20:「再会」(2)

 オーリィは再び口をつぐみ、沈黙している。思いは、言葉にしなければ伝わらないということに、言葉で聞かなければわからないということに、そのもどかしさに。二人は共に、しばしの間身もだえた。

「あなたが山から降りてきたあの日。わたしは役場に呼び出されて、長老様と一緒にあなたを待っていたわ。一体どんな人なのかと思いながら。役場で初めて会ったあなた。大きな堂々とした体で、のしのしと歩く姿がとても逞しくて。けれど、とても寂しそうな顔だった。そして、何かに怯えてるみたいに、わたしには見えたの」

(俺はあの池の蛙だ。この人の眼には何もかもお見通しだったのだ、最初から……)

 それは、あの時テツジ自身が気付かなかった、彼の本心。

 彼を裏切り見捨てた故郷とその人々。憎み恨み蔑み、彼自身もお返しとばかり見捨てたはずのあの世界に、だがもう、帰る術は無く。ましてや怪物と化した今の彼にはなおさら帰れる場所とも思えなかった。それが寂しかった。

 そして。

 目の前に広がる荒涼とした見覚えのない世界と、変わり果てた自身の姿。それは当然の不安が伴うものであったが、それ以上に。

「悪いようにはしない、わしらにまかせておけ」という、グノーのあの言葉。捨てられた彼が本心では最も欲していた人のぬくもり、救いの手。だが、すがれなかった。

 受け入れられるということは、いつか、また捨てられるかも知れないということ。

 いっそ彼らが自分に害意をあらわにしてくれたなら、そう思っていた。迫害されることより、むしろ信じることに怯えていた。

(どれも俺は認めたくなかった。心に思い浮かべたくなかった。だから戦った、ありもしない『この世界の悪意』という幻と。『独り相撲』は市場でコナマと話していた時だけじゃなかった。俺は『戦う相手を誤っていた』のだ、ずっと……)

「さっき言いかけたとおり、わたしはあなたのことをずっと観察していたわ。あなたに知られないように、この左眼の力を使ってね。『お隣さん』は『新入りさん』の様子をよく注意して観察しなければいけない。いずれ必ず起こる『糧の飢え』、その兆しを捉えて対処するために。それが『お隣さん』の第一の心得……そう教わっていたから。でもね。

 あなたに会ったときから、そんな型通りの理由はどうでもよくなっていたの。わたしはあなたから自然に目が離せなくなった。その寂しそうな、おどおどした顔色。そしてあなたはそれを隠そうとしていた。わたしが目の前に、正面に居る時のあなたは気を張っていた。何事もないような落ち着いたそぶり。でもわたしが顔をそらしたり、傍を通り過ぎたりする時、あなたの顔はまた曇る。わたしには見えていた。だってわたしは、わたしの左眼は、そんな時でもいつでもあなたを追っていたのだもの。

 何を思っているのか、どんな生き方をした人なのか、気になって仕方なかった……同情かしら?それとも哀れみ?そうだったかも知れない。もちろんあの時はわからなかったけれど、わたしたちは似た者同士だったんだから。通じてしまったのね、気持ちが、心が。

 もちろんそんな詮索は無礼なこと、はしたないことだと思ったわ。あなたが言わないのだから、どうやら隠しているらしいのだから、猶更ね。人の不幸をこっそり眺めるなんて、残酷なことでしょう?いけないことだわ。でも止められなかった……

 そしてね?気が咎めるわたしはだから、『これが心得なんだから仕方ないでしょう?』って、そう自分に言い訳してた。これは『しきたり』なんだからって。

 でも、不安におびえていたあなたは、わたしのその疚しい態度に逆に、敏感に反応してしまったのではないかしら?たとえ見られているとはっきりわからなくても、雰囲気で伝わるものがあったはず。それがあなたにわたしのことを、『自分を監視してこそこそ調べる、怪しくて油断できない女』だって思わせた……だとしたら……いいえ、そうに決まっているけれど!それはわたしのせい。わたしの……弱いわたしのせい。最初からもっと正直になって、あなたと素直にお話が出来ていたら……

 前の世界で。わたしは自分を守るために、他人に悪意という鞭を振りかざすことしかしてこなかった。『人に優しくすること』を、まるで身に着けていなかった。そうしたくても、どうしたらいいのかわからなかった。『優しくするための強さ』、人のために自分を投げ出す勇気が!まるで足りなかった。だから。

 孤独に苦しんでいるであろうあなたに、手を差し伸べることが出来なかった……

 ああ!でもそれは!!それは、あんなにあの方が……ケイミーさんがお手本を見せて教えてくださったはずだったのに!!

 ずるい女、弱い女、恩知らずな女……許して、わたしを許して……!」

 かつて他人に振り上げていたという、彼女の心の中の見えない鞭。テツジには今、彼女がそれを自分自身に打ちつけているように思えた。「私」と「わたし」、どちらが責め、どちらが受けているのか、あるいはお互いに?その呵責の無さは彼を戦慄させた。そして。この期におよんで、ただ床に這いつくばるばかりの自分。地に伏しているのは肉体だけではない。恨み言を言うばかりだった己の精神の卑屈。それを、テツジはこの時激しく恥じた。

(その責めを受けるべきはこの俺だ。いや、それだけでは駄目だ、それではただの堂々巡りだ!そうじゃない……)

 彼は自らに対して憤りを募らせた。沸々と湧き上がる「不甲斐なさ」という感情。

(そうだ、俺は……俺も!この人を救いたい!どうしたら……?)

「市場から帰って。わたしはあなたにお答えをどう返そうかと悩んだわ。今にして思えば……考えすぎだった。確かに『糧の飢え』という説明できない、面倒なことがあったのも確かだけれど、それより。見栄っ張りなわたしは、あなたに『上手に』『綺麗に』説明したかったのね。しかも、自分の弱みは隠しながら。それが余計だった。たとえ不器用でも、とりとめがなくても、たどたどしくても、何もかも素直に打ち明けて一緒に考えて感じてもらえばよかったの。そうよ、『糧の飢え』のことだって、たとえしきたりで言うなと言われていたとしても、あなたはとっても意思の強い方、先に打ち明けて覚悟を決めてもらうことも出来たはず。

 そうしていれば、わたしは……

 あなたにあんな、ひどい仕打ちをしなくて済んだかもしれなかったのに……

 わたしがぐずぐずしている少しの間に、あなたにとうとう……兆しが現れてしまった。糧の飢え、死の病の兆しが!

 わかっていたはずなのに。それでわたしの心は、不安と恐れで縛られてしまった……怖かった……怖かったの……だって!

 あんなにのしのし力強かったあなたの足が、どんどんふらついて!太くてよく響く声が、かさかさにか細くなって!たとえ見せかけであったにせよ、わたしに見せていたあのきりっとした顔色が、見る見る色あせて腑抜けていって!

 そして……何よりお食事の時。次から次へとお皿をきれいに空にしてしまうあなただった。この村の貧しい食事、でもあれはコナマさんに教えていただいた大切な技。それをあなたはいつも褒めてくれた。わたしはあれがとってもうれしかった。なのに!いつしか、食べ残されたお皿で、テーブルが埋まったままになってしまった……

 このままでは!またわたしの前から、誰かがいなくなってしまう!大切な人が!

 それが寂しくて悲しくて、そして怖くてたまらなかったの。

 この村で生まれ変わって、わたしの中に生まれた『私』。真面目に、素直に、謙虚で、貞淑な、『良き村人』になろうとしてわたしがつくった理想の『私』。だけど、生まれたばかりのその『私』はまだとっても幼くて……気持ちが弱かった。あなたが死んでしまうかもしれない、その不安に耐える強さが、あなたに優しくしてあげる余裕がまるで無かった。

 閉じ込めて二度と外に出すまいと思っていた昔の『わたし』。傲慢で、身勝手で、自堕落で淫蕩な……でもその『わたし』には、強さがあったわ。その負けん気の強さを憶えていた『私』は、忌み嫌っていたはずの『わたし』の力を借りた。外に出したの。そうしなければ、足が震えて立って歩くことも出来ない程怖かったから!

 でもその『わたし』は……優しさを知らない。誰よりも不安で、苦しんでいたのはテツジさん、あなたなのに。それがわからないはずないのに。『わたし』はあなたを追い詰めて、責め立てて、余計に恐れ怯えさせてしまった。糧探しが進まない苛立ちを、焦りを、目茶目茶な数の献立の皿に並べてあなたに押し付けた。あんな乱暴なやり方で窓を破ってあなたを驚かせた。怒鳴りながらあなたを問い詰めた。石を沢山運び込んであなたを怯えさせた。そして……首を絞めてここに引きずり込んだ!!

 聞き分けの無いあなたが悪いからだって!あなたのせいなんだって!身勝手な『わたし』は、救いを求めていたあなたを逆に悪者にしてしまった!!

 わたしは『私』になれなかった……あの観劇の日と同じ。おもちゃにされて、娼婦になろうと思った、次の日の朝のわたしのまま。不安に負けて、怒ることに逃げた。

 ……どうして?!どうして変われないの?!ケイミーさんが、コナマさんが、婆ァ様や皆さんがわたしにしてくれたことは何だったの?なぜ同じように出来ないの?!

 ああ!!鳥の巣の蛇!!わたしは今でも鳥の巣の蛇なんだわ!!あの山がわたしに与えたこの姿は……正しいのよ!!

『あのオーリィが今は』……今は……今は……」

 そう言いながら、オーリィは悲し気に、悔し気に首を横に振り続けた。「何も変わっていない」、その一言を噛みしめながら。

(違う……わかった、そこが違うんだオーリィさん!)

 テツジの胸中に湧き上がる、ある思い。

(それでは駄目だ。だから苦しむのだ、あなたは。俺は伝えなくてはならない!そのためには……)

 気落ちしたためなのか。オーリィはなかなか語り出そうとしなかったが、ついに、すべてを振り切るかのように激しく横に首を振った後、奔流のように言葉を吐き連ね始めた。息を継ぐ間も惜しむほどに。

「……けれどけれどテツジさん、信じてくださいわたしは、わたしはあなたを助けたいの!ああ、なぜ?どうして?見も知らぬあなたと会ってまだわずか、いいえいいえ!もっともっと以前、会って間もない時から、わたしはあなたを助けたかった!そうよ、どうして?ケイミーさんにわたしは聞いたわ、『どうしてわたしを助けたいの』って。わからないと言ったわ。わたしにも!今のわたしにもわからない!どうしてこんなにあなたを助けたいの?わからない!!だけどこの気持ちは嘘じゃないわ!!ああ!」

 そして。呼気の尽くされた肺に、一息大きく吸い込むと。彼女の言葉は今度は重々しい響きを伴っていた。深く力強く。アレグロから休符を置いて、グラーヴェ。市場の歌姫、森の池のプリマの、それは一度限りの絶唱。

「……愛は……愛はあるの……ただそこにある。理由なんてないのよ。この世に、いいえ人の心にいつも愛はあって……たとえ一時姿を消しても、愛すべき人が現れた時、また姿を現すの。そう、この世に、人の心に愛が無ければ、わたしは……

 わたしは、今、あなたの前にいない……!こんなわたしが今、あなたの前にいること。それが。『愛など無い』と言ったあなたへの、わたしの反論。もう一つの、わたしの、答え。テツジさん——お答えは……これで尽くせたでしょうか?」

 そしてカーテンコールに応えるように。オーリィは最後にこう言った。

「わたしはあなたに、この村で生きてもらいたいの。あなたは『帰る場所などない』と言ったわね?違うわ。

 ……あなたはもう『帰って来た』の。この村に、わたしのお隣に。ここがあなたの帰る場所だったの。だってわたしは、テツジさん、あなたを『待っていた』のですもの、あなたを、あなたを……!

 ですからどうか……お願い……!!」

 テツジの巨躯が、ゆっくりと起き上がっていった。今までまるで骨を抜かれたも同然だったその体に、なぜその力が残っていたのか、あるいは新たに湧いてきたのか、それは彼自身にもわからなかった。が、彼の思いは一つ。

 伏したままその「賜物」を手にする、それは許されざる「不敬」であるという事。

 上半身を起こした彼は、脚を小さく折り曲げ、両足に均等な美しいバランスで尻を乗せ、肘を軽く外に張りながら、両腿に掌を乗せて体を支え、背筋をきりりと垂直に伸ばした。

 彼の世界で「正座」と呼ばれていた所作。貴人の前でも許される着座の姿勢。

 そしてこれもまた、何かの儀式のような荘重な手つきで。最前から静かに目の前に置かれていた、あの石を手を取った。もはやあの震えはまったく起こらなかった。彼はそれを静かに見つめる。貴人から差し出された貴重な工芸品を拝覧するような、敬虔な視線。

「オーリィさん。俺の世界には」

 石に目を落としたまま、テツジは言葉つきを改め、そして続けた。

「『黄泉の国の食物を口にすると、生者の世界には戻れない』という言い伝えがありました。あなたにいただいたこれも、そのようなものかも知れませんね。ですが」

(それも悪くありません。あなたの傍で暮らせるなら)

 と、しかしあとの半分は口の中で声にならずに消えた。俺のような武骨者には柄にもない、その照れ隠しが、彼の背中を最後に一押しした。

「……いただきます」

 ためらいなく、彼はその石を口に咥え、歯を当て大顎を閉じた。

 無論その瞬間まで、歯が砕けるのではという懸念はあった。だが、ままよという気持ちだった。彼女になら騙されても構わない。疑念に敢えて抗することそれ自体がむしろ忠心である、そう覚悟していたのだ。

 だが、その石はいとも簡単に砕けた。彼の堅牢な歯列と強靭な大顎の前では、それは林檎かある種の根菜程度の硬度に過ぎなかった。鑿のような前歯が打ち砕いた破片を、プレス機のような奥歯が砂利に、砂粒に粉砕していく。

 そして、その一噛みごとに、彼の口中に広がる「刺激」。はたしてそれは「味覚」なのか、単なる「触覚」に過ぎないのか?まるで見当がつかない。だが、感じたことのないその感覚に驚かされながらも、それは彼にとって明らかに「快」をもたらす刺激であった。自然、噛めば噛むほどに咀嚼の勢いは増し、やがて、微塵となった石は喉を滑り落ち胃の腑にたどり着く。その行程すべてが新しい「快」を彼にもたらし、ひとまずの終着点である胃の腑に広がるのは。

 彼から失われていた、あの「物を食したという充実感」。

「美味い……!!」

 作法を調え威儀を正していた彼の態度がにわかに崩れた。給餌された動物のように、ガツガツと夢中で石を貪った。そしてあっという間にあの石は、彼の掌中から消えた。

「食える……俺には石が食える、食った!美味い!こんなことがあるのか?!」

 息を飲んでテツジの所作を見つめていたオーリィが立ち上がった。今にも倒れそうなよろける足つきでたたらを踏みながら、しかし驚くほどの速さで、テツジの傍をすり抜け戸口から出ていくと、また同じ慌てふためいた足つきですぐに戻って来た。両腕いっぱいに抱かれた石ころ。テツジの家にばらまいたものを拾い集めてきたのだ。そのままテツジのもとに跪くと、抱えた両腕を胸ごと付きだすように差し出した。

