第五章 再会と二人目

5-1

 それからさらに一ヶ月が経った。


 その間、何人かの少女たちは家事の合間に王都へ出かけては自主的に求人募集を探しているようだった。

 そのためノーマンは特に手出しはしなかった。

 自分の正体が隠す都合上、王都への外出には付き合うことができない。


 しかしどうやら就職は難航しているようだった。


 最初に就職が決まったコーディリア以降、誰一人として屋敷から巣立っていない。



「なぜだ」


「ご説明いたしましょうか」



 自室で独り言をつぶやくと、いつものように前触れもなくアリエルが現れる。

 もはや驚く気にもなれない。


 水浴びのときに見せたしおらしい姿も、宣言通りあれ以来一度も見せていなかった。



「ぼくがなにを不思議に思っているのかわかるのか」


「大方、どうして女性たちの就職活動がうまくいかないのかを不思議に思っていらっしゃるのでしょう?」


「そのとおりだ。さすがだな」


「ご主人様の顔色をうかがうのは侍女の基本的な技能です。ところでご質問の件ですが、理由は王都には失業者があふれているからでしょうね」


「そうなのか?」


「単純に考えてみてください。お城に勤めていた人たちはみんな仕事を失くしました。護衛の騎士はもちろん、私のような侍女、そして後宮の女性たち。あとは料理人、庭師、などなどです。あの大きなお城を不足なく動かすためにはそれだけ多くの人が必要でした」


「それが今は必要なくなった、ということか」


「はい。みなさん、仕事を失ってしまいました。単純に考えると、やはり能力の高い人から順に仕事を得ていくことになります。後宮の女性たちはいくら炊事ができると言っても城に勤めていた料理人にはかなわないでしょう」


「なるほど。王都にはすでに仕事のない人であふれているから、就職がうまくいかないということか」


「そうですね。どんなことでも、枠は限られています。無制限に受け入れてくれることはありません」


「案外うまくいかないもんだな」


「ノーマン様は革命をもっといいものだと考えていましたか?」


「ぼくはそれほどロマンチストじゃない」



 悪いやつを倒せばこの世のすべてがうまくいくと信じていたわけではない。


 そもそもノーマンが革命に協力したのはただの私怨と利己心からだ。

 国や社会を良くしようと思っていたわけではない。



「ここで一つ、ノーマン様がこの疑似後宮を養うことができるほどの甲斐性を得る方向で考えてみるのはいかがでしょうか」


「平民は後宮をもたない」


「こだわりますね」


「当然だ。王都がダメならやはりコーディリアのときのように、どこか別の町へ出かけるしかないな。しばらくは支援者もいてくれるようだし」



 いつかの夜這い以降、オベロンは特に行動を起こしてこない。

 いつものように笑顔を絶やさず、家事を手伝っている。



「もしお嬢様に見放されたらどうするおつもりですか?」


「そのときは田舎で隠遁生活でもするしかないだろう。畑を耕したり、魚を釣ったり、獣を狩ったり。今より質素にはなるが、暮らしていくだけならなんとかなるはずだ」



 ノーマン一人の生活能力では厳しいが、さいわい屋敷で暮らす女性たちは様々な能力に優れている。

 協力すればなんとかできるだろう。



「だが今はもしものことを考えるより先に、彼女たちの就職を手伝うべきだろう。王都以外の場所へ行くのならぼくも手伝える」



 コーディリアが就職をしたときにはさほど力になれなかった。

 だが次こそはうまくやろうという意気込みはある。



「では、お次に協力する人は決まってるんですか?」


「もちろん考えてある。前回の反省を活かして、今回は屋敷の主要な家事を担っていない女性から選んだ」



 コーディリアが抜けたことによって屋敷での共同生活は円滑に回らなくなり、副作用として女性同士のケンカまで勃発した。

 同じ過ちを繰り返すわけにはいかない。

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