第4話 メルカットのルーサー王


 問題はルーサー王だった。彼からの手紙は父王存命中も途絶えたことがなかったが、ピオニアがレーニア城にひとりになってからはいっそう結婚を匂わせてくる。



――――


 親愛なるピオニア姫


 御身の使者ジーニアン殿をわが「聖なる燭台」に迎えました。父王が逝かれフランキに対する守りを心配しているご様子。

 姫、あなたおひとりで重圧を背負うことはありません。私はたおやかなあなたが政治、軍事に腐心するところを見たくない。私に任せてあなたは私の横で見守っていてくれればいい。私にとっては我がメルカットの心配に小さなレーニアひとつ加わったところで痛くも痒くもない。

 レーニアの国土ごと私に身を寄せませんか?

 頼りないと思われているのでしょうか?

「レーニアを持参金に嫁にはいけない」と先日の手紙にありました。私はレーニアの領土が欲しいわけではない。欲しければすでに軍を差し向けています。

 あなたがいるからこうやって書状を書き連ねているのです。レーニアの独立にこだわるならあなたを代表とする自治州として残しましょう。

 あなたがメルカット王妃となりレーニア城とうちを行き来して何の不都合がありましょう。

 ご両親も弟も亡くされ、召使数人とレーニア城にしがみつく必要がどこにあるでしょうか?

 云々云々


――――



 ルーサーの言葉は優しい。ルーサーなりにピオニアを愛してはいるのだろうが、ただいつも「女に政治は無理だ」と聞こえる。

 レーニアをどう進めたらいいのか判っているわけでもないが、それでも自分は王女だという思いがピオニアを充たす。

 レーニアを他国に併合されたくない。小さくて静かな島を領民の一番希望する形で存続したい。領民の中から夫を探すべきか他国の貴族がいいのか、独身のままがいいのか。

 女だてらと言われようが自分の目で見て判断したい。それだけの責任が、国を渡された王の娘にはある。

 ルーサーを客観的に観察したい。他国の事情も知りたい。そう思って聖燭台会議に乗り込んでいったピオニアだ。

 ルーサーは聖なる燭台の騎士間きしあいだでは威風堂々、器の大きい第一人者だった。女だ、男だということでなく、ただただ一国の代表同士として接して欲しかった。


 姫は日が沈み島が青く暮れていくまでバルコニーにうつぶせていた。

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