第9話◆重なった世界とルール

◆重なった世界とルール



「あの受付にいた人たち。 着ぐるみなんかじゃないですよ」


俺がサキさんのことをヤバイ人だと思っているのが分かったらしく、サキさんは必死の形相で俺の腕を掴んで来る。


「あーー わかりました。  とりあえず落ち着きましょう」


するとサキさんは、涙目になって薄笑いをする。


「どうせ信じてくれないんでしょ!  いいです。 チキンを食べたらあたしにちょっとだけ付き合ってください!」


サキさんは、チキンにガブリと食いつき豪快に食べると赤ワインを一気に飲み干した。


なんとそのあともワインを飲み続け、とうとうボトルを空けてしまった。



「あ゛ーー  蒼汰さん、やっと食べ終わりましたね。  それじゃあ、一緒に行きまひょう~」


「サキさん、酔ってますよ。  少し休んでからにしましょう」


「何を言ってるんでひゅか。  ダメれすよ。  早くあたしと一緒に行くんれすーーぅ」


サキさんは、俺の腕を強引に掴み自分の腕を絡めるとグイグイと俺を引っ張り始めた。


「ちょっ 胸が当たってますって!」


「何れすか?  あたしの胸が小さいって言うんれすか?」


「いや、そんなことは言ってないでしょ!」


「いいから早く来てくだひゃい!」


うわー  酒癖悪っ!


この時俺が、今日キャンプ場が雨で空いていてよかったと思ったのは、言うまでもない。



サキさんに引っ張られて、受付の建物に強引に連れて来られたが、結局中には誰もいなかった。


「ほら、もうテントに戻りましょう。  教えてもらえれば、パエリアも俺が作りますから」


「嫌れす!  まだ、あたしの疑惑が晴れていません!」


「なんですか疑惑って?  話しがおかしくなってませんか?」


「だって蒼汰さんは、此処が日本の西湖だって思ったままじゃないれすか! このまま蒼汰さんがまた霧の中を通って家に帰ったら、あたしが嘘を吐いたみたいに思うれしょ」



「あのー どうかされましたか?」


サキさんが駄々をこねていると受付がある建物の入口から、牛の着ぐるみを来た女性が入って来た。


「あーー  ほらっ この人!   この人は異世界人れすよ!」


サキさんが、嬉しそうにパタパタと牛女さんに駆け寄って行く。


まったく困った酔っ払いだ。



サキさんは、牛女さんと何やら話していたが、やがて二人揃って俺のところまでやって来た。


「さあ、あなたが異世界の人だってこの蒼汰さんに言ってやってくらさい!  サキさんが牛女さんにビシッと命令する」


「サキさん、だめですよ。  ご迷惑をかけたら。  受付の方だって忙しいんですから」



「あのっ そちらの方がおっしゃっているのは、本当のことですよ」


俺は突然のことに最初、牛女さんが言っていることが理解できなかった。


へっ?


「実はこの西湖キャンプ場は、異世界にあるキャンプ場なんです。 そして、あたしは着ぐるみを着ているのではありません。  信じられないなら、あたしに触ってみてくだされば、分かっていただけるかと思います」



そう言われて、牛女さんの頭からつま先までをゆっくりと眺めて行く。


耳は牛。 角は硬そう。  顔(目や鼻、口)は人間。 体と腕、手は人間。 でも体毛に覆われている。


おっぱいはデカい。


足(太ももから踵まで)は人。 体毛はあり。 踵から先は蹄・・・


では、失礼して触らせていただきます。


むにゅっ  むにゅっ


ファッ   こ、これは・・・  


「いかがでしたか?」


「むぅ~  でも、特殊メイクでもこれくらいなら・・」


「それなら、ミルクを絞って飲んでみますか?」


思わず牛女さんのおっぱいに目が行くが・・


「いやいや、さすがにそれは・・・」


俺が顔を赤くして下を向いても牛女さんは話しを続ける。


「こちら側の世界に来ることができる人は、まだほんの一握りしかいません。

そして、こちらの世界に来ることができるのは、ある条件に合致した人なのです」


隣に立っているサキさんが、俺の顔を見てうんうんとうなづく。


俺は何だか夢を見ているようで、ただぼぉーっとその場に立ち尽くしていた。



第10話「連絡先ゲット」に続く

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