7:「市場にて」~結婚斡旋~

「いつもながら、あの二人は!まったくかしましい。片方は落ち着きがない、片方は……大人げない!どちらも少しは君のことを見習ってもらいたいものだ。

おはよう、オーリィ」

「おはようございます、バルクスさん」

 バルクスと呼ばれたその男。テツジは見覚えがあった。

(こいつも村の助役とやらの一人だ。あの水牛の角は見間違えようが無い)

「でもお珍しいことですね。私の店にお顔を見せてくださるなんて」

「ハハハ、まぁ確かに私は生蛙には用が無いからな。農場ではいつも会ってはいるが、こうして君の商売の様子を見るのは久しぶりだね。繁盛でなによりだ」

 大きな身の丈、恰幅の良い体、太い喉首から発せられる、低音のサビのある声。ゆったりとしたテンポの話し方ににじみ出る貫禄。

(いかにも村の重鎮という感じだな。あの長老と違ってわかりやすい。言葉は充分選ぶ必要はあるが、こいつなら、こちらからある程度直接聞いてもいいかもしれん……)

「君の家を訪ねてもよかったんだが、今日は水の日だから、あるいは店を出しているかもと思ってね。君の串蛙なんだが……おや、今日は店に出していないのかな?」

「ええ実は、今朝は早仕舞いにしようと思ってますの。こちら、テツジさんを市に御案内しようかと。ですので串蛙は持ってきていないんです。お求めでしたか?」

「いやなに、それならすぐ買っていかなければならないという話でもないんだ。明日の夜、農場で長老と助役の5人でちょっとした……打ち合わせがあってね」

 打ち合わせ、と言いながら男は口の前で杯を傾けるジェスチェア。

「また20本ほど頼みたいんだが……出来るかね?」

「ああそれでしたら、もちろん!串蛙20本ですね、確かに承りました。明日の夕方にでも、農場の集会室にお持ちいたしますわ。お味は、前と同じ辛口の方でよろしいでしょうか?」

「そうそうそれで頼む、よろしく……無理を言って済まないな、今は君も大変な時なのに。『お隣さん』は名前だけは軽いが、責任重大だからね」

「それがねバルクスさん、こちらなんですけど、とても物静かで落ち着いていらっしゃってて。お食事は出したものは何でもきれいにお召し上がりになって下さいますし……いろいろと御不便を我慢してくださってるとは思っておりますけど。お世話させていただく身としては、本当に手の掛からないありがたい方ですの。今のうちでしたら、串蛙の御注文くらいでしたらお受けできますわ」

「ならばいいが……だがそうだね、これからがもう一山だ。しっかり頼むよ」

(ん?『今のうち』とは、『もう一山』とはどういうことだ?まるで『そのうち忙しくなる』と言いたげじゃないか。俺の世話が、か?気になるな……)

「さて、それにしても丁度いい、君もそこにいてくれたというのは……テツジ君だったな?私はバルクス、『水牛頭のバルクス』だ。よろしくな」

(む……俺に何か用があるんだろうか?なら、ここはこちらも少し愛想よく出てみるか。上手く立ち回って何か聞き出せればいいんだが)

「テツジです。こちらこそよろしくお願いします、バルクスさん。この間は……山ではお世話になりました」

 当たり障りの無い挨拶。ただし、言葉の調子にほんの少しの敬意を感じられるように振舞うのを、テツジは心がけた。

「なに、君の時は私はあの場に付き添っただけだ。礼にはおよばんよ。どうかね、この『村』は?いくらかは慣れたかな?」

「はい、いくらかは……まだわからないことばかりですし、オーリィさんにもお世話になりっぱなしですが。お気遣いありがとうございます」

(このくらいの世辞は必要だろう。だがやりすぎるな。あくまで自然に振舞え)

