ブルー

 その日、ちょっと嫌な事があってブルーな気分に浸っていました。

 クッションを抱いてリビングのソファで寝転がっていると、兄が帰ってきました。

 兄は私を一瞥した後、何も声をかけることなく冷蔵庫から水を取り出して呷るなり、すぐに外へと出かけていきました。


 妹がいかにも落ち込んでますよって雰囲気を出していたら、一声かけるなりしてくれてもいいと思いませんか?愚痴の一つも零したい時もあれば、相談に乗って欲しい時だってあるんです。うちには両親はいませんし、兄として妹の話くらい聞いてくれてもいいじゃないですか。

 そういう雰囲気を察していながらあえて知らん顔を決め込む兄は、とても嫌いです。


 その後、自室のベッドで丸くなっているうちに寝てしまったらしく、目が覚めたら夕飯の時間を過ぎていました。

 慌ててダイニングへと向かうと、冷え切ったおかずだけが置いてありました。兄はどうやら、先に食事を終えて自室へと籠った様子。


 いつもなら、夕飯ができたら呼んでくれるのに、今日は呼ばれた記憶がありません。というか、おかずにラップをわざわざかけているあたり、最初から呼ぶ気はなかったのでしょう。腫れ物扱いしたのか、単に話を聞くのが面倒だったのかはわかりませんが、この扱いはあんまりじゃないでしょうか。さっきまでのブルーな気分が、だんだんと兄への怒りで塗りつぶされていきます。


 夕食を一人でとり、洗い物は放置して沸かしてあったお風呂へ直行します。お風呂に入ると、その日の疲労やマイナスな気分が少しずつお湯の温もりの中へと溶けていく気がします。なので私は、この入浴の時間がとても好きです。まあ、その日の事をあれこれ考えていて、長風呂になることも多かったりするのですが。


 お風呂を上がって髪を乾かし、お風呂上りに緑茶でもと冷蔵庫を覗くと、予想外の光景が広がっていました。

 プリンにピーナッツチョコレート、シュークリームなど・・・私の好きなスイーツが数種類押し込んでありました。


 そして、その手前に置かれた冷えきったメモ。手に取ってみると、兄の汚い字でこう書いてありました。



 ”好きなものを食え。ただし、太っても責任は取らん”



 どうやら、帰ってきてすぐに外出したのはこの為だったようです。

 ・・・まったく。甘味程度で気が晴れる程、私はもう子供じゃないのですが。未だに兄の中では、私はそういう子供っぽいイメージなのでしょうか。失礼千万です。


 そもそも、直接話を聞いてくれればいいんです。その代わりに物欲で機嫌を取ろうなんて、女性の扱いがなっていないと思います。いずれ彼女ができたら、苦労するに違いありません。女心はそんなに安くないのです。



 ただ・・・そんな不器用な兄ですが、私は心から嫌いになれそうにはありません。

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