第9話 本の価値……。

「あー……」


 わたしは『突然のラブストーリー』を読んでいたので寝不足である。小説の内容は主人公をご主人様と呼んでひたすら天使としてご奉仕であった。時々すねて死神として世界を終わらせると駄々をこねる描写があり、わたしを呆れさせる。


『ご主人様が望めば『セ、カ、イ、ノ、オ、ワ、リ』です』


 この時々出てくる『セ、カ、イ、ノ、オ、ワ、リ』とは何であろう?一限の授業が始まるので『突然のラブストーリー』をしまう。そして単調な授業に眠さが増していく。わたしは窓の外を眺めていた。Gノートが無いと意味のない授業つまらないの一言であった。授業中だが、ホント小説でも読みたい気分だ。


 休み時間になると七瀬が彼氏とオンラインメッセージをしている。わたしはGノートが無いのもあって七瀬と距離を置くことにした。


「ふん、小説の中のミーサの方が可愛げがあっていいわ」


 誰にも聞こえないように独り言を呟く。


 続きを読もうと、わたしが『突然のラブストーリー』を開いた瞬間に小笠原さんが寄ってくる。また、面倒くさいのが来た。そう、自称親友の小笠原さんである。


「いいですわ、この紙の臭い……」


 やはり、ただの紙フェチである。しかし、その容姿は可憐で男子にはとても人気のある方である。わたしの『突然のラブストーリー』をナデナデした後に小笠原さんは鞄の中から『夏目漱石のこころ』を取り出す。


「見て良くってよ」


 ほーっと、古い紙媒体の本は初めてである。小笠原さんが自慢したくなるのも分る気がする。


「昭和の末期に刷られたお宝ですよ」


 Gノートが無いので調べられないが夏目漱石はもっと昔の人のはず……。


「もっと、古いのがあるのでは?」


 わたしの疑問に小笠原さんは不思議そうに首を傾げる。


「これ以上の古い本は博物館にありますわ」


 そうなるとわたしがGノートを火災報知器に蹴りぶつけて水浸しにした大量の本はいくらしたのであろう?一冊はゴミみたいな値段と言っていた。


「安い、紙媒体の本ってあるの?」

「そうね……作家さんに何部刷るから書いてとか大人の事情で刷られた本は安いわ」


 小笠原さんは大人の事情が不満らしく、少し不機嫌そうに言うのであった。


「この『突然のラブストーリー』は価値があるの?」

「もちろんです、こんな三流小説は激レアですわ」


 そんなモノかと感心する。三流小説でも面白い物もあるらしい。


 小笠原さんは鞄から『清宮ハルヒの憂鬱』を取り出す。


「これは?」

「この本は『清宮ハルヒの憂鬱』がアニメ化される前に刷られた本ですわ」


 それはすごいらしい。


「初版ではなく2版なのが残念です。でも、わたくしのお気に入りのレア本です」


 小笠原さんはご機嫌な口調で説明します。本当に本が好きなのだと思うのであった。


 そう言えば、もう直ぐバイトで弁償するか決める期限だ。どれくらい働けば還せるのであろう……。

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