「ふむ……いや、率直に言おう。君も率直で無駄の無い男のようだから……

 私は君の様子が見たかったんだよ。私は君に興味がある!あの山で……正直私はね、君の豪胆に驚いていたんだ。グノーさんの声掛け、あれはあの方の名人芸だが、それでもね。『落ち着け』『気を静めろ』と言われてもだ。普通はもっと動揺する。なだめるのに苦労するものなのだ。だが君は……それと。山を降りる途中でも、村に入ってからも。私が気になったのは君の足取りや視線だ。どちらも実にしっかりしていた。当たり前では無い。最初にあの山を降りるのに、不安と恐怖で足が震えて歩けない者はざらだ。むしろそれが普通なのだ。それと視線。落ち着き無くキョロキョロと見回してはいるものの、目が泳いでいるだけで実は何も見えていない、それが普通の反応だ。だが君は違った。地に足が着いた歩き振りは堂々としたものだったし、何が自分に待ち受けているのかを冷静に貪欲に観察する目だった。たいした精神力だ。

 それと、今オーリィに聞いた話だ。物静かで、何でも出されたものを口に出来、手が掛からない……いやこれも普通ではないぞ、ここでは、この村の新入りではね。余程君は、厳しい生活に耐えてきた男ではないかね?

 そしてだ。最後はもちろん、今の君のその肉体だ。私もこの村では大男の部類に入るが、君には到底及ばん。力もおそらく相当なものだろう。万事シンプル、いや直裁に言えば万事原始的なこの村では!単純な体力こそ最後の決め手だ。

 君には見所がある。実に有為な若者と私は見た。

 この村には!君のような人材が必要なのだ!!」

(とうとう……おいでなさったか!!)

 バルクスのテツジに対する賛辞。だがそれは、彼の耳には単なる賞賛とは別の響きを持っていた。彼はその言葉を、別の意味で待ち受けていた。

(まずはおだててその気にさせる……その手できたか。『予想通り』だ。

 無償の善意なんてものは、この世には無い。あるのかもしれないが、脆い!何にだって代償はある。自分にとって役に立つと思うからこそ、他人を助ける。役に立たなければ用無し!それが、今の俺の信じる人間の掟だ。

 今までの、この村があの女を使って俺に対して行ったもてなし……大したものだった。こんな殺風景な世界で、何の見返りも求めずに、あんないたれりつくせりが、あるわけが無い。『だからこの村のために働け!』お前等はずっと、そう言いたかったんだろう?いいさそれならそれで、俺だってだ!!『村』に対して手も足も出ないこの状況だからこそ、大人しくして、手の掛からないいい子を演じてきたんだ。そうしていれば、あの女が俺の世話をしてくれる、そう思ったからこそだ。『打算』は俺も同じ……同じ掟だ!働けというなら働いてやってもいい。それで俺の居場所とメシが確保出来るんならな。だがそれは……あくまでお互いの打算だ!!

 俺は、お前等の善意だの好意だのなんてものを、絶対に信じたりしない……)

「ふふ……とうとうおいでなさいましたわね」

 自分の『哲学』に我知らず悦にいっていたテツジは、オーリィのオウム返しにギクリとした。

「お気をつけなさいませ、テツジさん。バルクスさんったら……そうやっておだてて、あなたをこき使うおつもりですわよ?」

(この女……まるで俺の思っていることが読めるようなことを!いやもちろん偶然だろうが……)

「こらこら、オーリィ、混ぜっ返しては困る。これは真面目な話なんだから」

「うふふ……ごめんあそばせ、あんまり御熱心なものですからつい……でもテツジさん、バルクスさんのお眼鏡にかなうのは素晴らしいことですわ。こちら円満で鷹揚なとても親切な方ですけど、ことお仕事に関しては厳しい方なの。今のはただのお世辞ではないと思いますよ。バルクスさん、私もこちらのお世話を身近でさせていただいて、同じことを感じましたの。とっても我慢強くて、真面目で、誠実な方。どうかいいお仕事を見つけてあげてくださいませ」

(我慢強いはともかく、俺が真面目で誠実とは笑わせる。だがまぁいい、ここはいい助け舟だ、乗ってやろうじゃないか。『真面目で誠実』に振舞って……こいつが俺をどうこき使いたいのか聞きだしてやる……!!)

