動揺して童謡

ヤギサンダヨ

動揺して童謡

 ある朝中村氏は、しばらく着なかった背広の内ポケットに、封筒が入っているのに気がついた。中からは、1万円札が1枚出てきた。二日酔いで、まだぽうっとしていた氏の頭に「ポーケットをたたくとビスケットが二つ・・・」という童謡が浮かんだ。なんとなく1万円札を封筒に戻して、試しにポケットをたたいてみた。そして封筒を取り出してみると、なんと中身は2万円に増えていた。

 「ウソだろ、昨日飲みすぎたかな・・・。」

と思いつつ、もう1度試してみると、封筒の中の1万円札が、今度は4枚に増えていた。

 「あ、あの歌は本当だったんだ。『そーんな不思議なポーケット』は、実在したんだ!」

 中村氏は調子に乗って、4万円を封筒に戻すと、おもむろに内ポケットに突っ込み、勢いよく5回続けてたたいてみた。

 8万、16万、32万、64万、128万。

 明らかにポケットが厚みと重みを増してきた。もう一発!

 256万。バリッと封筒が破れる音がして、もうポケットはパンパンである。中村氏は込み上げてくる喜びを噛みしめつつ、封筒を取り出そうとした。が、なかなか取り出せない。中で大きく膨らんでしまったため、引っかかって出てこないのだ。ポケットを破って取り出すか、でも、そうするとポケットは2度と機能しないかもしれない。でも、256万円はぜひ欲しい。まいったな・・・。

 「どーしよ、どーしよ、おーパッケララオ、パッケララオ、ばおばお、ばおばおばお。」

 中村氏はその後病院にかつぎこまれ、今も違う童謡を歌い続けている。

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