第10話◆連絡先ゲット♪

◆連絡先ゲット♪



俺が初キャンプに行った西湖は、異世界にある西湖だった。


まだ、本当のことなのか信じられないけれど、あの時のサキさんの目は真剣そのものだった。


あの後、結局酔っ払ったサキさんの代わりにパエリアは俺が作ったのだけれども、頼りのサキさんが熟睡してしまったので、微妙な味のパエリアが出来あがった。


それでも夕食は、市販のミートソースとサラダドレッシングが大活躍したため、のそのそ起きて来たサキさんとおいしく食べることができた。



お腹もいっぱいになり、焚火の炎が暗くなった西湖にゆらゆら映り、なんとなくいい雰囲気になったので、俺はサキさんに聞いてみた。


「俺、キャンプは初めてだったんですけど、今日はほんとうに楽しかったです。


それで、できればこれからも・・ いや、たまにでいいんで俺とキャンプに行ってくれませんか」


サキさんは、しばらく焚火の炎を見つめていたが、俺の方を向いてゆっくり頷き「はい」と小さな声で返事をしてくれた。



後で気が付いたんだけど、二人でキャンプって、いきなり彼女以上の関係みたいだ。


そうか、それでサキさんの声が・・・



夜も更けて寒くなってきたし、焚火にくべた薪ももう少しで燃え尽きようとしていたので、今日はそろそろ解散して寝ることにした。


翌朝は7時に朝食の約束をして、サキさんはオレンジ色のテントで、俺は軽ワゴンにもぐりこんだ。


俺は軽ワゴンの簡易ベッドで、今日あったいろいろな出来事を思い返し、もしかしたら夢を見ていたのかも知れないと思った。



次の日、朝早く目が覚めた俺は、ガスバーナーコンロで湯を沸かし、コーヒーを淹れた。


朝靄がかかる西湖を見ながら飲むコーヒーは格別においしい。


少しするとサキさんもテントから出てくるのが見えたので、コーヒーを持って行ってあげた。


サキさんは、ちょっと恥ずかしそうにコーヒーを受け取るとコクリと一口飲んで、「おいしい」と笑顔になった。


なんだか急に愛おしくなって、ぎゅっと抱きしめたくなったが、自分の足を踏んずけてグッと我慢した。



「朝食はあたしに任せてくださいね」  サキさんは、そう言ってさっそく朝食の準備に取り掛かった。


「支度ができたら呼びに行きますから、それまで絶対に覗きに来たらダメですよ」


「えーー どうしてですか?」


「うふふ それは秘密です。  さあ、早くクルマに行って待っててください」


なんだか、鶴の恩返しの話しみたいで俺はこの後、急にサキさんがいなくなってしまうんじゃないかと心配になった。


まあ、俺は別にサキさんを助けたわけじゃないし、むしろ助けられてるのでこの話しみたいにはならないだろうけど。



サキさんが朝食を作ってくれている間、特にやる事もないので荷物の片づけをして時間をつぶす。


と言っても、洗い物もそんなにないし、焚火台の燃えカスをスチール缶に入れたらすることが無くなった。


その後、しばらくぼぉーっとしていたら、サキさんが迎えにやって来たので、二人してサキさんのテントがあるところまで歩く。


手はつないでいないけれど、他の人が見たら俺たちは恋人同士に見えるのかな。



サキさんのテントまでやってくると、小さなテーブルの上にベーコンエッグとたぶんダッジオーブンで焼いたパンが並べてあった。


「じゃ~ん  これが本日の朝食でございまーす」


「うわー  おいしそう」


「パンは初めて焼いたんだけど、うまくできたみたいです」


「ということは、サキさん摘まみ食いしましたね」


「てへっ  バレましたか。  朝早くに一度起きて、生地の2次発酵までやっておいたんです。  あたしとしては会心の出来ですよ」



サキさんが会心の出来というだけあって、パンはふわっふわのもっちもちだった。


一つ目はそのままで、二つ目はベーコンエッグを挟んでガブリっと食べる。


タマゴの黄身がパンの端からたらりと流れ出すが、何とかこぼさずに食べれて思わずセーフポーズをしてしまったら、爆笑された。



このあと、朝食の跡片付けを手伝い、それぞれのキャンプ道具を片付けてお昼前に帰ることになった。


だが、俺には重大なミッションが一つ残されていた。


そう、サキさんの連絡先ゲットだ。


電話番号なのかメアドなのかメッセージIDなのか・・・


そこで、帰り際にサキさんのところに連絡先交換のお願いをしに行った。



「あの、サキさん」


「はい」


「次のキャンプいつにしましょう?」


キャンプを終えての帰り際に、俺は間抜けな質問をしてしまう。


「えーと いろいろ他の予定もありますので、帰ってからまた連絡するのでは、どうでしょう。  なので蒼汰さんの連絡先を教えていただけますか?」



「あっ はい。  取り敢えずメールアドレスでよいですか?」


「ええ、大丈夫です」


「そしたら、赤外線通信でアドレス交換しましょう」


「はいっ♪」



こうしてサキさんの連絡先をゲットした俺は、濃い霧の中を走り抜け帰路についたのだった。




第11話「現実世界の彼女」に続く。

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