『わたし、特技ありまして……!』(コメディ)

――フレデリック・ショパン――   


 




「ねえ、ケーキ作ってきたんだけど。食べてみてよ!」


「えー? やだよ。お前、料理へたじゃん。美味かったこと、一度もないじゃんか」


「いやいや、今回は自信あるんだって! ちゃんと分量も量ったしさ!」


「ホントかよー? 全然、信用ならねえんだけど」


「ダイジョーブだって! ほら、一口、一口!」


「わかったわかった…………!! ペッ、うえっ! な、なんだこれ! ショッパン!(しょっぱい!)」


「えっ、うそ…………う、うわ、ホントだ! お砂糖とお塩、間違えた!」


「お、お前はー!」


「ご、ごめーん!」








――ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト――






「……また、新しい事業はじめる気? こりないねー、おじさんも」


「おお、姪っ子ちゃんでねえか。どうだ、この店。今度こそ、いけそうでねえか?」


「いーや、全然。こんな田舎で、メイド喫茶は強引すぎるよ。だれも、こないと思うけど」


「また、なに言ってるだ、この子は。田舎だから、貴重なんでねえか。だれもやってねえから、いいんでねえか。そうだろ?」


「ちがうよ。やっても無駄だから、やんないの、だーれも。傷が浅いうちに、やめたら? 借金、また増えちゃうよ?」


「ハッハッハ。心配すんな。借金なんて、この店が当たればすぐに返せるだ。この、立派な店構え。こいつはきっと、モーツァルト。(儲かるど。)姪っ子ちゃんも、どうだ? メイドになるか? がははは!」


「……だめだ、こりゃ」






――フェリックス・メンデルスゾーン――






「おい、カップラーメン、なんにする?」


「あ、わたし、焼きそばにするー。ビリ、パカッ、トポポ……。あー、早く、できないかなー。おなか、空いたなー」


「じゃあ、俺は、これで。――でもさ、お前、湯きりとか、ちゃんとできんの? ものすごい、ドジじゃんか」


「むっ、バカにしくさって。湯きりぐらい、できますよーだ。心配なら、ついてきんしゃいよ。湯きりテク、見せつけたる」


「いや、いいよ……。なんで、見なきゃいけないんだよ」


「いいから、いいから。……さあ、いくよ。湯きり口を開け、端をもち、一気に、放出! ……ほら、どうだ!? できてるでしょ? ほら、ほら!」


「あ、こら、よそ見すんな! ……ほら、見てみろ! カップの端から、メンデルスゾーン!(麺でてるぞ!)」


「わあ、麺、シンクにあげちゃったよ!……」








――ピョートル・チャイコフスキー――






「どうかな、チャイさん。日本は、慣れたかい?」


「ハ、ハイ。チャイ、ニホン、タノシイデス。ニホンジン、いいヒト、ばかりデス」


「それは良かった。チャイさんが良い人で、ホームステイさせたこちらとしても、大助かりだよ。なあ、母さん?」


「ええ、本当。日本食も食べてくれるから、ママとしても大助かりよ。チャイさん、お代わり、いかが? おでん、まだ一杯あるわよ」


「ア、ハイ、イタダキマス。アリガトウ、ゴザイマス」


「でも、チャイさん。無理は、いけないからね? ほら、これとか、タイではあまり、食べないのでは? 残しても、構わないよ?」


「イ、イイエ、ソンナコト、ナイデス。チャイ、コフ、スキー。(チャイ、昆布、好きー)オデン、トテモ、オイシイデス」


「ハッハッハ。なら良かった。ほら、私のも、食べなさい」


「もう、お父さん。おでんなら、沢山ありますよ?」


「お、そうか。ハッハッハ」


「もう。ウフフフフ」


「ウフフフ。チャイ、コフ、スキー。(チャイ、昆布、好きー)」








………………。








「……なに、これ?」


「えっ、なにって? おかしいトコでもあった?」


「いや、なにじゃなくて。なによ、このダジャレ。突然これ見せられて、なにを語れって言うの?」


「ああ、面白いかどうか、聞きたかったの。どうかなどうかな。思わず、抱腹絶倒?」


「……ううん、全然。クラシックの作曲家でダジャレを作る意味も分からないし、なにより最後のは、ひどすぎる。だれだよ、チャイって。ダジャレに人名使うなよ」


「わ、酷評? ひどい、ミヨちゃん。傷ついた~」


「いや、大抵の人が、そう言うって。ひどいよこれ。その辺のおっさんでも笑わないと思うよ」


「そっかー。じゃあ、これで音大の面接は、難しいかなー? 練り直した方が、いいのかなー?」


「そういう問題じゃないよ!? いや待て、あんた。もしかしてこれを、面接で披露しようとしてたのか!?」


「うん。『創造力豊かな生徒を求む』って音大の資料にあったから、ダジャレはうってつけと思い、作ったのですよ。二週間かけて」


「あの、音大側が望んでんのは、そういうことじゃないと思うけど。ダジャレでは絶対にないと思うけど。……それにあんた、音楽に興味あったっけ? 楽器とか、やってたの?」


「うん、やってるよ。『でんでん太鼓』。これでわたしは、世界目指すんだ!」


「楽器じゃねえよ! 音大で教えるか!」






15/02/04 第七十五回 時空モノガタリ文学賞 【クラシック音楽 】投稿

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