと。凛、も、中一?」
「あ、はい。ってか、同い年ってわかったんだし、敬語やめていいかな?」
「あ、オーケー。」
こっちとしても敬語で話されるのはやりにくかったから、大歓迎だ。
「で、さっきのだけど、私中学校に通ってないし小学校にも少ししか通ってないから、厳密には中一になるはずの歳、かな」
「そっか·····学校に通ってないんだよな。」
入院しているのだろうと思っていたから、全く予想外ではないはずなのに、なぜか驚いてしまった。正直、俺には入院生活が思い浮かばない。
「うん」
なんだか、空気が重い。俺は、話題を変えることにした。
「じゃあ、俺は勉強を教えたり、話し相手になったりすれば良いってことだよな?」
「うん、そうだね。あ、でも、なんか義務的な感じではならないで。別に、好きな時にやめていいから」
なんだか正面にある凜の顔を見るのが恥ずかしくて、さっきから凜の後ろの壁を見ていたのだが、傷ついたような凜の顔に、罪悪感と後悔を感じる。やばい。しくじった、、、!
「あ、えっと。どのくらいの時間が良いかな?」
「ん?あぁ、10時から3時くらい?」
どうしようかと思っていると、凜から話しかけてくれた。
俺はなんとなく、ばあちゃんのとこに行く時間を考えずに答える。あ、とおもったが、また説明すればいいかと思いなおす。
「え、長くない? でも、ありがとう。嬉しい。じゃあそれくらいでいいかな?」
「ああ」
「これからよろしくね。今日はとりあえずこのくらいにする?もうすぐお昼だし、おばあ様のお見舞いにも行かなきゃ行けないんでしょ?」
俺の予定を、ちゃんと考えてくれていることに、うれしさが広がる。
「それもそうだな。じゃあ、また来週。あ、あと、次からはお前の病室に行っていいか?何気にばあちゃんの病室と近いし」
「あ、うん。ありがとう」
こうして、俺は、凜への思いが膨らんでいくのを薄々感じながらも、毎週会う約束したんだ。
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