第7話
「ごっつあんでした」
午後4時、ようやく相撲部が食事を終えた。なんとか夜の営業までにすこしの休憩はとれるだろう。そんな矢先、ガラガラと控えめな音とともにけつねうどん扉があいた。
入ってきたのは保健室のマドンナ、月本先生だ。
ヒールからすらりと細く伸びた脚が膝上短めのタイトスカートからのぞいている。スタイルの良さ、タイトスカート、太腿、甘い匂い。噂ではおかげで保健室に倒れ込む男女比が8:2になったといわれている。
「いいかしら?」
絶対ダメだ。良い要素がひとつもない、休憩は3時からで1時間押しの状態なのだ。皆疲れ果てているし、篠田に至っては休憩室でそのまま眠っている。おれが営業時間の札をだして断ろうと動く。
「イラッシャッセッ!!」
執事服からうどん部ユニフォームに着替えた牧野がオレを遮り、席へ案内しやがった。やつにはこういうところがある。うどんの技術は十二分だし、責任感も強い。だが、そう、少々女好きなのだ。席につかれてしまった以上、けつねうどんとしては客を追い出すわけにはいかない。
「ッニシマショ!?」
注文を取りにやってきた牧野を前に、月本先生はゆっくりと細い指を這わせながらメニューを眺めていく。しばらくそうしてひとしきりのメニューを見て、ぷくりと潤いを含んだ唇に触れながら、注文を口にする。
「きつね、いただけるかしら?」
牧野の「アイヨッ!!」を合図におれたちはテキパキと準備にかかる。相撲部の注文に比べればあくびが出るぐらいだ。流れるような動きで準備を済ませる。学校一の美人教師からの目線を感じ、こころなしかおれも気合の入ったチャッチャを決めてしまう。あげを載せ、刻みネギを添えてできあがったきつねうどんを牧野がすっと拾い、席に運ぶ。
「いただきます」
うどんを前に行儀よく手を合わせた月本先生はつるつるとうどんを啜っていく。うどんというのは不思議な食べ物だ。調理や味付けだけではない。食べる人によってその表情を大きく変えてみせる。運動部の男子がいきよいよく啜っているときには、女人禁制、男のための飯かのように振る舞うが、月本先生のような大人の女性が口にしていると、表面のツヤが艶かしく光る。揚げを折りたたんでかじる仕草には、なにか妄想を掻き立てられるものがある。先生がうどんを啜る音の中、ときおり部員がごくりとつばを飲む音が聞こえる。
麺を食べ終えた後、先生はつゆをレンゲで啜り始めた。暑さを感じたのか、ジャケットを脱ぐ月本先生。ノースリーブのシャツを目の当たりにし、部員たちに緊張が走る。先生はどんぶりを持ち上げ、ごくごくとつゆを飲み干す。満足げな表情をしながら、頬をつたう汗を髪の毛を少し持ち上げながらハンカチで拭っていく。そのハンカチが少し開いた胸元に向かった時、牧野のキツネお面の下から鼻血が滴り落ちた。
そろそろ会計と動こうとした時、ガラガラと扉があいた。入ってきたのは定年も間近であろう英語教師の小泉だ。授業中もぼそぼそとなにを言っているのか聞き取りづらいが、職員室などで見かけると、つねに目を閉じて寝ている。学校一の冴えない教師だ。それはともかく準備中の札を書け忘れたといえ、いまから注文を受ける理由はない。断ろうとした時、思わぬ声が発せられた。
「遅かったじゃない、あなた」
月本先生が笑顔を向け、小泉が同じテーブルについた。キツネお面越しでも、牧野が死んだ魚のような目をしているのがおれにはわかった。
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このエピソードはSpreadsheets/Excel Advent Calendar 2019の23日目の記事です。
昨日はharetarasakeさんの「ヤバすぎ」でした。Excelのことはわからないといいながら、カメラ機能を利用した恐ろしい技を披露してくれました。ヤバすぎ。記事の趣旨ですが、haretarasakeさんとの結婚にご興味のある方はご本人にTwitter等で連絡してください。
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クラスの美少女の彼氏がExcelでした ミネムラコーヒー @minemuracoffee
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