マイとセンパイと不思議な花(コメディ)
マイは中学一年生。
ごくごくふつうの学校に通う、ごくごくふつうの女の子です。
ごくごくふつうに、勉強して。
ごくごくふつうに、友だちとあそぶ。
そんなどこにでもいそうな、平凡な中学生なのでした。
そうして、ごくごくふつうに日々をすごしていたのですが、最近、かなしいことがありました。それは、二学年うえのセンパイのこと。
マイのだいすきなイケメンのセンパイが、あることをさかいに、元気をなくしてしまったのです。
そのことは、マイをもショボンとさせ、ふつうは、ちょっとだけさびしいふつうに、なっていたのでした。
そんな折の、とあるお休みの日のことです。
マイのおじいさんが、マイに不思議なお話をしてくれました。
緑のかおりする、ポカポカの縁側でのことでした。
「ああ、もうこんな季節か。今年もあの花は舞い降りるのだろうな」
くびをかしげ、マイは聞きます。
「おじいちゃん、あの花って、なんの花?」
「ああ、マイ。その花はね……」
そうして、おじいさんは不思議な花のことをおしえてくれました。
そのお話に、マイはとてもおどろいたのです。
なぜなら、おじいさんの言う、その花。
その不思議な花が、だいすきなセンパイのお悩みを、すっきり解消してくれることがわかったからでした。
マイは言います。
「おじいちゃん、わたし、その花さがしてくる! くわしく、場所をおしえて!」
おじいさんはあわてて止めましたが、マイの決心がにぶることはありませんでした。
ふかくうめられた杭のように、けして、動くことはなかったのです。
こうして。ちょっとだけ大変な冒険が、はじまったのでした。
「おじいちゃんの地図によると、このへんみたいだけど……」
ながく空をわたり、海をこえ、マイの姿は南極にほど近い、とある孤島にありました。
みなさんが空白を読むあいだに、出発から、五十三日もの月日がたっていたのです。
そういうことに、してください。
ザクザクのかたい雪をふみしめ、マイはひろい島をさがします。
そのあいだに白くまや異種の動物がマイをねらいましたが、豪腕をくしし、マイは化け物どもにちのあめをふらせていました。マイは、ふつうの女の子です。
雪のなか、たくさん歩くマイ。
その目の前に、ついにお目当ての花は、姿を見せたのでした。
「……あっ! これね! 言われたとおりの色だもの!」
マイはおどりあがり、よろこびました。
白銀の、平坦な世界。
そこに一本だけ、雪に表面をおおわれた大木が生えていたのでした。
マイは近づき、見あげます。
そこにはたしかに、花の一輪。
桃色あざやか、人の頭ほどの大きさで、咲いていたのでした。
おじいさんの言葉どおり、マイは木の下でしばしの時を過ごします。
するとポン、と音がして、花はふわり、マイの元へと舞い降りました。
中央に大きなくぼみのあるそれは、まるでヘルメットのような形。
一部の人々に知られる、幻の花であるのでした。
大きな桃色を両手に、マイは帰国し、センパイの元へとかけつけました。
「セ、センパイ! あの、これ、かぶってみてください!」
ろうかを歩くセンパイに声をかけ、マイは花をさしだします。
すると、センパイの顔はくもり、マイはにらまれてしまいました。
「……なんだい、これ。もしかして、かつらかい? ぼくの髪がないことを、バカにしてるのか?」
顔を赤くし、センパイはプンプンとおこりました。
その様子に、マイはすこしだけ、ゆでたタコみたいと思ってしまいました。
お話しするのを忘れていましたが、センパイは、おハゲ。
イケメンなのに、つるつるの、ピッカリ頭であるのでした。
そのためにかつらをかぶっていたのですが、校則違反のため、最近になり、取りあげられていたのです。
元気がないのは、そのせいなのでした。
「ち、ちがいます! どうか、だまされたと思って!」
しばらくこわい顔をしていたセンパイでしたが、マイがあまりにも必死にたのみこむので、しぶしぶ花をうけとり、かぶりました。
すると、どうしたことでしょう。
頭にのせた花はグネリと形と色をかえ、まっくろの髪の毛になり、頭に根づいたのです。
それが別名を『神さまのかつら』という、花の不思議な効果であるのでした。
ふたりは手をとりあってよろこびます。フサリ、髪が風にゆれました。
「センパイ、ふさふさ! かっこいいです!」
「マイ、ありがとう! 急だけど、ぼくとつきあってくれ! そして最終的には、ぼくと結婚してくれ!」
「はい、もちろん! センパイ、だいすき!」
こうして、マイとセンパイはおつきあいをはじめ、結婚し、いつまでも幸せにくらしました。
花は髪をくれただけでなく、「幸せ」という花弁で、ふたりの人生を華やかにいろどってくれたのでした。
めでたし、めでたし。
神有月出版・刊「せかいのナニコレえほん・百選」より
14/10/06 第六十六回 時空モノガタリ文学賞【 舞い降りたものは 】投稿
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