「ああ……あああああ!!」

 次の石を手に取れ、そう言いたいのだろう。だがオーリィの震える唇は、言葉を紡ぐことが出来ないようだった。そして必要なかった。

 テツジは野人のように無作法に、無遠慮に、彼女の胸元の石に次々と手を伸ばした。両手に掴んだ石を交互に口に放り込む。壁の建材であった最初の石と違い、オーリィが集めてきた石はどれも彼女が容易に拾える小石。彼の大顎になら一口で収まる。

「美味い、これも美味い!ハハハ、これも、これも!」

 子供のような礼儀知らずな顔で、頬を膨らませながら石を貪り食うテツジを、オーリィは恍惚とうるんだ、震える両眼で見つめ続ける。彼女が胸に抱いた石ころがなくなるまでには、大した時間はかからなかった。そこまで食し終わって息をついたテツジは、はたと我に返って、自分の行儀の悪さに照れた。

「ああ、これは申し訳ないオーリィさん、つい……ごちそうさまでした。流石の俺も、一度にこれ以上は入らない。満腹です。まだ俺の家にいただいた石は沢山残っていそうですが、それは後程、必ず全部平らげさせていただきます。食い物を残すのは俺の流儀に反しますし、なにより外ならぬあなたにいただいたものですから。あだやおろそかには出来ません。こういう時に石は便利です。どんなに長く転がしておいても腐らない……いや、それを心配するのは意味がありませんね。明日の昼までもたないでしょう、この分では。ワハハハ!」

 少々わざとらしい豪傑笑い。だが、オーリィに対しての感謝の念は紛れもなく本物。猿芝居でもいい、明るく軽口が叩けるほど元気を取り戻したことを見てもらおう……不安におびえていたという彼女を慰めたかった、安心させてやりたかった。それがテツジのこの瞬間の気持ち。そして、彼を見つめているオーリィを強い眼差しで見つめ返すと、彼は再び真剣な面持ちに戻って座り直した。顎を引き背筋を伸ばし、威儀を正すと、そのまま体を前に折って両手を床に突いた。

 平伏。そして、これ以上ない真摯な声で叫ぶように一気にこう言った。

「オーリィさん、テツジです。只今戻りました……!!」

 まさしく、戦地から帰還した兵士が我が家にたどり着いた、その姿に。

 オーリィはへなへなと両手を後ろに突いて座り込んだ。溶けて流れ、消えていく緊張と恐怖、一瞬空になった胸中に、再び流れ込んできたものは、深い安堵と歓喜。それらもやがて姿を変えて溢れ出した。

 彼女のあの両の眼から滂沱と流れだす涙と、その一言に。

「おかえりなさい……おかえりなさい……おかえり……なさい……」

 嗚咽に震える声で、彼女は涙をぬぐおうともせず、そう繰り返し続けた。

「やっと……やっといえた……『ごめんなさい』はね、ケイミーさんにいっぱいいっぱいきいてもらったけど……【ほんとの】おかえりなさいは【ずっと】……だれにもいえなかった……きいてもらえなかったの……やっといえる……!

 おかえりなさい……おかえりなさい……おかえりなさい……」

 手を突いたその姿勢のまま、顔を上げてオーリィのその姿を見たテツジ。彼もまた、その顔は呆然としていた。ある驚きのために。

(これは……いったい俺は、俺の目は、今まで何を見ていたんだ?この人は……

 この眼のままで……こんなにも美しい……!!)

 魅入られたかのように、魂を吸い取られたかのように。テツジはオーリィを見つめ続けた。やがて驚きは確信に変わる。

(そうか、これが……ここの人間になったということ……『村一番の美女』……

 俺は帰って来た、帰って来たのだ。ここに、この人の元に!)


 今。見つめあう二人を照らすのは、去ってゆく月夜に変わった、あらたな朝日。

 テツジとオーリィ。帰る場所を見失った男と、愛すべき者を待ち続けた女。

 遥かに次元を隔て、この村で初めて出会ったはずの二人の。

 だが、これは、再会。(続)

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