第20話◆一人キャンプ(ルーフテント)

◆一人キャンプ(ルーフテント)



あれから三月(みつき)が経った。  その間、俺はまるで魂の抜け殻のようだった。  と後から同期の田口に言われた。


いつまでも、うじうじしていても仕方がない。  失恋したとは言え、サキさんに振られたわけではないのが、せめてもの慰めだ。


そして俺は、また一人でキャンプに行ってみようと思うまでになっていた。



そういえば、前に買ったキャンプの雑誌が、テレビ台の横で埃をかぶっていたのを思い出す。


埃を払って、まだ読んでいなかった頁をめくっていると、ふとあるものが目に留まった。


それは、ルーフテントなるものだ。  初めて見たそれは、まるで子どもの秘密基地みたいで、とても興味をひかれたのだった。



そうか、うちのクルマにもルーフレールが付いてたっけ。  ということは、うちのクルマにも付けられるってことだな。


だが、その価格に俺は目玉が2Km先まで飛び出るかと思った。


ご・・ごじゅうまんえんって・・ 中古車が買える値段じゃないか。


でも、もしコレがあったらテントなんて張らなくてもいいし、雨が降ったって床が宙に浮いているから快適じゃね?



でもなぁ、夏のボーナスが吹っ飛んじゃうし・・・  ぐじぐじ言いながら頁を更にめくっていくと。


あれっ?  こっちのルーフテントは15万円だぞ。  おっ こっちのは13万・・・


どうやら、ルーフテントとやらもピンキリのようだ。


15万くらいなら俺にもなんとか手が届く値段だなぁ。


俺はガキの頃から、欲しいものがあると後先考えずに、即買ってしまう性格だった。


そして俺は案の定、ネットで雑誌に載っていたルーフテントを検索し、躊躇せずにクリックしてカートに入れたのだった。



***


週末、俺は届いたルーフテント(けっこうデカイ)を大苦戦のすえ、クルマの屋根に何とか取り付けた。


走行中に外れて落ちたら大事故になるので、念入りにチェックもした。



ルーフテントは使うときだけロックを外して上にはね上げると、クルマの屋根にテントができるという魔法のようなアイテムだ。


これで、俺のワゴン車は荷室に一人とルーフテントに二人が寝れる仕様になった。


まあ、サキさんとはあんなかたちで別れてしまったので、複数人寝れると言っても宝の持ち腐れではあるが。



俺はまだ、サキさんのことを思い出すと胸が痛くなるし、大声で叫びたくなる。


今さら失った大切な女性(ひと)のことを、俺はいつかは忘れることができるのだろうか。




さて、せっかく大枚をはたいてルーフテントを買ったのだから、キャンプに出かけないわけにはいかない。


ひさしぶりにキャンプガイドの方も頁をめくる。  どこかいいキャンプ場はっと・・・


このガイドブックの目次は、エリア別になっている。  そして、それぞれのエリアの中が、湖畔、河原、高原、林間、浜辺などの立地別になっている。



まずはエリアを選択するのだが甲信越方面は、まだ失恋の痛手が醒めていないのでパスである。


今回は、あまり遠くへいくのはやめよう。  そうだ、近場で千葉なんてどうだろう。


九十九里浜とか大原とか鴨川なんかいいかも知れない。  よしっ、今回は海辺のキャンプ場で一人海鮮バーベキューだ!





第21話「人魚姫」に続く

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