第30話◆蒼汰、北海道で本物の熊を見る その4

◆蒼汰、北海道で本物の熊を見る その4



ジャン ジャン ジャン ジャッカッ ジャン ジャカジャン♪♪♪  


ポーチに入れたスマホが突然鳴り出す。


改めて思う。  異世界でも電話がつながるのかよ!



結構いい雰囲気だったのをぶち壊されて俺は超不機嫌な気持ちで電話に出る。


「もしもし、空野です」



「そらのぉーー  きさまーー!」 スマホのスピーカーが壊れるかと思うほどの大声が響き渡る。


「きゃー  もしかしてその声は・・・  お義父さんですか?」


「おいっ!  そこにサキもいるんだろう!   いるならサキに電話を代われ!」



「ど、ど、どうしよう。  お義父さんからだけど代われって言ってる」


俺はサキさんの方に、手にしているスマホを伸ばした。



するとサキさんは、俺のスマホをパシッという音をさせて掴むと、思いっきり「あそんで池」の方にぶん投げた。


ヒューーン  バチャッ  バチャッ  バチャ


へーー   スマホでもサンチョッパ行くのかーーー    ←この時点で既に現実逃避




「でもいったいどうして此処に居ることが分かったんだろう?」


俺はまだ怒りでワナワナ震えているサキさんにボソッと言ってみる。



すると


「だいたい見当は付きましたよ。  あたし、少し油断してました」


「えっ  サキさん、どうしてだか分かったんですか?」


「はい。  蒼汰さん、あたしと一緒に来てください」


そう言うとサキさんは、センターハウス(管理棟)に向かってズンズン歩き出した。


俺は何がなんだか分からないまま、サキさんのあとを追った。



管理棟に着くとサキさんは、真っすぐに受付カウンターに行き、クマ男さんに言った。


「あなた、父の知り合いの田中肇さんですね!」


「あーーー バレましたか」


「宿泊者の情報を勝手に漏洩させるのは、個人情報保護法違反ですよ!」


サキさんはカウンターに両手をついて、バン バン バンと思いっきり、そのカウンターを3回叩いた。


「いや  須藤さんから、もし娘がキャンプに来たら連絡をくれと頼まれていたのですよ。 わたしは、ただ友人の依頼に答えただけです」



「う゛ーーー   もういいです!   蒼汰さん、行きましょう! 」 


「えっ?   は、はい」   俺はクマ男さんにぺこりとお辞儀をしてサキさんを追っかける。


なんだか、俺はさっきからサキさんの後をついてまわってるだけだ。



「まったく、父も許せませんし、田中さんもサイテーです!」   サキさんは歩きながらプンスカ怒っている。



キャンピングカーのところまで戻るとサキさんは、せっかく出してあったテーブルや椅子を片付け始めた。


「サキさん、いったいどうするんですか?」


「蒼汰さん。  ここに一泊している間に、父がやって来てもいいんですか?」


「まさか、上田からですか?」


「あの父なら、飛行機を乗り継いででも絶対にやってきますよ」  


「ひぇーー」


正直、俺はまだ、あの親父さんと向き合う覚悟が出来ていない。  なのでここはひとまず逃避行に決めた。



決まれば行動あるのみ。  俺も急いで焚火台とタープをしまい、クルマに乗り込む。


俺が助手席に座るや否や、サキさんはクルマを急発進させた。


(2982cc 144PS  ディーゼルターボ    サキさんのチョイスはCAMROADベース車だ)



そういえばサキさんは怒ってると運転が荒くなるんだったっけ。


俺の寿命は須藤父娘(おやこ)によって、確実に削られていってるように思う。



「蒼汰さん。 すみませんけど南富良野と留萌のキャンプ場をキャンセルしてくれますか」


「どうしてです?」


「苫小牧から行けるルートだと父に見つかる可能性が高くなるからです」


サキさんは、もうあの親父さんが北海道に来る前提で話してる。  まぁ、俺もあの親父が来る予感しかしないけど・・・


「分かりました。  それじゃあ、サキさんのスマホを貸してください」


「え、どうしてですか?」


「あれ? もしかして覚えてないんですか?」


「・・・ あっ!   やだ、あたしったら・・・  ごめんなさい・・・ ごめんなさい」


「あーーー  サキさん泣かないでください。  スマホなんか、また買えばいいんですから」


結局、南富良野と留萌のキャンプ場はキャンセルして、行き当たりばったりの旅になってしまったが、かえってワクワク感が出て来た。



どこに向かうかサキさんとクルマの中でいろいろ考えたが、俺たちは結局 北の留萌ではなく東の釧路を目指すことにした。


千歳ICから阿寒ICへ道東自動車道で約4時間、今は19時過ぎなので途中の十勝平原SAで遅い夕食と仮眠をとることにする。



キャンピングカーは正に走る家だ。  どこにいても、食事もできるしベッドで寝れる。 しかもこのクルマは、シャワーとトイレまでついているのだ。


おまけにエアコン、電子レンジ、炊飯器、大型テレビなどなんでもありだ。



こうして俺たちはこのキャンピングカーで、暗くなった道東自動車道の十勝平原SA目指して、走り始めたのだった。




第31話「蒼汰、北海道で本物の熊を見る その5」に続く。

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