「自分がそんなたいそうな男かどうかはわかりませんが、お役に立てるのでしたら……お世話になりっぱなしでは、一人前の男として不甲斐ないです。まずは自分のメシ代は自分で稼げるように、そしてゆくゆくはご恩返しがしたい。教えてください!ここにはどんな仕事があるんですか?俺に出来そうなことがありますか?」

「うむ!その意気だ。実に結構。では教えよう……と、その前にだ。私が何者かを説明しておかないとな。役場では助役の一人だが、本業はこの『村』の共同農場の作業総監督だ。皆からは簡単に『監督』とも呼ばれている」

(なるほど……確かに大物らしいな、ここでは)

「村の農地はすべて村の所有……というべきか、そもそも土地の私的所有がここには無い。そして村の農地は、場合によっては飛び地になっていたりもするが、それらをすべて一つの『農場』と考えているんだ。農場は農産に関わるもの全員の共同経営だ。無論職責や仕事の種類や……無論!本人の頑張りで報酬は変ってくるがね。報酬は賃金として粒で払うこともできるし、相応の収穫物で現物支給もできる。ここまではいいかね?さて、農場といっても仕事はいろいろある。作物の種類によっても違うし……一番基本的でかつ重要なのは麦の栽培収穫だが、他にも野菜畑や果樹園もある。例えばそこのオーリィだが……」

「そうそう、りんごの方は今どうなっていますの?」

「まずまず順調だよ。君の替わりは皆が手分けでやってくれているから心配は無い。……彼女は普段はりんご園で働いてくれている。今は『お隣さん』なのでそちらは休んでもらっているがね」

「テツジさん、私、実はりんごの方が本業で、蛙はお小遣い稼ぎなんですのよ」

(その本業を休ませてまで、俺の世話をさせているのか。そう思うと俺の待遇は破格だな。どうも見込まれたというだけでもなさそうだ……)

「変り種としては、動物小屋もある。兎と大鼠、それと最近、鴨を飼い始めた。どれもまだ規模は小さいが、いずれは胸をはって牧場とよべるようにしたいと思っている。だがしかし……牛や馬がいればもっと……いやせめて羊か山羊がいれば!!もっと出来ることが広がるのだがなぁ……」

「いつものお嘆きですわね」

「もともと私は酪農家だったからね。今の農場経営も充分やりがいはあるが、歯がゆいのも確かだよ。鴨が現れたのは幸運だったが、しかし……狐のような厄介者も現れた。だったら何故代わりに山羊が来ない!とまぁ、つい思ってしまうね。こればかりはクジをひくようなものだからなぁ」

(……?鴨や狐が『現れた』とはどういうことだ?今まではまるでいなかったとでも言いたげだが……しかし仮に外から動物が紛れ込んでくるとして、どこから?鴨は鳥だからかろうじて可能性はあるかも知れないが、狐にあの荒野は越えられるものじゃないぞ?)

「そうそう、狐といえば。ケイミーさんとコナマちゃんがこぼしてましたよ、狩場を荒らされて困ってるって。その……バルクスさん?まさか、狐で野兎や野良鼠退治は充分だから、二人はお役御免なんて、考えていらっしゃいませんわよね?なんだかそれを心配してますのよ二人とも。もしそうなら、考え直していただきたいのですけれど……」

「何を馬鹿な事を、君らしくも無いなオーリィ。あの二人のいつもの早とちり……まぁ片方は分かっていて早とちり『ゴッコ』をしているんだろう、大人げない……に、ひきずられてのことだと思うが、私を見くびられては困る。村民あっての農場、狐と人では比べるのも愚かだ。ましてやあの二人は農場にとっては優秀で有能な害獣駆除作業要員だ。私が、いや村が見捨てるはずがないだろう。

 いやその狐だがね……野良の兎や鼠を狩っている分にはいいかと、うっかり様子をみていたら、この間!鴨小屋を襲われた!!幸い被害は少なかったが、貴重な鴨を2羽も……むしろ、狐退治を正式にあの二人に依頼しようと思っていたところなんだ」

「あらあら。二人とも『監督に内緒で狐狩りだ!』って慌ててましたよ?」

「まったく!仕方の無いやつらだ。特別ボーナスに狐の襟巻きのおまけ付きの仕事だと、言ってやらねばならんか……おっとすまん、話がそれてしまったな」

「いえ、興味深いです。つまりあの二人も、農場に雇われているんですね?」

「そう。月々決まった給金でな。そして捕った獲物はすべて彼女達のものだ。市場で売れば余禄になるから、それが出来高払いの分とでも言えるかな。これはまぁ、彼女達の特殊な才能あってのことだが、農場にはそういう仕事もあるという一例にはなるか……そう、才能や素質……いや実はねテツジ君、今この村には、君のその強靭な肉体を生かせそうな仕事があるんだ。開拓だよ!!」

(ますますおいでなさったというべきか、それが本題か。回りくどいことを!しかし、よりによって『開拓』とはな……嫌な言葉だが……顔色に出すな!)

 開拓。それはテツジにとっては、実は悪夢を呼び起こすような言葉であった。彼は努めて平静を装った。握った拳の中に嫌な汗が流れるのを感じながら。

「開拓……?畑を広げるんですの?確か耕地があっても人が足りないので、新しい畑は作れないというお話をうかがったことがあるのですけれど?」

「そうだ。しかしオーリィ、君も知っているだろう、一昨年、北の畑のかなりの面積が、川の氾濫で水浸しになってしまったのを。あれ以来あの一帯の畑は駄目になってしまった。水はけが悪くなって、麦が根ぐされしてしまう。そこでだ。いっそあそこに大きなため池を掘って遊水地とし、今後の水害に備えるかわりに、村の東に新しく耕地を広げようという計画があるんだよ。東の荒野は川から遠いので今までまったく手付かずだったが、今回はあわせて用水路も作る。こんな大きな工事は十数年ぶりだ。当然期間もかかるし、たくさんの作業員が必要になるが、開拓は厳しい仕事だ。頑健な人間でなければ……テツジ君」

 と。熱い調子で語っていたバルクスは、ここでむしろトーンを落とした。人をいたわるような柔らかい口調。人の心に染み渡るような響きであった。

「君が今後、この村でどのように暮らしていくのか、どんな希望を持っているのか、それはあくまで君次第だ。私は農場の仕事ならいくらでも世話してやれるし、実はもちろん、鍛冶や大工といった、これまた君の力を生かせそうな仕事も村にはある。それは私の専門外だが、詳しい人間に紹介できる。いずれにしても、だ。もう少し君の体がこの村に慣れて、君がその気になったら、いつでも私を訪ねて欲しい。それを伝えたかったんだ」

 テツジのような何かを抱えた頑固な男でなければ、そのいたわりに満ちた言葉に喜びや希望を見出せたのかもしれない。だが彼の思いはまったく違った。

(……?なぜそこで引く?俺はてっきり、すぐにでも東の荒地とやらに連れて行かれるかと思ったのに……どういうことだ?いずれにせよ、真綿で首を絞められるようなはっきりしない扱いはむしろ御免こうむる。じらし、それがコイツの手なのかもしれないが、最悪でも『開拓』だ、それなら。俺はあれには……慣れている!!こちらから押すべきか?)

「バルクスさん、俺なら、今すぐにでも働きに出られますよ!」

「ああ……いや、なに、その、何だ!今はまだ早いぞテツジ君!君がもっとな、もっと……この村に慣れないと……『あれ』を乗り越えないと……オホン!!」

 落ち着き払ったバルクスの突然の狼狽。下手くそな咳払いの、絵に描いたようなわざとらしさ。傍らを見れば、オーリィのバルクスを見る、何かをとがめるようなきつい視線。

(何だこの反応は?『あれ』とは、『乗り越える』とは、どういうことだ?!聞きだすべきか?どうする??)

「ところでバルクスさん!」

 テツジの一瞬の迷いを狙ったかのように、突然オーリィがバルクスに話しかけた。その口調もとがめだてをするトゲの生えたような調子だったが、すぐにいつもの静かな調子にもどった。

「この間のお話ですけれど……やはりお断りするしかございません。この間の、あ・の・お話ですけれど……!」

「あ……ああ、あの話かね、オホン!い、いやしかしだね?いい話だと思うんだが……いったい何が不満なのかね?」

 問答無用といわんがばかりに割って入り、話を変えろとバルクスを誘導するオーリィ。意図を読んだバルクスも、次第に狼狽を収めていくように見えた。これではテツジには取り付く島も無い。

(くそっ、俺の話をさえぎったのが見え見えだ!!この女……こんな露骨な手まで使って!いったい俺に何を隠しているんだ?)

