第3話

かなめくん、えっくんと私のことはみんなにはヒミツにしてくれますか?」


 言えるわけがないだろう。クラスメートの美少女がの彼氏がエクセルだなんて。そんなこと言おうものならまずおれの頭が狂ったと思われるに決まっている。そりゃあもちろん増田とかカクヨムに書いたら面白そうだとは思うけど、ネタとしてはウケてもまさか事実だとは思われまい。

 とにもかくにも謎の美少女のあまりにも謎に満ちた昼休みの行動が判明した。パソコンのソフトウェア、Excelを彼氏だと認識している表さんは、彼氏とふたりっきりの時間を過ごすために昼休みをこのコンピューター室の廊下の外で過ごしている。なぜコンピューター室の外なのかといえば「wi-fiが拾えるから」なのだという。Excel自体はインターネット接続がなくても動くが、いろいろな操作を実行したり試したり(おもてさんの言葉通りに言うなら「彼氏とイチャイチャ」)するためには、インターネットに接続していたほうがなにかとよいのだそうだ。


 この調査自体は、おれが表さんとの距離を縮めるための第一歩という目的だった。そしてこの目的は達成された。いやされてしまった。この日以来、なにかと彼女はおれに話しかけてくるようになった。話の内容はというと、いわゆる恋バナである。新しい使い方を見つけたとか、こんなファイルを作ることができたとか、なにをいっているのかさっぱりわからない。「ヒミツ」といったわりにべらべらと喋りかけてくるのは、この甘い生活をだれかに自慢したかったららしい。

 恋の対象に彼氏の自慢をされるというひどい状況なのだが、これはこれで奇妙な生物を観察しているようで楽しい。なによりもこんな事実を知った以上、おれの表さんへの恋心はグラグラに揺らいで崩壊寸前になっている。もちろん彼氏自慢のさなかに見せる笑顔はなんだかんだ可愛いらしいと思っていて、ドキドキしないと言えば嘘になるのだが、「この女はエクセルを彼氏だとおもっている」という事実に思いを馳せるとたちまち冷静になる。


 おれが表さんの秘密を知ってから1週間ほどたったある日。おれは表さんと例のパソコン教室裏で弁当を食べていた。弁解しておくともう恋愛感情はない。好奇心なのか哀れみなのか説明の難しい感情があって、表さんに誘われたときは昼食に付き合っている。昼食といっても実体は表の彼氏自慢を聞くことなのだが。


「えっくんの一番好きなところは、やっぱりピボットテーブルなんですよね~。こうやってボタン一つで複雑な集計できるし」


 表さんはパソコンをサクサクと操作していく。エクセルは授業で少しだけ触ったが正直ややこしい割にできることは「それだけ?」という印象だった。なんだか英語で式を書かないといけないし、できることも電卓を叩けばいいようなことで授業で扱う価値があるものなのか謎だった。このピボットテーブルってやつはボタンをポチポチしているだけでなんだか複雑な表を作ることができている。これってもしかしてうちの部活で使えるんじゃないのか?


「表さん、今日の放課後って空いてる?ちょっとエクセルを使って手伝ってほしいことがあるんだ」


「え!?い、い、い、いいですよ!わたしとえっくんが力になれることならなんでも!」




#########################

このエピソードはSpreadsheets/Excel Advent Calendar 2019の5日目の記事です。

https://adventar.org/calendars/4085


昨日はことりちゅん@えくせるちゅんちゅんさんの「神Excelの罫線作図支援ツールを開発する part1」でした。ぼくは仕事の性質上、神Excelというものにふれる機会はなく、ネット上の記事で情報を得るぐらいだったのですが、どうもぼくの認識が甘かったことを思い知らされました。神Excelの深淵を垣間見られておすすめです。

https://www.excel-chunchun.com/entry/draw-line-1


明日はkamoさんがスピルについて書いてくれるそうです。話題のExcelの新機能、気になりますね!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る