第35話◆蒼汰、北海道で本物の熊を見る その9
◆蒼汰、北海道で本物の熊を見る その9
「ほら、奥さん。 もう耳と尻尾が生えて来たカバ。 なるほどー 奥さんは猫だったんですねカバ。 これなら、あと1日あれば完全に「けもの化」して、元に戻らなくなるカバ。 そうしたら、わたしと このキャンプ場で死ぬまで一緒に働くカバ」
ムグゥーーー!
***
コインランドリーコーナーに着いた俺はベンチに座って、自分の鼻が犬の鼻に変わるのを待った。
しばらくすると、サキさんの花のような においを微かに感じる。 そう、初めてサキさんの部屋でキャンプの計画を立てたときの花の香りだ。
クン クン クン よし! こっちだ。 俺は、においを辿りながら迷いなく進んで行った。
受付カウンターに近づくほど、においがハッキリしてくる。 間違いない、こっちだ!
受付には誰もいない。 だがサキさんの においは確かに事務所の奥へと続いている。
受付カウンターを乗り越え、奥へと続くドアをそっと開ける。
するとサキさんの 花のような においが一気に濃くなった。
犬の嗅覚は犬種によっても異なるが、人の100万倍~1億倍といわれている。
そして聴覚は、4倍から10倍らしい。
ムグググ・・
なるほど、奥の部屋からはカバ男の声とおそらくサキさんだと思われるくぐもった声が聞こえて来る。
俺は焦る気持ちを抑えながら、音を立てないよう慎重に奥の部屋のドアの前まで、そろそろと近寄った。
「なるほどー 奥さんは猫だったんですねカバ。 これなら、あと1日あれば完全に「けもの化」して、元に戻らなくなるカバ」
くそっ やっぱりカバ男の仕業だったんだな!
バアーーン
俺は勢いよくドアをけ破った。 普通に開けてもよかったけど、蹴破った方が相手が怯むと思ったのだ。
なにしろ声のやり取りの状況からして、サキさんにもしもの事があったらマズイ。
案の定、カバ男はドアをけ破った大きな音に驚いて、腰を抜かして床に座り込んだ。 (カバは臆病な動物?)
俺は間髪入れずにサキさんのもとへ駆け寄る。
すぐさま念のためにと思って持ってきたキャンプ用の十徳ナイフで、サキさんを縛り付けていたロープを切った。
「サキさん、遅くなってごめん。 もう大丈夫だからねワン」
むぐぅーー
「てめー サキさんに酷いことをしやがってワン! 許さないワン!」
あわわわ・・ カバ男は俺が手にナイフを持っているのを見て、顔面蒼白となり震えてだした。
「さあ、サキさん。 早くこれを飲むんだワン!」 俺は「南ア○プス天然水」をサキさんに手渡した。
「蒼汰さん・・ 」
***
この後、カバ男は土下座しながら、ひたすら謝って来たので一発殴って許してやった。
サキさんはと言うと、天然水を一本飲んで何とか元の姿に戻ることができたし、怪我もなかった。
ただ、せっかく北海道までやって来たのに、キャンプ計画はめちゃめちゃになってしまったし、サキさんもショックを受けたせいで意気消沈状態だ。
だから俺は何とか最後の一日だけでも、思い出に残るキャンプにしようと計画を練りだしたのだった。
1日目 大洗港までの移動 フェリー乗船
2日目 苫小牧でキャンプ → 夜に釧路に向けて移動 十勝平原SAで車中泊
3日目 南富良野でキャンプ → 山花○園オートキャンプ場 (サキさん拉致事件)
4日目 留萌でキャンプ → ???
5日目 苫小牧へ移動 フェリー乗船
6日目 大洗港から自宅へ移動
第36話「蒼汰、北海道で本物の熊を見る その10」に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます