第14話◆おとうさま、娘のクルマを盗む
◆おとうさま、娘のクルマを盗む
金曜日の夜、俺は再び上田駅に降り立った。
そう今日から2泊3日で、サキさんと佐久にあるオートキャンプ場に行くのだ。
今は午後6時45分。 もうすぐサキさんがクルマで駅まで迎えに来てくれる。
ここ上田から佐久までは上信越自動車道を使えば1時間弱で着くことができる。
今日は星空も綺麗だし、3日間は晴天の予報が出ているので、いいキャンプができそうだ。
ガァーーー キーーーッ プシューーッ
東京では見ることができない星空を眺めていると聞き覚えがある、ホイールパーキングブレーキのド派手な音が目の前でする。
まさか・・・
「蒼汰さ~ん。 ごめんなさ~い」
「サ・・サキさん。 なんでダンプなんかで来たんですか?」
「父が嫌がらせでキャンプ道具を積んである、あたしのSUVに乗ってどこかに行っちゃたんです」
「えーーっ また子どもみたいなことを・・」
「それで、急いでこのクルマで蒼汰さんを迎えに来たんです。 これから父を捕まえに行くので、早く乗ってください」
あ゛ーー まったく何やってんだかこの親子は。
俺が助手席に乗り込むや否や、ダンプが急発進する。
ガァーーーーッ
「ちょっ サキさん危ないですって! 少し落ち着いてください」
運転席のサキさんを見れば、目から涙が滝のように流れている。
「嘘をついたあたしも悪いんですけど、何もあたしのクルマを奪ってまでキャンプを妨害するなんて許せません!」
「サキさん嘘って?」
「実は今度のキャンプは、あたしの友達と蒼汰さんのお友達の4人で行くって・・・」
「なんでそんなウソをついたんですか」
「だって、二人で2泊のキャンプなんて、父が絶対に許してくれませんもの」
なるほど、うかつだったと俺はその時思った。
確かにあの親父さんが、嫁入り前の大事な娘を男と二人で泊まりのキャンプなんかに、みすみす行かせるはずがない。
「でもどうして、その嘘がバレたんです?」
「母には本当のことを言ってあったんです。 そしたら父が鎌をかけて母から聞き出してしまって・・ それで、あたしが出かける支度をしている隙に、クルマに乗って行ってしまって・・」 グスッ グスッ
はぁ~ もうため息しかでない。
「でも、お父さんが何処にいるか分からないと捕まえられませんよね」
(俺はもうこの時点で、内心見つからないことを祈っていた。 もし見つけても、その後の方が怖い)
「それは大丈夫です。 父が行きそうなところなんて、一つしかありません」
へぇー さすが親子だ。 すげー自信。
サキさんは怒ると運転が荒くなる。 しかも乗っているのは大型ダンプだ。 もう生きた心地がしない。
しかも赤信号で止まるたびに、プシューーッ である。
「あっ! ほらっ いましたよ! あれ、あたしのクルマです」
サキさんが指をさした方を見ると、なるほどパチンコ屋の駐車場に白いSUVが1台とまっていた。
「蒼汰さん、これクルマのスペアキーです。 すみませんが、あのクルマに乗ってあたしの後をついて来てくれますか」
「ああ、はい。 わかりました」
俺はサキさんがパチンコ屋の店内まで入って行って、親父さんとひと悶着あるかと心配していたのでちょっと安心した。
俺はサキさんの運転するダンプの後を追っかけて走ったのだけれど、出発時間を大幅に遅れていて焦っているのか、サキさんの運転は まるで暴走ダンプのようだった。
いったんサキさんの家に戻ると、お母さんがダンプのガラガラいうエンジン音を聞きつけ、玄関から出て来た。
「空野さん、わたしのせいでご迷惑をおかけして申し訳ありません。 サキのこと、よろしくお願いします」
「お母さんは悪くありません。 先日僕がお邪魔した時に、今回のキャンプのことをきちんとお話ししなかったのが悪かったんです」
「それじゃあ、お母さん。 行ってくるね。 お父さんのことお願いね」
サキさんは、厄介ごとをしれっとお母さんに丸投げしてクルマに乗り込む。
蒼汰さん、早く乗ってください。 もう8時になっちゃいます。
「それじゃあ、お母さん。 サキさんをお預かりします」
こうして、俺たちはサキさんのSUVに乗って一路、佐久にあるオートキャンプ場に向かったのだった。
第15話「サキさん猫になる」に続く。
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