第40話◆クマ親父VSネコ娘
◆クマ親父VSネコ娘
北海道のキャンプ旅から帰って来てから、しばらくの間は地獄の日々が続いた。
そう、休んでいた間に溜まった仕事が机の上に山のよう積み上がっていて、ひたすらその消化の毎日だったのだ。
始発で出社し終電で帰って来る。 でもそんな俺にサキさんは毎日早起きして、お弁当を作ってくれた。
しかも、キャラ弁・・ 蓋を開けると、どう見てもサキさんの顔にしか見えない猫耳の女の子。
これはちょっと食べるのを躊躇(ちゅうちょ)する。 だってどこから食べても残った部分がちょっとグロい。
でも、料理上手のサキさんのお弁当は、とてもおいしい。 これを食べれば溜まった疲れもたちまち吹き飛ぶ。
***
そして、あっと言う間に一週間が過ぎ、クマ親父が上田に帰って来たとのメールがお義母さんからサキさんのもとへ届いた。
なので、週末は上田のサキさんの実家に出向かなければならない。
それは結婚式の打ち合わせもあるのだけれど、そもそも結婚の挨拶もまだなのである。
順序がめちゃくちゃだけど、こうなったのはクマ親父にも一部責任がある。 ・・と思う。
サキさんの実家はN県でも有名な建設会社だ。 そこのひとり娘の結婚式となれば、政財界の大物なども主賓や来賓として大勢みえるに違いない。
一方、俺の方は両親が他界しているし、本人は中小企業のリーマンでしかない。
会社の上司や同僚、学生時代の友人を入れても招待客の人数はたかが知れている。
これってヤバくないか? 上司(宮下課長)に挨拶を頼んでも嫌がられるに違いない。
うちの社長なら釣り合いが取れるかもだけど、社長は末端の俺のことなんか知らないし・・・
あ゛ーーー もう、めんどくせーーー!
***
そして、結婚式の打ち合わせは予想どおり、父と娘の大バトルとなった。
「お父さんの結婚式じゃないんだから、そんなに大勢呼ぶ必要ないでしょ!」
「何を言ってるんだ。 咲姫は須藤建設の次期社長なんだぞ。 あらゆる分野の人脈に通じていなきゃ、この先やっていけないだろう!」
「あたし、跡継ぎなんかにならないから、その必要はないです」
「なんだと! わしが我慢してこの男との結婚を許したのは、咲姫とそういう約束をしたからじゃないか!」
「なっ! あたし、そんなこと言ってないでしょ」
「いいや、言った!」
「言わなかったわ!」
「それなら、今すぐ別れろ!」
「・・・蒼汰さん、もう帰りましょう。 父がこんなに分からず屋だと思わなかったわ」
「咲姫、ちょっと待ちなさい」 興奮して立ち上がったサキさんにお義母さんが声をかける。
「お母さん・・」
「そこに座って」 お義母さんは穏やか顔でサキさんを見つめる。
それを見て、サキさんはゆっくりとソファーに腰を下ろした。
「咲姫はお父さんが言っていることが、本当に間違っていると思っているの?」
・・・
その言葉にサキさんは、うつむいたまま黙り込んでしまう。
「うちの会社はね・・ あなたが生まれた年にお父さんが立ち上げたの」
・・・
「生まれてきた娘のために、俺はこの会社を日本一の会社にするって。 まだ長野一にもなってないけどね」
・・・
「でも、そこそこ大きな会社になって、社員の人もたくさん増えたわ。
お父さんはね、あなたの他にも社員という家族を本当に大切にしてる。 だから、この会社の将来のことを真剣に考えているの」
・・・
「あなたは、自分じゃなくても誰か後を継げばいいじゃないかと思っているかも知れないけど、まだ20年ちょっとの会社ではそれは難しいところがあるわ。
うちのような会社の経営者には、絶対的な求心力が必要なのよ。 社員が一丸となって仕事をする、もしもこれが出来なくなったら・・・」
「お母さんの言うことは、分かっているわ。 でも、あたしにはうまくやっていく自信がない!」
「咲姫、なにもあなた一人が頑張る必要はないじゃない。 今は蒼汰さんがいるでしょう。
それに、お父さんやお母さんだっているじゃないの。
お父さんだって、ほんとうは蒼汰さんのことを頼りにしているのよ。 ねえ、あなた」
「お・・おぅ。 そ、そうだな」 クマ親父は、いきなり自分に振られて思わず上擦った声を出す。
その言葉に今度はサキさんが、俺をジッと見つめて来る。
あーー これはもう、俺に任せておけとでも言うしかない状況だ。
「サキさん、俺もお義父さんのように、サキさんとこの会社のために頑張るよ」 (あ゛ーーー 言ってしまったーー)
「よく言った! 蒼汰くん!」 クマ親父がすごい勢いで近づいて来て、俺の背中をバンバン叩く。
ちょっ、痛い・・ 痛いですって。 ほんとうに熊なみの力で叩くの勘弁して欲しい。
で、今回は結局、クマ親父の望む方向で話が進んで行った。 披露宴の出席予定者数は、なんと500名。
この先、俺はいったいどうしたらいいのだろう・・
第41話「蒼汰、上田の地に骨を埋める覚悟をする」に続く。
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