第44話◆蒼汰、富士の麓でイチャラブする(その3)
◆蒼汰、富士の麓でイチャラブする(その3)
セグウェイは、立ったまま乗る乗り物だ。 そしてこれにも、オンロードタイプとオフロードタイプがある。
この乗り物で特徴的なのはアクセルやブレーキは無くて、重心移動によって動きを制御するところだ。
前後の移動は、セグウェイに乗った状態で、前後の進みたい方向にわずかに体重をかけるとその方向に進む。
方向転換するには、行きたい方向へハンドルを倒せばその方向へと回転して行く。
停止するのはちょっとコツがあるのだけれど、進んでいた方向と逆方向に体重をかけ、足を水平にすれば止まる。
スピードは最高で20Km/hといったところだが、これでも結構早く感じる。
実は俺は、セグウェイに一度だけ乗ったことがある。
ただし、あるイベント会場の平坦な場所で、ほんの2、3分だけだったけど。
だから、すぐに乗りこなせると思っていたのだ。
しかし、その考えは甘かった。 そう、俺たちが予約したセグウェイツアーは、林道の中を行くのだ。
つまり、でこぼこ道をセグウェイで走らなければならない。
セグウェイは体重移動でコントロールするから、アップダウンがある道は操縦が難しくなる。
「さあ、それでは基本の操縦方法を教えますガォー」 座学講習を終えて、いよいよ実技講習だ。
そしてインストラクターは、ライオン男とキリン(性別不明)の二人らしい。
ってか、受け付けに誰もいなくていいんかいっ! という突っ込みを心の中で入れてみる。
まあ、異世界キャンプ場なので人が少ないから平気なんだろうけど・・
サキさんは少し離れたところで、真剣な顔をしてライオン男の説明を聞いている。
「では基本がわかったところで、まずは平坦なところで実際に動かしてみましょうガゥー!」
「はいっ それでは体重を前にかけてガォ」
「こ、こうですね?」 サキさんは、いきなりグィッと前のめりの恰好になる。
ああぁ そんなに倒したら!
キャーーー!!
案の定、サキさんのセグウェイは前方の林めがけてグングン加速していく。
「ブレーキ! ブレーキ! 体重を後ろにかけてーーーーガゥ!」 ライオン男は大慌てだ。
「ブレーキ? ええっ? そんなのついてないわよーーー」
「だから、早く体を後ろに倒すんだガゥーーー!」
ライオン男もサキさんの後をセグウェイに乗って追いかけるが、体重が軽いサキさんに追いつけない。
俺も走って追いかけるが、怖がってハンドルにしがみつく前傾姿勢のサキさんのセグウェイは速過ぎた。
疾走するセグウェイの目の前には、もう立木が迫っている。 早く助けないとこのままでは立木に激突してしまう。
「サキさーーん。 俺の方を見るんだーーー!」
サキさんは、後ろから俺の声がしたので振り返って俺のことを必死に探す。
必然的に前のめりだったサキさんの体が起きて、スピードが落ちる。
「サキさんこっちだ!」
「蒼汰さ~ん。 怖いよ~」
サキさんは無意識にハンドルを右に倒して旋回し、俺の方に向かって来た。
よかった。 これでもう大丈夫?・・・
だが、ほっとした俺に向かって今度はサキさんがまっすぐに突っ込んで来る!
「サキさん! ブレーキ! ブレーキ!」
「だからブレーキって、どこにあるのーー?」
うわーーーっ!
俺は間一髪でサキさんのセグウェイをかわし、そのままサキさんの服の背側をつかんで引っ張った。
服を引っ張られたサキさんは、ぐぇと言う声と同時にセグウェイからストンと降り、乗る人がいなくなったセグウェイはその場に停止した。
「ケガはなかったですかガゥ」 ライオン男が乗ってきたセグウェイから降りて近づいて来た。
「どうもすみませんでした」
「ほんとうにごめんなさい」
夫婦で深々と頭を下げ謝罪する。
この後、ライオン男とキリン(性別不明)が何やらごにょごにょ話していたが、通常の人のパイロン練習の倍の時間をかけて親切に教えてくれた。
なので技術確認レクチャーも何とか無事合格し、林道コースへと出発することができた。
それにしても、サキさんは大型ダンプは軽々と運転するのに、なぜセグウェイはあんなにダメダメだったのだろう。
この謎は、だいぶ後になってから判明するのだった。
第45話「蒼汰、富士の麓でイチャラブする(その4)」に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます