第31話◆蒼汰、北海道で本物の熊を見る その5
◆蒼汰、北海道で本物の熊を見る その5
道東自動車道は東名高速などとは違い、道路脇の照明がほとんど無い。 なので夜間走行は自車のライトだけが頼りとなる。
走行しているクルマの数も少ないので、前照灯はハイビームのままだ。
ここは一般道とは違うので、動物とかが飛び出してくる確率は低いと思うけど、それなりに注意しながら走る。
先ほど、占冠(しむかっぷ)パーキングエリアでサキさんと運転を代わり、サキさんは今キッチンでパエリアを作っている。
ほんとうだったら、星空を眺めながらロマンチックに食べようと思っていたのに、あの親父さんはいつも俺たちの邪魔をする。
予定より少しだけ早く着いた十勝平原SAで、サキさんが作ってくれたパエリアを食べる。
本当なら俺がリベンジで美味しいパエリアを作るつもりだったのでちょっと残念だったけど、やっぱりサキさんが作ってくれたパエリアは絶品だ。
せっかく買ったハスカップワインは、この後少しの仮眠を取ってすぐに運転するのでお預けになった。
仮眠と言っても、このキャンピングカーのベッドは、軽ワゴンのルーフテントに比べるとまるで天と地の差がある。
キャンピングカーとして作られたクルマと比較すること自体が間違っているのだけど、セミダブルの広さで上下二段はやはり凄い。
サキさんが恥ずかしそうに「少し窮屈かも知れないけれど一緒に寝ましょうね」と言う。 もちろん男の俺が断る理由などあるはずがない。
サキさんが先にベッドに入ったので、明日のキャンプ場の情報を少しだけ確認してから、自分もベッドにもぐりこむ。
「サキさん、おまた・・・せ・・」 ありゃ~ 待ってなかったのね。
サキさんは、よほど疲れていたのか早々に眠りに落ちていた。
その寝顔があまりにかわいいので、おでこにそっとKissをして自分も目を瞑る。
時折り本線を走って行くクルマの音が、なんだか寂しげに聞こえて来る。
それが何台目か数える間もなく、俺も深い眠りに落ちて行った。
***
「そ・う・た・さ・ん 朝ですよ~♪ そ・う・た・さ・ん♪」
う・・う~ん
チュッ
うん?
「えへへ おやすみのKissができなかったから、おはようのKissです。 大サービスですよ♪」
「サキさん、俺このサービスは大歓迎です」
「まぁ それじゃ、もぉいっかいだけ♪」
チュッ
「あーー あと一回だけーー」
「ダメです。 あまりサービスし過ぎると有り難みが薄れちゃいますからね」 そう言ってサキさんはニマッと笑う。
ちぇーーっ
「それより朝ご飯が出来てますから、食べてしまいましょう。 ちょっと寝坊してしまいましたから、食べたらすぐに出発です」
よく見れば、サキさんはエプロン姿だ。
下がホットパンツで上がタンクトップなので一瞬、裸エプ○ンに見えてしまう。
男の朝事情もあり俺がモソモソしていたので、サキさんが痺れを切らせてまた呼びに来る。
「蒼汰さん、どこか具合わるいんですか?」
「いや、むしろ元気過ぎて・・・」
ん? サキさんが首を30度傾げる。
「いや、なんでもないです」
テーブルの上に並べられた朝ご飯は、なんと焼き魚とお味噌汁、それに焼き海苔と温泉たまごまでついてる。
「すごいや。 旅館の朝ご飯みたい」
「うふふ 実家の朝ご飯は、かならず和食なんですよー」
「へぇー」
「父が和食しか食べな・・いんで・・す」
「って、サキさん。 なんかワナワナしてませんか?」
「いいえ、してません! してませんから!」
そう言いながらも、サキさんのほっぺたはぷっくりふくれてる。
さて、おいしい朝ご飯をお腹いっぱい食べて、元気がモリモリ出て来たところで出発だ。
SAを出て本線に合流し、本日の目的地の釧路市山花○園オートキャンプ場を目指す。
今回予約は敢えて取らない。 なぜなら、もし親父さんにキャンプ場へ問い合わせされたら行先がバレてしまうからだ。
それに、異世界のキャンプ場には、もう一人のクマ男(田中肇)のように、あの親父さんの友達がまだいるかも知れない。
阿寒ICまでは、約100km。
高速を下りたら国道240号線を8kmほど走って道道952号線に入れば、もうキャンプ場は近い。
途中には、釧路市丹頂鶴自然公園や釧路市動物園などもあるが、今回はパスだ。
そうしてキャンプ場に近くなると、いつの間にかお決まりの濃い霧がクルマを包み始め、あの不安な気持ちが、また俺を襲って来た。
第32話「蒼汰、北海道で本物の熊を見る その6」に続く。
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