第39話◆売られたキャンピングカー
◆売られたキャンピングカー
サキさんの親父さんが北海道に居たのは、カバ男の事件への対応だった。
どうやら親父さんは、異世界キャンプ場を管理している団体の理事をやっているらしい。
そしてこの団体は、獣人化して異世界の住人となっている人たちの支援や施設の管理を行っている。
なんでも団体を運営しているのは、こちらの世界と異世界を行き来できる、まだ獣人になっていない人たちだそうだ。
聞くところによるとカバ男さんは反省して謝罪もしているが、どうやら勤務先が変更になるらしい。
異世界のキャンプ場の管理人さんたちもそうだけど、団体側の人数も少ないのでお互いに大変みたいだ。
親父さんは、カバ男さんの後任の人が来るまでの間、北海道に滞在するそうで上田に戻れるのは1週間くらい先になると言っている。
「サキ、わしが上田に戻ったら結婚式の細かな打ち合わせをするからな、母さんにもそう言っておいてくれ」
親父さんはサキさんの肩をポンポンと叩くと、そのまま管理棟の方に歩いて行ってしまった。
***
クマ親父が出没した所為で、出発時間が大幅に遅れてしまった。
これで観光する時間が減ってしまったので、サキさんに寄りたいところを一つだけにするとしたら、どこがいいと聞いた。
で、サキさんは、それならば屈斜路湖で砂湯に入ってみたいと言う。 なるほど、そう言えば俺も砂湯には入ったことは無かった。
なんでも屈斜路湖は、九州の阿蘇カルデラよりも大きくて、東西約26km 南北約20kmと日本最大の「屈斜路カルデラ※」の中にある湖で、周囲は57km、最大深度は117.5mと日本でも6番目に深い湖だ。
そしてあの有名な謎の生物「クッシー」がいる。
砂湯とは、屈斜路湖の波打ち際の砂浜を掘ると温泉が湧いて来るという珍しい場所だ。
手で掘ると時間がかかりそうなので、キャンピングカーに積んであったスコップを持参する。
砂浜を見たサキさんが興奮したのか、突然子どものように波打ち際に向かって走っていき、砂に足を取られてベッタンとすっころんだ。
それでもサキさんは顔を砂につけたまま右腕を高らかにあげ、人差し指を下に向けて、ここを掘れの合図を出す。
俺が倒れたままのサキさんを抱き起こすと、見事に顔が砂まみれになっている。
う゛ーーと目を瞑ったままのサキさんの顔についた砂を払ってあげながら周りを見ると、俺たちを見ていた人がクスクス笑っていた。
すっごく恥ずかしかったけどサキさんをその場に座らせてから、スコップで砂浜をザクザクと掘って行く。
すると直ぐに穴からじわじわとお湯が湧き出して来た。
おっきな穴を掘って子どもを水着で遊ばせている人もいたけど、観光客も大勢いるので二人分の大きさの穴を掘って足湯を楽しんだ。
駐車場に戻る途中、お土産屋さんの前にクッシーの青いハリボテが置いてあったので、かわりばんこに写真を撮っていたら、親切なおじさんがシャッターを押してくれた。
時間をみながら最後に美幌峠で屈斜路湖を眺め、雄大な風景にまた絶対来るぞと心に誓う。
後はもう、ひたすら苫小牧港に向かってクルマを走らせる。
途中クルマの中でサキさんが、上田に戻ったらこのキャンピングカーを売ると言い出した。
何となく分かっていたけれど、一応どうしてか訊ねてみる。
すると案の定、自分たちの結婚式のために親に負担をかけたくないから、結婚式の費用の足しにするのだと言う。
元々はそのために貯めたお金で買った逃避行用キャンピングカーだし、自分たちには別に軽ワゴンがある。
それに年に1、2回しか使わないのに維持費もばかにならないでしょうと少し寂しげに笑った。
***
苫小牧港には、何とかギリギリで着くことができた。 おかげで待つことなくそのまま乗船。
ゆっくりゆっくりと港を離れるフェリーの甲板から、灯りがともる苫小牧の町を眺め、慌ただしかった北海道の旅を振りかえる。
今回は、いろいろな出来事があって計画通りに行かなかったけれど、サキさんと一緒の旅は本当に楽しかった。
次に北海道を訪れるときは、家族が増えているかも知れないけれど、一か月くらいかけて一周してみようと思う。
第40話「クマ親父VSネコ娘」に続く。
※世界一大きいカルデラは、インドネシアのスマトラ島のトバカルデラ(約100×30km)。
2番目 はアメリカのイエローストーンカルデラ(約70×50km)でしょうか。
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