第22話◆人魚姫(その2)
◆人魚姫(その2)
異世界に行くことができるのは、ワゴン車の力なのか。 それとも俺に備わった能力なのか?
結局結論はでなかったけど、俺もサキさんも父親が異世界に行っていたという事実は、どちらも同じだ。
これで能力のないサキさんのお母さんが、なぜ異世界に忘れ物を届けられたのかという謎が解ければ、どちらかハッキリする。
そしてもう一つ、どうして異世界にキャンプ場があるのかという謎。
しかも長い時間、そこに滞在していると「けもの化」するのは何故なのか。
これらの謎は、キャンプを続けていくうちに、追々解明されていくことになる。
***
水産物卸売センターで魚介をたくさん買ったことだし、それをおかずに白米をもりもり食べたい。
家を出るとき、あらかじめ米を研いで水に浸して持って来ているのだ。
あとは、焚火かカセットコンロで炊けばいい。 洗い物の労力を減らすなら、もちろんカセットコンロを使うに限る。
キャンプ場に着いてもいないのに、もう既に頭の中は海鮮バーベキューのことでいっぱいだ。
車は国道126号線を外れ、県道30号線を海沿いにひた走る。
左手には海があるのだけれど、堤防や建物などに邪魔をされてクルマからは、なかなか海を見ることができない。
時折り、ひらけては青い海が見える。 そう、そこは間違いなく海水浴場だ。
海水浴なんて、もう何年も来ていない。 だから今回は時間があったら泳ごうと思って、一応水着も持って来ている。
それに、今回のキャンプ場にはプールもあるのだ。
海やプールで、かわいいビキニの女の子と巡り合えたら、また新しい恋が始められるかも知れないじゃないか。
県道30号線を左折して、ひとつ海側の道に入るとキャンプ場が見えて来る。
そろそろかと思っていると、案の定濃い霧が漂い始めた。
霧を抜け、チェックイン用パーキングにクルマを止めて手続きをする。
建物の中に入ると、此処の管理人さんはアライグマとヤギだった。
チェックインを済ませてキャンプサイトに向かうが、広いサイトには俺の他には本格的なキャンピングカーが一台だけ止まっているだけだった。
もうこのクラスのキャンピングカーは、走る家と言えるだろう。 あんなクルマでキャンプができるなんて、すこし羨ましい。
だが、俺の軽ワゴン車にも今回は秘密兵器が積んである。
そう、他に欲しいものを我慢してボーナスをつぎ込んだルーフテントである。
やっぱり俺流のキャンプには、ワクワク感がなくてはならない。
***
キャンプサイトは、良い場所が選び放題(何せ人がいない)なので、風通しがよくて木陰がある場所にクルマを止めた。
今回はルーフテントがあるので、ルーフレールからタープを伸ばし、端を二本のポールとロープで固定したら設営完了だ。
タープの下にブルーシートを広げペグを打って固定し、テーブルと椅子をセットする。
これで、何となく秘密基地っぽくなってくる。
あとは、海鮮バーベキューをするので、コンロを並べたら準備OKである。
まだ、2時をちょっと過ぎたところなので、プールでひと泳ぎしようと海パンとタオルを持っていったん受付に行く。
帰りに薪(500円)を買って来るのを忘れないように、掌にマジックで「マキ」と書いた。
クルマを止めた場所から受付までは、結構遠かった。
「あのー プールって・・・」
「はい、いつでもご利用いただいてかまいませんメ~エ」
「はあ・・ ありがとうございます。 それでは、使わさせていただきますー」
うわー やっぱ、ヤギはないわーー 俺、犬でよかったよーー。 女の人で白髭なんてかわいそうだろー。
海パンに穿きかえながら、サキさんの親父さんが言っていた言葉を思い出し、元に戻れなくなった人たちの事をちょっと考える。
もちろん、今回のキャンプに際しては「南アル〇ス天然水」を忘れずに何本も積み込んであるのだが・・
でも俺もいつか、こっちの世界の方がよくなって、此処の住人になってしまう日が来るかもしれない。
暑い日差しがプールサイドに照り付ける。
冷たいシャワーを浴び、一応準備運動の真似事をしてから、勢いよくプールに飛び込んだ。
ザッバーン バシャ バシャ
どわっ つっめてーー
バシャ バシャ バシャ
得意のクロールで一気にプールの反対側まで泳ぎ切る。
プッハァーー プールの壁に手を着いて顔を水面に出した俺の頭の上を、キラキラ光る何かが飛ぶのが一瞬見えた。
ザッパーン
直ぐに振り返って見れば、数メートル先の水面に大きな魚の尾ひれが見える。
なっ・・ なんだあれは?
第23話「人魚姫(その3)」に続く
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