第43話◆蒼汰、富士の麓でイチャラブする(その2)
◆蒼汰、富士の麓でイチャラブする(その2)
サキさんは足柄SAを出てから助手席でぐっすり眠っている。
今回のキャンプは、今の会社を辞めて須藤建設に転職する俺の気分転換のために、サキさんが提案してくれたものだ。
サキさんは自分のことより、いつも俺のことを優先して気遣ってくれる。
でも、サキさんも本当は疲れているのだと思う。
何せここ半年の間に、親父さんと喧嘩してキャンピングカーで放浪生活をしたり、カバ男に拉致されたりと大変な思いをして来たのだから。
俺の眠り姫は、本当に死んだように眠る。
夜中に目が覚めた時なんかは、隣で寝返りも寝息もたてずに寝ているので、生きているのか何回か確認したくらいだ。
軽ワゴンは少々走行音が大きいので、俺はそんな姫が起きないよう、スピードを少し落とすことにする。
そうこうしているうちに、クルマは新富士インターを下り国道139号線(富士宮道路)へと入る。
後はこの道を本栖湖方向に北上して行けばキャンプ場に着いてしまう。
実はこの道を途中少し逸れれば、あの富士ミ○クランドなんかもあったりする。
もしサキさんが起きていたら、ぜったい寄って行くと騒いだかも知れない。
富士宮道路を走っていると両側は緑がいっぱいで、まるで北海道を走っているような気分になる。
富士宮といえば、B級グルメの富士宮焼きそばが有名だ。 ←さっき足柄SAで焼きそばを食べたくせに・・・
ふ○とっぱらキャンプ場への道は、富士宮道路(139号線)にあるY字路を左方向に行くのだが、案内標識が小さい上に標識が地味な色なので見落とさないよう注意が必要だ。
そしてこの左側へ逸れた夜一人だったら絶対に走りたくないような道を進んで行くと、やっぱりあの霧がモヤモヤと湧いて来た。
つまり、それは今回も異世界側のキャンプ場に泊まるということだ。
ただでさえ1500サイトと広大なキャンプ場なのに、いったい何人くらいの人がいるのだろう。
さすがに俺たちだけってことは無いだろうけれど・・・
管理棟の前にクルマを止め、いつものように受付をしに行こうとして、サキさんがまだ寝ていることに気づく。
俺がサキさんの実家の稼業を継ぐことになってから、いろいろ気遣ってくれていたし、精神的にも疲れているのだろう。
まっ、せっかくだからもう少し寝かせておいてあげようと思い、ひとりで受付に向かうことにする。
キャンプ場に来たぞーっという感じがする管理棟の前には、珍しくバイクが何台か止まっている。
どうやら今回のキャンプ場は、俺たちの貸し切りではなかったようだ。
俺も16からバイクに乗っていたので、ピカピカのバイクを見てちょっと懐かしい気分になる。
そして今回、受付にはライオン男とキリン(性別不明)が座っていた。
ここは富士サファ○パークかよ! と心の中で突っ込みながらカウンターで手続きをする。
それにしてもキリンの方は、人の体なのに肩から上(首が長い)のバランスが超悪い。
なんだか、ろくろ首と話しているみたいだし、こっちもずっと上を向いて話さないといけないのでホント疲れる。
受付を終えてクルマに戻ろうとすると、なんとサキさんが怖い顔をしてズンズンと俺に向かって歩いて来るではないか。
「蒼汰さん! なんで起こしてくれなかったんですか!」
「いや・・あの・・ ぐっすり眠ってたから起こしたら悪いかなって思って・・」
「あたし・・まだこっちの世界でひとりになるのが怖くって・・ ぐすっ」
(あーーー もしかして泣くの?)
サキさんは泣き虫なのだ。 そして涙の量が半端ない。 俺は少々慌て始める。
「サ、サキさん。 ここでは迷惑になるから、あっちで話そう」
俺はサキさんの肩に腕を回して、クルリと出口の方に体の向きを変えた。
そしてゾウとキリンに見えないよう、速攻でKissをする。
ふぇっ?
俺の突然の奇襲にサキさんの目がまんまるになるが、どうやら作戦は成功したようで落ち着きを取り戻す。
そのまま手をつないでクルマまで戻り、大草原のど真ん中へとクルマを移動し始める。
「ほら、サキさんがストップと言ったところに止めてテントを張るよ~」
そう言いながら助手席のサキさんをちらりと見ると、まだ頬っぺたがぷっくり膨れている。
「ス、ストップです」
けっこうな距離を走ったところで、ようやくストップの声がかかる。
おぉっ これはほんとうに、ど真ん中だぁ!
もうこの景色は雄大を通り越し、天国にいるんじゃないかと思ってしまう。
「サキさん、すごいよ。 ここってパワースポットなんじゃないの!」
自分がその場に立っているだけで、心が浄化され澄み渡って行くのが分かる。
今日は、ここで一泊するのだ。
夕日に染まる富士山や満天の星空もきっとすばらしく綺麗に違いない。
「ね、蒼汰さん。 あたし、いい事思いついちゃった」
サキさんが、俺のシャツの袖を引っ張りながら、ニコッと笑う。
「うん? なにを思いついたの?」
「あのね。 あたしたちの結婚式、ここでしませんか」
「ここで?」
「はい♪」
「・・・ それって、すごくいいかも」
「でしょ」
「あーー でも、式に出てくれる500人の人達はどうするの?」
「大丈夫です。 大型バスが10台あれば解決ですよね」
「うん、まあそうだけど・・」
「父の同級生で観光バスとタクシーの会社をやっている社長さんがいるんです」
「まさか・・・」
「ええ、父のキャンプ仲間のひとりですよ。 あたしも小学生のころ一緒にキャンプに行ったことがあります。
その社長さんも異世界側に行ける人なんです」
「すごい人脈だね」
「えへへ。 帰ったらさっそく父に相談してみますね」
そうか。 上田から本栖湖までクルマで3時間くらいだから、朝9時に上田を出ればお昼までにはここに着けるのか。
それで披露宴を3時でお開きにすれば、みんなは上田に夕方までには戻れる・・っと。
もしバーベキュー形式の披露宴が実現できるなら、俺も人が大勢いても緊張しなくて済みそうだ。
あとは、1台のバスにつき異世界に行ける人が最低でもひとりは乗ってもらう必要がある。
ここをどうクリアするかが一番の問題になるかもしれない。
俺は目の前にそびえる富士山を眺めながら、生まれてから24年間の中で一番大きな深呼吸をしたのだった。
第44話「蒼汰、富士の麓でイチャラブする(その3)」に続く。
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