第13話◆おとうさまは親父と知り合いだった

◆おとうさまは親父と知り合いだった



「咲姫からはキャンプ友達を連れて来ると聞いていたのだが、まさか男性だとは思わなかったよ。 ところで、二人でひとつのテントで宿泊なんてしてないだろうね?」


「おとうさん!  空野さんになんてこと聞いてるの!  失礼でしょ!」


俺は、サキさんが怒ったところを初めて見た。  怒ったところもカワイイじゃないか。



「いや、父親としては嫁入り前の娘を心配するのは当然のことさ。  なあ、空野君」


「はあ・・  それは俺・・いや僕もお父さんのおっしゃるとおりだと思います」


「分かってくれたかね空野くん。  でもわたしは、君のお父さんじゃないけどな」


「ちょっと!  本当に怒りますよ!  あたしたちこれから打ち合わせするから、お父さんはもう書斎に行ってて!」



「もうちょっといいだろう。  なあ、空野君」


「え・・ええ」


「ところで、君は社会人なのかね?」


「はい。  今年で入社3年目になります」


「で、その会社は一部上場企業なのかね?」


「いえ、残念ながら。  でも、その分野では世界シェア2位の会社です」


「ほぉ・・  それじゃ、君はその会社のエンジニアなんだね」


「あーー  いえ、保守や保全の仕事をしています」



「ちょっと、もういいでしょ。  書斎に行かないなら、もうお父さんと口をきいてあげないから!」


どうやらサキさんの我慢の限界が来たようだ。


さすがに娘が口をきいてやらないという最終兵器で脅したので、親父さんはすごすごと5階へ上がって行った。



「ごめんなさい。 父は普段はあんなじゃないの」  サキさんはシュンとして謝る。


「ぜんぜん気にしてないですよ。  俺も自分の娘がもし男を連れてきたら同じようになるかもしれないし・・」


俺はホントのところ、ぶん殴られなくてよかったと思ってるのだ。



「それじゃ、また変な邪魔が入らないうちに、さっきの続きを話しましょう♪」


サキさんが、また俺の隣にちょこんと座る。



もしも、あの親父さんがこの様子を覗きでもしたら、こんどこそ俺は上田の土に埋もれることになるかも知れない。


だが、恋に危険は付き物だ。  こうなったら絶対にいつかサキさんをゲットしてやる。



「あたし、場所は佐久のキャンプ場でよいと思います。  佐久なら上田から上信越自動車道を使えば1時間かからないですし、蒼汰さんを迎えに行ってからでも8時までにはキャンプ場につけますよ」


「でも夜にテント設営って大変じゃないですか?」


「テントの設営はあたしに任せてください。 30分もあれば十分です」  サキさんは自信満々に言う。


「それで金曜日は寝るだけにしましょう」


えっ?  寝るだけって・・・  そう言う意味じゃないって分かっていてもドキッとしてしまう。


ケホッン


サキさんも俺の動揺を見抜いたのか、咳払いを一つして・・


「だって蒼汰さん、お仕事を済ましてからそのまま来てもらうし、きっと疲れてるでしょ。 それに、土曜日がまるまる1日ありますからね。  日曜の午前中に撤収すれば、東京までは関越道で3時間かかりませんよ。 ほらねっ?」


サキさんは地図の佐久から東京までのルートを指でなぞりながら、俺を見てにっこり笑う。


「サキさん、俺は東京まで送ってもらわなくていいですよ。  電車でも2時間ちょっとあれば着きますから」


「でも・・」


「俺を送ってくれたって、サキさんがまた上田に帰るのにそれから4時間もかかるし、俺が心苦しいです」


「でもでも、今日だって上田まで来ていただいたのに・・」


サキさん、俺は男です。  男は常に女性を大切にしたいと思っているんですよ。


どやっ 落ちたやろ?  ←もちろん心の声デス



ガタン ゴトゴト


ん?  天井から音が?  おわっ!


突然天井のボードが1枚外れたと思ったら、その穴から梯子がおりて来た。


なんだ、なんだ?  この家は忍者屋敷かよ!



「君、たしか空野君って言ったよな」


なんとそう言いながら梯子から下りて来たのは親父さんだった。


ひぃ~  殺されるーー  ←何度も言うけど心の声デス



「もしかして、君のお父さんは風太さんって名前じゃないのか?」


「ええ、父は空野風太と言います。  昨年、亡くなりましたが」


「やっぱりそうだったか。  実はわたしは、君のお父さんとは親友だったんだ。

キャンプの楽しさも君のお父さんから、いろいろ教えてもらったんだよ」


「ええっ そうなんですか?」



「そうだ。 わたしは最初に空野って聞いたとき、なんで気が付かなかったんだろうな。  そうか、そうか。  君は空野さんの息子さんだったのかぁ・・・  いや~ これからもうちの娘をよろしく頼むよ」


なんですと。  ああ、父さん。 ほんとうにありがとう。 ←心の声デス



こうして、俺は無事にサキさんの親父さん公認で、付き合えることになったのだった。


この後、買い物に出かけていたサキさんのお母さんにも挨拶を済ませ、夕食までご馳走になった。


夕食の支度は、サキさんとお母さんの二人で手際よく進めて、短い時間なのに驚くほどの品数が出された。



俺はというとサキさんの親父さんから、うちの親父とのキャンプの思い出話しをずっと聞かされた。


なんでもうちの親父は、息子(俺)の自慢話しも随分したらしく、それがまた俺の好感度をあげたようだった。


ああ、父さん。 ほんとうにありがとう。 ←心の声デス



そして驚くことに、親父たちも異世界キャンプで知り合った仲だったのだった。


第14話「おとうさま、娘のクルマを盗む」に続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る