お祭り改革委員会(コメディ)

 嘆かわしい! 


 実に、嘆かわしい!




 なにがって、決まってるでしょう! 


 わたしはね、あなた方の危機感の無さ、想像力の無さに、怒り心頭なんです! プンプンなんですよ!




 まったく、なんなんですか、あなたたちは! なに普通に、お祭りなんかしちゃってんですか、普通に屋台なんか、出しちゃってんですか! 不道徳ではないですか! そうは、思いませんか!




 だからね、今日はこの場をお借りして、あなた方の認識を改めよう、あまつさえお祭りを変革してやろうと、こう思っているわけですよ! おっと、止めようとしても、無駄です、一気呵成に、改革案を話して差しあげますから!




 ええ! 「お祭り改革委員会」委員長である、このわたしがね!




 まず、金魚すくい、なんですかあれは! なんで、金魚なんかすくわせてるんですか! おかしいじゃないですか!




 あのね、金魚は魚類ですよ、えら呼吸ですよ! それがあんな、息もできないような空中にすくい出されて、「あはは、すくえた~、ピチピチしてる~」なんて、笑われて! 残酷じゃないですか! 可哀想とは思いませんか! 




 しかもね、大体のお客さんが、その場のノリだけなんですよ! 大体の人が、すくった金魚の処理に困って、結局は無残にしてしまうんです! まったく、むごいじゃないですか! ねえ!




 だからね、わたしは考えました! こうするんです! 




 金魚を祭りに持ち込むのは、O・Kとしましょう、しかし、すくっちゃいけない! 可哀想だから!




 なので、金魚すくいの網、あれポイっていうんですけど、そのポイの紙の部分をはずし、「金魚すくわない」とするのです! どうでしょう! そしてその穴あき網を、各自で水に浸し、金魚が穴を通るのを風流に楽しむのです! これなら、金魚も痛まず、店主も損がなく、お客さんも、わびさびが味わえる! 金魚すくいの、革命といえるでしょう!




 次、わたあめです! あれもなんですか! なんであんな、フワフワしてんですか! 買っちゃうじゃないですか! 夢見がちな女子が! 可愛らしい幼児が!




 あのね、あれは、白い悪魔ですよ! 一見、フワフワと見せかけて、舐めたらベトベトになるのです。色々なところに、くっつくようになるんですよ!




 いいですか、想像してください、それをもし、付き合いたての彼氏とお祭りに来た女の子が買ってしまったら! そしてもし、それが張り切って薄化粧したお顔なんかに、ベタベタと引っついてしまったら! その日のデートはもう、散々ですよ! ベタベタでグスングスン、悲しみながら、その子は帰るんです! そんな姿は嫌ですよ!




 でもこれは、なら買うなよ、なんて簡単な話じゃない、なぜなら女の子は、あのフワフワに吸い寄せられてしまうから、それが、女子であるのだから!




 だったらこうしましょう! わたあめによく似せた「棒刺しコットン」を売り、それを見たり、時に触ったりしつつ、材料であるザラメを舐めるのです! これならベタベタもせず、甘さも堪能でき、デートも問題なく、遂行できる! どうですか! しかも店主には「棒刺しコットン」の売り上げも入り、幼児のベトベトがなくなることで、親御さんのお悩みも解決される! 抜群でしょう! 真っ先に、取り入れるべき案ですね!




 ――おっと、もうですか、もうこのやぐらも、囲まれてしまってますか!


 なら、とっ捕まる前に、なるたけ言うとしましょうね!




 カキ氷! これは高すぎる! ただの氷のシロップがけに、二百円~三百円も、払いたくない! 損した気分になるんですよ! だからもう、根本的改革! カキ氷屋は素直に、あのガリガリするアイスを売りましょう! これなら舌も変な色にならないで済み、散財も四分の一で助かる! 簡単でいいじゃないですか! 女性に優しい、改革といえますよね! 




 次、射的! 危ない! なに、子供に発砲を見せてるんですか! 銃撃を、覚えさせてるんですか! 平和な日本に、相応しくない遊戯ですよ! ねえ! 




 なのでこれは、平和的改革! 銃なんて出店に置かず、子供が指差し「おじちゃん、あれほしいんだけど♪」と言った場合はもう、その景品は、あげちゃってください! 無利益で! 無条件で! 子供への奉仕と思って! これなら平和も保たれ、子供にも自己犠牲の精神が身につきます! 道徳的! 失った利益はきっと、未来への投資となりますよ!




 ――さあ、そろそろ、限界のようですね! おさらばの時間と、参りましょうか!


 では、さらば! また会わぬことを、信じて!


 お祭りが普遍的なお祭りであり続ける限り、「お祭り改革委員会」はどこにでも現れますよ!






 そうして。


「……なんだったんだろ、あの人」


 やぐらから飛び降り、逃げていった後姿を、私はポカンと見つめていた。


 きっと、改革案は一つも採用されないんだろうなあ、なんて思いつつ。






 15/09/06 第九十回 時空モノガタリ文学賞【 祭り 】受賞

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