第37話◆蒼汰、釧路湿原の展望台で愛を叫ぶ
◆蒼汰、釧路湿原の展望台で愛を叫ぶ
見渡す限りどこまでも広がる広大な湿原。 まさか日本でこんな景色が見れるなんて思ってもみなかった。
しかも隣にはサキさんが居る。 1年前には彼女もいなかった俺が最愛の人と結婚して今、北海道にキャンプ旅行に来ているのだ。
大自然のど真ん中で、もうテンションはMAXだ!
「サキさん、俺・・・ なんだか叫びたくなってきた!」
「蒼汰さん。 あたしもです」
「じゃあ、俺から!」
「サキさーーーん! だいすきだーーーー! あー いー しー てー るーーーーー!!」
「そー たー さー ん! あ・た・し・もーーー あー いー しー てー るーーーーーぅ!」
ひゅー ひゅーー
「お熱いね お二人さん!」
「わー 新婚さんかなぁー」
いつの間にか俺たち二人の後ろに、たくさんの人がいた。 どうやらバスツアーの人たちのようだ。
俺とサキさんは、顔を真っ赤にしてその場からダッシュで退散する。
「あーー 恥ずかしかったぁ」
「ほんとうです。 まさか、うしろにあんなに人がいるなんて思わなかったです」
サキさんは耳まで真っ赤にしながらも、しっかり腕を組んでくる。
「でもなんだか、もうちょっと景色を眺めていたかったですね」
「そうだね。 でも、あのままあの場所に居続ける勇気はなかったなぁ・・」
「うふふ ここは異世界のキャンプ場でないですから、人がいっぱいいましたね。 大失敗でした」
そう言いながらも、サキさんはさらにギュッとくっついて来る。
「サ・・サキさん。 ちょっと、おみやげでも見て行こうか」
「はい♪」
ちょっと変わった形のサテライト展望台の建物は1階がショップとレストランになっている。
ただし2階からは有料で、幻の魚「イトウ」や釧路湿原の動植物の復元展示物などが見られるようになっていた。
今回は時間がなくて湿原の中を通る木道には行けなかったので、ここで雰囲気だけを味わう。
いつも流し見の俺とは違って、サキさんは展示物の一つ一つを丁寧に見ては、感心したり感動したりしている。
俺はどちらかと言えば展示物ではなく、そんなサキさんを見て癒され、ほっこりしていた。
時間はあっという間に過ぎて行き、そろそろ出発しなければならない。
北海道は広くて移動に時間がかかるのだ。
サキさんは展望台を出る前にお土産を買ったみたいだったけど、何を買ったのかは秘密なのだと言って笑って見せてくれなかった。
***
今日はこのあと、道道53号線をひたすら北上し、弟子屈(てしかが)町を通って屈斜路湖を目指す。
そして今日のキャンプ場は、ハイラ○ド小清水キャンプ場だ。
このキャンプ場は、屈斜路湖の北側にある。
途中には川湯温泉や屈斜路湖の湖岸には砂湯もあるので、温泉も楽しめそうだ。
キャンプ場からは、1時間ちょっとで網走まで行けるし、もう少し足を延ばせば能取湖やサロマ湖もある。
でも悲しいかな、明日には苫小牧港へ戻らなければならない。
なので今日は、二人の思い出に残る最高のキャンプにしたいと思っている。
幸いなことに今日の天気予報は快晴。 きっと満天の星空が眺められるだろう。
キャンプ場に近づくに連れ、いつものように霧が出始める。
しかし、なんだかいつもと雰囲気が違うなと思っていたら、なんと本物の濃霧だった。
ナビを頼りに更にクルマを進めて行くと、俺たちはいつの間にか小清水キャンプ場に到着していた。
***
北海道にはキャンピングカーで来ているため、タープを張ってテーブルと折りたたみチェアを出せば、もうキャンプ準備完了。
テントの設営時間を節約できた分、すべてを料理の時間に回せる。
今日は、サキさんが腕を振るって「牛モモ肉のビール煮」を作ってくれると言う。 肉好きの俺は、もうそれを聞いただけで涎が口内に溢れて来る。
ならば俺も特別な一品を作るよと、はりきって言うとサキから「焼きおにぎり」がリクエストされた。
ふふん たかが焼きおにぎりと思っていたら大間違い。
明太子とバターとニンニクを炒めて作った秘伝のタレを塗った焼きおにぎりを、まだ食べたことなどないだろう。
そして、もうひとつ。 北海道のウニをバーナーで炙って、少量の鰹節と一緒に具に入れた炙りウニおにぎり。
これをワサビ醤油で食べたら、料理漫画の審査員のようにオーバーリアクションで絶賛すること間違いなしだ。
二人で料理を作って、大自然の中で向かい合ってそれを頂く。 なんと幸せな時間の過ごし方なんだろう。
***
食後の珈琲を飲んで、一息つけば時間はもう21時を過ぎている。
俺は今日この時のためにと買っておいた、コールマンのガスランタンでムードを演出する。
最近はLEDランタンも多くなったけど、やはりガスの炎は、自然の生きた光の暖かさを感じる。
こういうちょっとしたところが、雰囲気作りには大切なのだと思う。
ランタンを吊るしたところから少し離れた場所にシートを引き、その上にエアマットを並べ寝そべり夜空を眺める。
そして、ゆるゆると流れる時間の中で、たわいもないことを語り合った。
木と草と土のにおい。 時折り吹いて来る涼しい風。 手を握り満天の星空のなか、神話に出て来る星座を探す。
サキさんの微かな息づかい。 呼吸するたびに少しだけ上下する胸のふくらみ。
俺はこの女性(ひと)を一生たいせつに守って行くと北の大地に誓ったのだった。
第38話「熊おやじ現る」に続く。
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