第6話初めてのお茶(凛視点)

「凛? だよな??」

後ろからかけられた声に、慌てて振り向く。やっぱり、あの人だ。

「そうです!」

嬉しくてつい、声が弾んでしまう。テンパっていたせいで名前しか言っていなくて名前呼びなのも嬉しい。

「あの、ここではなんなので地下一階でお茶でも、しませんか?」

震える手を、きつく握って、恐る恐る問いかける。多分この誘いを予測していたのだろう、その人は軽く頷いた。


「あの、ミルクティとかコーヒーとかあるんですけど、どれが良いですか?」

「お茶でいいよ」

軽く帰ってきた答えに、いちいち安堵してしまう私。無視されたらどうしようとか、答えてくれなかったらどうしようとか。そんなことばかり考えているせいだ。

「あの、、急に先週誘ってしまったせいで、だいぶ迷惑をおかけしたと思うんですけど」

お茶を持ち、席に着いたあと、私はようやく切り出した。

その人は軽く頷く。否定してくれないのが悲しい。まぁ、元々期待してないけど。

「私、小さい頃からずっと病院にいて、あんまり外に出たことがないんです。ここって私と同じくらいの子は少ないし、なんだか親近感が湧いたって言うか」

「うん」

「あの、とにかく、私、お母さんもお父さんも仕事でたまにしか会いに来てくれないし、結構つまんなくて。だから、あの、少しの間でいいので、話し相手になって貰えませんか??」

必死に、目を見てお願いする。でも正直、これは頷いてもらえると思っていない。だって、きっと中学生って部活とかあって忙しいはずだから。

でも、

「別に良いけど。俺、ばあちゃんの見舞いで毎週来るから、その時で良ければ」

「え?!」

思わず、呟いてしまった。その人は首を傾げる。

「あ、ええと。嬉しいです、ありがとうございます。じ、じゃあ、あの、とりあえず名前を教えてもらってもいいですか?」

私が取り繕うと、その人は思い出したように言った。

「あ、うん。俺、橋本広夢。今中一。よろしく」

橋本、広夢。私は、その名前を聞けたことが少し嬉しくて、暖かい気持ちになった。

「あ、同い年なんですね!よろしくお願いします。」

同い年だと分かり、何故か私は嬉しくなっている。なんでだろう。

「じゃあ、えっと。凛、も、中一?」

「あ、はい。ってか、同い年だってわかったし、敬語やめていいかな?」

「あ、オーケー。」

「で、さっきのだけど、私中学校に通ってないし小学校にも少ししか通ってないから、厳密には中一になるはずの歳、かな」

「そっ、か。学校に通ってないんだよな。」

「うん」

なんとなく、被害者ぶってしまう。この場合は可哀想な人ぶる、だろうか?でも、橋本くん、は、あっさりと話題を変えた。きっと、重い雰囲気を引きずらないためだろう。

「じゃあ、俺は勉強を教えたり、話し相手になったりすれば良いってことだよな?」

「うん、そうだね。あ、でも、なんか義務的な感じではならないで。別に、好きな時にやめていいから」

なんとなく『すればいい』という言葉に仕事に対する姿勢のようなものを感じて、思わず口走ってしまう。橋本くんは、きっと少しイラッとしただろう。きつい顔になっている。

「あ、えっと。どのくらいの時間が良いかな?」

「ん? あぁ、10時から3時くらい?」

ぶっきらぼうでも、ちゃんと答えてくれたことが嬉しい。さっきので嫌われたらどうしようかと思った。

「え、長くない? でも、ありがとう。嬉しい。じゃあそれくらいでいいかな?」

「ああ」

「これからよろしくね。今日はとりあえずこのくらいにする? もうすぐお昼だし、おばあ様のお見舞いにも行かなきゃ行けないんでしょ?」

「それもそうだな。じゃあ、また来週。あ、あと、次からはお前の病室に行っていいか? 何気にばあちゃんの病室と近いし」

「あ、うん。ありがとう」

そういって、橋本くんは席を立ってスタスタと歩いていった。

なんだか、不思議な感じだ。

今更だけれど、なんで橋本くんはこんなめんどくさいお願いを叶えてくれたのだろう。断ることも出来たはずなのに。

それに、今こうしてお茶できたのも不思議だ。

でも、まぁいいか。来週聞けばいい事だし。

私は、そう思えることが嬉しかった。

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