第3話◆しまった火がない、タレがない

◆しまった火がない、タレがない



河原へ下りる道を走っていたら、なんだか霧のようなものに包まれてしまった。


霧は結構深くて、目の前の地面がやっと見えるくらいだ。


こんなところで事故を起こしたら元も子もない。  ここはノロノロと慎重にクルマを走らせる。


でも、ほんの少し走ると霧は嘘のように消えてなくなった。


いったい今のは何だったのだろう?


まあ、そんなことより肉だ、肉!  何しろ一生懸命に洗車をしたので腹ペコなのだ。



バーベキューをするのに良さそうな場所を探して、広い河原を川の流れている方へ向かって進んで行く。


このクルマは4WDなので、河原のような石がゴロゴロしている場所でも余裕で走れるのだ。


なるほど親父がアウトドア用に選んだクルマだけのことはある。



河原を走っているときは気が付かなかったが、クルマを停めてみると周りの景色がなんだか違って見える。


違和感は感じるけど、どこがおかしいかというと咄嗟にはでてこない。



う~ん なんだろうなー。  顎に手を当て首をひねりながらクルマの後ろに回る。


俺は親父が使っていたキャンプ道具を出すために、真上に大きく跳ね上がるバックドアを開けた。


荷室からバーベキュー用の組み立て式コンロとスーパーで買って来た炭を取り出す。


ついでにこれも組み立て式の椅子を出して、コンロの隣に置いた。


ふむ、なかなか良いではないか。



ニマニマしながら、助手席に置いてあるスーパーの袋を取りに行く。


オニク食べよう オニク食べよ オニク食べよう おニク ニク ニク ニク 肉食べたい!  


浮き浮きしてつい歌も出る。



さてと・・・ (´・ω・)?


あれっ?  これって、どうやって火をつければいいんだっけ?


タバコを吸わない俺は、ライターやマッチは持ってない。


あちゃー やっちまったよ。


ついでに追加で買った焼肉用のタレも買ってこなかったことに気づく。


さっき出した椅子に腰を下ろし、しばしの間ぼーっと空を眺めてから深いため息をひとつ吐いた。


よくよく考えてみれば、ライターとかで炭を熾せるわけもない。


いろいろ後になってから気づいても、後の祭りである。


仕方がない。 撤収して家で食うか・・・


ガックリとうなだれていると



「あの~ もしかしてお困りの事とかありますか?」


突然、後ろから声をかけられ驚いて振り向くと、そこには綺麗なお姉さんが笑顔で立っていた。



第4話「ここは異世界なんですか?」に続く

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