第36話◆蒼汰、北海道で本物の熊を見る その10

◆蒼汰、北海道で本物の熊を見る その10



サキさんがカバ男に拉致されていたため、夕食の食材を買いに行けなかった。


なので、クルマの冷蔵庫にあったものでチャーハンとベーコンのスープを作ってみた。


これはこれで美味しかったのだけれど、北海道のキャンプ場で夜空を眺めながら優雅に食事という雰囲気でもなく、サキさんも精神的に参っているようなので早めに寝てもらうことにした。



サキさんが寝入ってから、俺はひとりで明日のプランについて検討し始めた。


今は北海道の釧路市に居る。  なのでせっかくだし明日の午前中は釧路湿原を見に行こうと思う。



釧路湿原国立公園の面積は約2万8000ヘクタールもあり、なんと東京23区がすっぽり収まってしまう大きさだそうだ。


こんなに広い湿原を見てまわることは時間的に無理なので、釧路市湿原展望台からこの大パノラマを眺めることにする。


釧路湿原展望台は、道道53号線(たんちょう舞ろーど)沿いにある。 その少し先には、北斗展望地もあるのでついでに立ち寄ってみよう。


あとは更に北上して阿寒摩周国立公園まで行き、ハイラ○ド小清水キャンプ場で一泊、翌日観光しながら苫小牧港へ戻るコースでいいだろう。



大まかなプランが見えたところで、俺も寝ることにする。


時間は、なんだかんだで23時を過ぎていたし、俺も今日一日でマラソンのフルコースを走ったような気がする。


ベッドにもぐりこむとサキさんが小さな寝息を立てている。  寝顔が可愛らしく愛しくて、おでこにそっとKissをした。



***


次の日の朝、俺が起きるとサキさんはもう起きていて、朝ご飯の支度をしていた。


昨日は時間がなくて話さなかったけど、サキさんを見つけるためにお義父さんに犬になれとアドバイスをもらったことを食事の合間に話す。


するとサキさんは、少し驚いたような顔をしてから、うんうんと頷きニッコリ笑った。


それを見て、やっぱり喧嘩はしていても、サキさんはお父さんのことは大好きなんだろうなぁと思った。



サキさんが無事に見つかり怪我もなかったのは良かったのだけど、異世界側の住人にもいろいろな問題があるのだということも分かって来た。


いままではこちらの世界で出会うといえば、キャンプ場の管理人さんとかキャンプに来ている人とかなので、特に警戒などしたことはなかった。


もうあんなことは二度と経験したくは無い。 だからこれからは、大切なサキさんを一人にするようなことは決してしないと心に誓った。



***


キャンプ場を出て道道666号線を走り、途中から道道53号線に入り北上する。



道の両脇は、どこまでも木々が生い茂り、様々な緑色の中をひた走る。


花萌葱(はなもえぎ)、深碧(しんぺき)、若葉色(わかばいろ)、花緑青(はなろくしょう)、鸚緑(おうりょく)、織部(おりべ)・・・


隣でサキさんが、緑色の種類とどんな色味なのかをゆっくりと説明してくれる。


自分は12色のクレヨンにある緑と黄緑くらいしか思い浮かばなかったので、ちょっと恥ずかしかった。



そして窓を開ければ都会では感じたことのない、少しひんやりした風に運ばれて、木や草の心地よい匂いが飛び込んで来る。


もうずーっと、どこまでもこの道を走っていたい気持ちになる。



「あっ  あーーーーーっ!」


窓から顔を出して外の景色を眺めていたサキさんが、突然大きな声をあげる。


びっくりして、ブレーキをかけると



「蒼汰さん!  あれ、あれ・・・  クマですよ。  ほらっ  あそこ!」


なるほど、サキさんが指さす方を見れば、黒い大きな塊と小さな塊がのそのそ動いている。


そういえば昨日、釧路湿原のことを調べていたら熊出没の看板の画像が出て来たっけ・・・


しばらくその親子連れのクマを見ていたら、目の前の道を横断して林の中へ消えて行った。



「うふふ  子グマ、可愛かったですね」


サキさんは、俺を見ながらニコニコ笑う。


俺はそんなサキさんが一番かわいいと思うよ。  心の中でそう言って俺もニヘラっと笑った。



第37話「蒼汰、釧路湿原の展望台で愛を叫ぶ」に続く。

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