『有』の世界


 もともと『無』の世界の存在である、『天之御中主(あめのみなかぬし)』神は、『時』を俯瞰することができた。


 『高御産巣日(たかみむすび)』神、『神産巣日(かみむすび)』神、の二柱は、それができなかった。

 『有』の世界の存在であるからだ。


 『天之御中主(あめのみなかぬし)』神は、そのすべてを知覚できた。

 『時』を流れる一瞬、それが、『有』の一つの世界のようである。


 選択が実行されると、世界が複製されていくようだ……

 いわゆる、パラレルワールドと呼ばれるものだ。


 『天之御中主(あめのみなかぬし)』神は、世界を名付けることにした。

 『識(しき)』である。――「了別」の意味の仏教用語である。認識対象を区別して知覚する精神作用を言う。ウィキペディア、識の項目より――


 『天之御中主(あめのみなかぬし)』神の次元は、他の二柱の次元とは、違っていると思われた。

 その次元を『無色界』と名付け、それを四つに分けた。


 そして自らの次元をその第三天、無所有処(むしょうしょ)と名付けた。

 その上の第四天、その次元を非有想非無想処、いわゆる有頂天(うちょうてん)と名付けた。


 『調和』に出会う為の入り口の世界と、位置付けたのである。

 『何者』かは、その上の次元の存在と思ったからだ。


 『高御産巣日(たかみむすび)』神、『神産巣日(かみむすび)』神の、二柱の世界を『無色界』の第二天、識無辺処(しきむへんしょ)と名付けた。


 そして『無色界』の入り口として、空無辺処(くうむへんしょ)と定めた。

 ――この当たりの無色界の説明は ウィキペディア、無色界の項目より 抜粋引用――


 よく見ると『有』の世界は、さらに次元が細分されている。

 最下層を『下天』とし、その上の次元群をまとめて、『欲界』とし、造化三神の世界である、『無色界』とをつなぐ次元群を『色界』とした。


 そしてすべての次元をまとめて、三界と名付け、『有』にあるすべての世界を、三千世界と名付けた。


 こうして世界を名付けた『天之御中主(あめのみなかぬし)』神であるが、最下層の『下天』では、なかなか後釜が育たない。


 すべては『時』の作用により、『消滅』と『誕生』を繰り返す、『循環』から抜け出せないのである。

 『有』から生まれた『求め合う』を『分離』し、『与える』と『受ける』で世界を作ったからのようだ……


 しかし、任せる者を期待する以上、その者の『思考』が、造化三神の次元までくる必要があるが、『欲界』に上ってくるものさえない。


 計り知れない時が流れて行ったが、『天之御中主(あめのみなかぬし)』神は『時』の影響を受けない。

 『高御産巣日(たかみむすび)』神、『神産巣日(かみむすび)』神の二柱は、『時』の影響を受けるが、無限に『誕生』と『消滅』を繰り返せる。


 つまり『時』の影響で、一部が『消滅』した瞬間に、『再生』が可能なので、事実上は、『時』の影響を受けないことになる。


 それでも無限に繰り返される、『下界』での『循環』に、さすがの造化三神も、当初の見守るだけの方針を変更して、対処することにした。


 『高御産巣日(たかみむすび)』神、『神産巣日(かみむすび)』神の二柱が、『下天』に対して、直接介入することにした。


 二柱はその時、最も有望とみられた世界にたいして、有機体を操作して、自らの姿形に似せた、生物に進化するようにした。


 その世界の生物は、自らを『人』、知恵ある者と呼び始めた。

 そして二柱は、『神話』と『奇跡』で導き始めた。


 『宗教』の誕生であるが、その世界の『人』は、『神』に選ばれた者と称し、『デーヴァ神族』――サンスクリットで神を意味する、漢訳仏典では、天部、天、天人、天神、天部神などと訳される、ウィキペディア、デーヴァの項目より――と、名乗るようになった。


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