「お相手の方には何も……素敵な方だと思いますわ。ですから余計、私のような女にはもったいないかと。もっと好い方を見つけてあげてくださいませ」

「またそれかね?そろそろいい加減にしたまえ。いや、縁談に応じられないというのは仕方が無い、それはいい。この世界では、『結婚』は意味が薄くなってしまっているからね……しかしだ!」

 一度自分を取り戻せば、バルクスもまたしたたかであった。熱弁をふるいながら、あれほど執心だったはずのテツジに目もくれない。

「私はね、君のその卑下が気に入らんのだ。いや気持ちはわかる!君が来たときの騒動、特に『あのこと』を気にしておるのだろうが……だがそれは私とて同じことだ。今でこそ人からは『監督』などと持ち上げられる身にもなったが、ここに来た当初は!!随分暴れて皆に迷惑を掛けた。大勢に怪我をさせた。しかしね……」

 まんまと邪魔されて内心、歯軋りせんばかりに悔しがっていたテツジだが、ここへ来て一つ聞き捨てならないことを聞いたように思った。

(この女が、この村に来た時のことだと……ひょっとして?それが連中の『あのオーリィが今は……』という反応の元か?!水牛頭は自分が『暴れて大勢に怪我をさせた』といったが、つまりそれに匹敵するようなことを、この女はしでかしたということになるんじゃないか?)

「失敗は、過ちは取り返せるものだ。私は、粉骨砕身の覚悟でこの村の農場のために働いた。私は真の意味で生まれ変わったんだ。これは決して驕りではない。誇りだ。その違いがわかるかね?私自身がもし、自分のその誇りを認められないとなれば!今皆が私に掛けてくれる敬愛や信頼の気持ちを無碍にしてしまうじゃないか!君とて同じだ!!……君は今、この村中の人間から愛されている。りんごで、蛙で、歌で、そしてなにより君自身のその不思議な魅力で、だ。その皆の気持ちを、君はもっと自分の誇りに思わなければならんよ。

……そうだテツジ君!!」

 今まで完全に無視してきたテツジに突然話を振るバルクス。

「君は彼女のことをどう思うかね?ん?んん??んんんん???」

 有無を言わさず回答を求めるその強引な態度。

(そんなことは……どうでもいいんだ!!くそっ、老獪な……今度は別の話に俺を巻き込んでごまかす手か!)

 しかし、今まで好青年を演じてきた以上、はぐらかすことも出来ない。

「え、ええ、オーリィさんですか、とても親切で心使いの細やかな方だと……」

「うむうむそうだ、その通り。他には?ん?んん??んんんん???」

「おとなしやかで、話し方が丁寧で…」

「そうだねぇそうそう!!……他には?ん?んん??んんんん???」

「りょ、料理が上手くて、きれい好きで……」

(いい加減にしろ!俺に、俺にあいつらと同じことを言わせるな!!)

「まさしくすべてその通り!しかし君、若者なら遠慮せずにはっきり言いたまえよ、一番肝心なことがあるじゃないか?まぁいい、照れておるのだろうからな。

……彼女は、オーリィ君は、とても美しい!この村一番だ!!いったい何を恥じ、何を卑下しておるというのか。まったくわからん!!

 いいかねテツジ君、君がもし彼女に対して『我こそは』という気持ちになったらだな、私に言いたまえ。何がなんでも説き伏せてみせるから!待っているぞテツジ君!ではな!!」

 大きな体を揺らして、そそくさと去っていくバルクス。

(まんまと煙に巻かれたか!しかも最後に余計なことを……俺の大嫌いなあの台詞を……それだけは言わずにおいたのに……くそっ!!)

「御免なさいテツジさん、せっかくあなたにとっていいお話の最中でしたのに、変な方に進めてしまって。お気持ちを害されましたでしょう?本当に御免なさいましね……」

(いやもういい……完全にしてやられた、この女に。思えばあの縁談の話は、コイツにとっても痛いところを突かれる話だ。それを自分で振ってまで。『肉を斬らせて骨を断つ』の戦法とはな。恐れ入ったよ)

「あれぇ?ど~~~~~~~~したのかな~~~~~二人とも~~~~~~?

 な~~~~~~~~んだか機嫌がわるいのか~~~~~~~~~い?」

 間延びした素っ頓狂な声が、頭の上から降ってきた。(続)

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