第17話◆サキさん猫になる(その3)
◆サキさん猫になる(その3)
郊外型スーパーの駐車場は広大で、ここで車中泊ができてしまいそうだ。 (実際にやったら怒られるだろうけど)
時間的にまだ、それほど混んでいなかったので、できるだけお店の入口近くまでクルマを進めて止める。
美味しそうなものがないか、二人してカートを押しながら、食材を見て回る。 それがなんだか新婚夫婦みたいだなっと思って、思わずニヤニヤしてしまう。
「どうしたんですか。 なんだか蒼汰さん楽しそう」 サキさんに、にやけた顔を気づかれてしまい焦る。
「えーと なんか新婚さんみたいだなって・・ ちょっと思ってしまって・・ その・・」
それを聞いたサキさんの顔がぱぁっと輝く。
「蒼汰さんもそう思いました。 あたしもですよ。 うふふ そうですか 蒼汰さんもですか」
そう言いながら、サキさんはそっと俺と手をつないできた。
恋人ステップA、B、C 前段階のスキンシップ キターーーーッ!
左手でカートを押し、右手はサキさんと手をつないで買い物ができるなんて・・ 生きててよかったーーー! ←心の中の声デス
こんなふうに俺が浮かれている間も、サキさんは真剣に食材探しをしている。
いかん、いかん。 今日の夕食がサキさんの思い出に強く残るか否かの大切なメニューなんだから、しっかりしなければ。
鮮魚コーナーは今回はスルーだ。 海辺のキャンプ場に行ったときなら、海鮮バーベキューもいいと思うけど。
お肉コーナーでは、信州牛のお肉が美味しそうだったし、みは〇しの湯で見た「信州プレミアム牛」の文字が頭の中によみがえってきたので、サキさんにステーキの提案をする。
「焚火をしながらお肉を焼くんですね。 それ、ワイルドな感じがしてキャンプらしくて、とってもいいと思います」
サキさんが賛成してくれたので、サラダ用の野菜とワインとビールとおやつも買って、お店を後にする。
キャンプ場に戻って来た俺たちは、とりあえず一休みすることにした。
おやつ用に「おやき」を買って来たので、お湯を沸かしてほうじ茶を淹れる。
「なんだか、ほっとしますね」 サキさんがほうじ茶をすすりながら、俺を見てにっこり笑う。
「おやきもお茶も、どちらもやさしい味ですよね」 俺も素直に感想を言う。
「蒼汰さんも、そう思いますにゃ?」
にゃ? サキさんがふざけて言ったのかと思ってみれば、なんとサキさんの耳が猫耳になっているではないか。
「サ・・サキさん。 たいへん耳が・・・」
えっ? サキさんが慌てて自分の耳を触る。
「やだ・・ たいへん! お父さんが言ってたのって本当だったんだわ!」
「サキさん、お父さんが言ってたのって、どういうことですか?」
「えーっと なんでも異世界側のキャンプで、心を満たされたりして現実の世界に戻りたくないとか思ってしまうと、徐々に動物の姿になってしまうそうなんですにゃ」
「なんだって! それはたいへんだ! サキさん、直ぐに帰りましょう!」
俺は慌てて立ち上がる。
「蒼汰さん、大丈夫ですにゃ。 耳ぐらいなら、明日予定通りに帰れば霧の中で元通りになりますにゃ」
「え・・ でも・・ やっぱり帰りましょう。 もし、戻らなくなったらたいへんですって」
サキさんの耳が猫のように、ピクピクプルプルと小さく動く。
「蒼汰さん、夕飯はステーキですにゃ。 明日の出発時間を早めて帰れば問題ないと思いますにゃー」
「ほんとうに大丈夫なんですかワン! あ・・あれっ?」
「あはは 蒼汰さんはワンちゃんですかにゃん」
「えっ うそっ 俺もーーー」
若干の不安はあったものの、美味しい信州牛のステーキの魅力とサキさんの猫耳があまりに可愛かったので、今日はこっちでもう一泊することにした。
そして、この軽い気持ちの選択が、この後俺に最大級のピンチを招いたのだった。
第18話「異世界住人の秘密」に続く
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