第29話◆蒼汰、北海道で本物の熊を見る その3
◆蒼汰、北海道で本物の熊を見る その3
7月1日(月)午前10時頃、道道タルマップ幌糠線801号沿いの畑で、熊1頭が目撃されました。
↑ ○○市のHPを見ている
「げっ・・ サ、サキさん・・ 留萌の方で、クマが出たみたいデスよ」
どうやら俺の頭の中には、クマはサキさんの親父さんというイメージが刷り込まれているらしく、そのクマという二文字の響きの恐ろしさは何倍にも拡大される。
「あらあら、そうなんですか。 でも、あたしがついてますから大丈夫ですよ」 サキさんはニコニコしながらそう言う。
その謎の自信は、いったいどこからくるのだろう。 やっぱり、あの親父さんを見て育ったからなのだろうか?
「蒼汰さん、それにクマさんはキャンプ場みたいに人がたくさんいるところには滅多に近寄ってきませんよ」 サキさんが怖がる俺を見てドヤ顔で言う。
「えーっと サキさん。 異世界のキャンプ場って、キャンパーはあまりいませんよね」
「・・・ やだ、どうしましょう。 それ、すっかり忘れてました。
そ、そうだわ。 蒼汰さん、キャンプ場の管理人さんに、クマ情報を聞いてみればいいのではないでしょうか」
サキさんが、小鼻を少しふくまらませながら人差し指をビシッと立て俺に向けて来る。
「な、なるほど。 それはいい考えですね」
俺たちはそんなやり取りをしながら、キャンピングカーを管理棟前の駐車場に停めて、チェックインをしに中へと入ったのだが・・
「きゃーーー」
「うわわっ」
なんと管理棟のホールには、ヒグマの剥製がドオーンと置かれ、その奥のカウンターにはクマ男が座っていたのだ。
あまりにもタイミングがよすぎて、二人して大きな声を出してしまい大赤面である。
俺は管理人のクマ男さんにさっきのクマ出没情報の話しをして、ペコペコ謝りながら登録カードに住所と二人の名前と宿泊日数を記入した。
「空野蒼汰さんと奥さんのサキさんですね」 クマ男さんは登録カードをじっと見つめながら確認して来る。
「はい。 今日、明日とよろしくお願いします」
「東京からだとたいへんだったでしょう」
「いえ、大洗からフェリーで来たので、そうでもなかったですよ。 ここのキャンプ場は、とても素敵なところですね」
「ありがとうございます。 お風呂も温泉ですし、クマも出ませんからどうぞゆっくりして行ってください」
「はい♪」
利用料を払い薪を買って、キャンピングカーをサイトへと移動させる。
軽ワゴンだとルーフテントか普通にテントを設営したりするのだけれど、今回は本格的なキャンピングカーなので楽ちんだ。
タープもクルマに付いているサイドタープを引っ張るだけだ。 キャンピングカーって、なんだか変形ロボットみたいでカッコイイ。
あとはテーブルと椅子を並べ、焚火台をセットしたら準備完了だ。
本日の夕食は、苫小牧港で仕入れた新鮮な魚介を使ってパエリアを作る。
西湖の時はサキさんが酔いつぶれて微妙な味になってしまったので、今回はリベンジなのだ。
そして途中で買ったハスカップワインと地ビールも冷蔵庫で冷やしている。
今日は天気も良いので、星空も綺麗だろう。
俺たちは食材の下ごしらえを早々に済ませ、さっそく温泉(ゆのみの湯)に入りに行くことにした。
最近のキャンプ場は、温泉施設が充実している所も多いし、トイレや炊事場などもとても綺麗だ。
案の定、温泉は俺以外の人がいないので貸し切り状態である。 誰もいないと泳ぎたくなるけど、大人なのでここは我慢だ。
あとで聞いたら女湯には、リス女さんとキツネ女さんが入っていたらしい。 ちょっと想像してみるが結構怖いかも。
「あーー いいお湯でした」 サキさんがほっこりしながら俺を見る。
湯上りの女性が色っぽく見えるのは何故なんだろう。 これがもし解明できたらイグノーベル賞をもらえるかも知れない。
俺も色っぽいサキさんをチラチラ見ていたら、サキさんがそっと腕を組んで来た。
せっけんの匂いがふわっとして、思わず抱きしめたくなる。
「あっ 蒼汰さん、見て! 一番星ですよ」
「ほんとだ。 ってか、サキさん。 星いっぱい出てます」
見上げれば、紅掛空色(べにかけそらいろ)の大空に星がキラキラ輝いている。
星空を見上げるサキさんの目は、もうすっかり恋する乙女のようだ。
からめたサキさんの腕にも少し力が入り、体がより密着する。
「サ、サキさん・・」
ジャン ジャン ジャン ジャッカッ ジャン ジャカジャン♪♪♪
ポーチに入れたスマホが突然鳴り出す。
着信音を「ダースベイダーのテーマ」に設定した、あの時の俺を抹殺したいと思った瞬間である。
まさか、会社で何かあったのか?
急いでスマホを取り出して見ると、それは知らない番号からの着信だった。
第30話「蒼汰、北海道で本物の熊を見る その4」に続く。
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