第11話◆現実世界の彼女
◆現実世界の彼女
西湖のキャンプから帰って来てから3日が過ぎた。
でもまだ、サキさんからはメールが来ない。
かといって、サキさんが帰ってから連絡すると言ったのに、こちらからメールするのは何か違うと思う。
しかしメールがいつ届くかが気になって、スマホを離すことができないし、5分おきにチェックしてしまう。
えーいっ! こんなことじゃ仕事にならないじゃないか!
それで俺は少しでも彼女のことが知りたくてノートパソコンを開き、ダメもとで「須藤咲姫」でググってみた。
すると何件かの記事がヒットした。
なになに・・ 須藤咲姫(45歳)書道家。 これは違ーう。
須藤早紀・・ オイオイ名前が違うだろ!
おっ? これは・・・ 須藤建設株式会社・・・ 専務? 須藤咲姫・・・
この写真・・ 間違いない、咲姫さんだ。 記事の横に小さく載っていた社員の紹介写真に彼女を見つける。
なんてことだ。 サキさんの実家は、N県では超有名な建設会社だった。
そして、サキさんはそこの娘さんのようだ。
どおりでお嬢様っぽい上品な感じがする女性(ひと)だったと今更ながら納得する。
まてよ。 いま専務ってことは、将来社長の可能性もありってことだよな。
俺は、いきなりの格差衝撃に戸惑った。
今の段階で、たった二度しか会っていないサキさんのことが、心から離れない。
もしこのままサキさんに心をどんどん惹かれていって、挙句に失恋したら俺はもう立ち直れないかもしれない。
俺はパソコン画面を呆然と見つめながら、咲姫さんに告白する勇気が、いっきに萎んでしまった。
***
翌朝、会社に向かうため電車に乗っていると、ポケットの中でスマホがブルブルと振動し始める。
すぐさまスマホを取り出し確認すると、画面にメールの着信表示がある。
アイコンをタップすると、はたしてそれは待ちに待った咲姫さんからのメールだった。
「なかなか仕事の調整がつかなくて、連絡が遅くなってしまいました。 蒼汰さん、来週末はもう予定がありますか?」
あ゛ーー なんだよ。 よりによって来週末かよー。
俺は木、金と泊まりで上越市に出張の予定がある。
「すみません。 残念なのですが、木、金は新潟に出張の予定です」
「新潟へは電車で移動されますか?」
「はい。 その予定です」
「それならば、金曜日にお仕事が終わるころ、あたしがクルマで迎えに行くのではどうでしょう」
「いや、遠くまで来ていただくのは悪いので、それなら自分が上田の駅まで行きます」
「えっ? なんであたしの住んでいるところが上田市だってご存知なんですか?」
「すみません。 昨日ネットで咲姫さんの名前でググってしまって」
「まあ、ならば実家が建設会社だってことも?」
「はい。 咲姫さんは専務さんだったんですね」
「やだわ。 税金対策みたいなもので、実際は事務の手伝いくらいしかしていませんよ」
メールなのに、まるでLINEメッセージのようにメールが行き交う。
こうして、やきもきする中、なんとか来週末のキャンプ予定だけが決まったのだった。
第12話「おとうさまにご挨拶」に続く。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます