第2話 バカが悪魔を呼び出した
ジョン・レノンの歌に憧れたどっかのバカは、バカなりに世界平和や戦争廃止を考えたそうだ。
世界中の悪いやつらをやっつけたなら世界は平和になるはずだ、と英雄思想に駆られたソイツは何処で知ったか悪魔召喚プログラムなんてものを動画サイトに垂れ流した。皆で悪魔を召喚して悪いやつらをやっつけよう、だなんてカルト教団真っ青な煽り文句だけ添えられた動画は何と驚くことに再生するだけで悪魔を召喚!
いや、厳密には自由を主張する大国様がかねがね研究していた別次元、異世界への干渉をするプログラムだったらしく悪魔を召喚したのではなく異世界からの来訪を許したのだそうだ。
こちらの世界では考えられない異形の姿をした異世界の者たちは動画の通りに悪魔と呼ばれ、面白半分に再生したヤツらが情報を拡散した。
悪魔と呼ばれた者たちもこちらの世界と同様に人それぞれで、突然の事態に困惑し怯える者、とりあえず暴れる者、異世界側では神隠しと噂が広がったのでその解決に現れた勇敢なる者。
事態は事件となって、世界中にあっという間に広がっていき、戦争になった。こちらの世界とあちらの世界。やられたらやり返すの精神の賜物だ。
戦争は一年に渡り続き沢山の被害を生んで沢山の人々が嘆き苦しみ、やっと国連のお偉いさんとあちらの世界の一番でかい国の王さんが手を結んで終結した。
そう、終結したんだ。
それから、和平交渉が締結されて両世界の交流がもたれて数年──。
「拾ったから使え。使えなければ棄ててこい」
休日に会社に呼び出されて所長に言われたのはそんな言葉だった。
突然の休日出勤にも関わらずきっちりと背広姿で出社したオレは、冷徹な印象しか湧かない能面みたいな顔をした
所長室の応接用ソファーには金銀と輝く髪色をした双子が寝そべり寝息を立てていた。所長の目が訴えるに拾っただの棄てろだのはこの双子のことだろう。
何言ってんだこのオッサン、という感想はこの会社に入って二年、月一ぐらいで抱いている。今月もめでたく抱けた。
「あー、拾ったって何処でですか?」
指示に対しての拒否権は無い。指示は命令であり、命令が仕事なのだ。受けないと言うなら仕事を辞めなければならない。だからとにかく、答えてくれそうな問いを探す。
「外務省」
面倒くさそうな単語を聞いたので深追いをしないことに決めた。
「うちの仕事には使えるはずだ」
凍りつくような眼光を向けられてオレは否応なしに頷くしかなかった。そうしてオレと双子は組まされることになった。
「うん、じゃあ、出てってくれ」
満面の笑みで辛辣な言葉を発するのは恰幅のいい丸型の大家さんだ。揉み上げから白髪が混じり始めたご年齢の丸目がねをかけた小柄の男性。常に絶やさぬ人懐っこい笑顔から第一印象からイイ人であったのだけど、玄関口の彼はあまりに無情にそう告げた。
仕事上よくわからん双子と組まされることになったと頭を抱えていたら追い打ちのように生活も共にしろと言われ愕然としていた帰り道。
双子の生活費は経費になるのかと悩んでたどり着いた我が家、ボロアパートの階段を登っていた時に大家さんに一言挨拶をしておくべきかと思いついた。子供が二人突然増えるのだ、下手に怪しまれても困りもの。
大家さんの部屋をノックして出てきた彼に説明するや言われたのがさっきの一言。
「え? 出てってくれって、なんで?」
「アンタ、こっちの人間だからわかんないんだろうけどさ、ウチらみたいなあっちの世界の人間だとさ、わかんのよ。その子ら、ヤバいね」
大家さんに指差された金銀の双子は二人揃って欠伸をしている。寝起きだから仕方がない。
「ヤバいって、いや、だからその親戚の子を預かっただけで、別にオレ、そういう性癖とか無いですから」
「そうじゃないよ、アンタの性癖とか・・・・・・いや、それはそれでだとしたら困るんだけど。その双子、壊し屋でしょ? 空気でわかる」
「壊し屋?」
確かにオレの自由な一人暮らしを一瞬でぶっ壊してくれたが、そんなもん空気でわかるのだろうか?
いや、そういう話じゃないか。
「他の住人もいるんだ、その空気は迷惑だよ、出てってくれ」
大家さんは話は終わりだと言わんばかりにドアを閉めた。これ以上の問答無用だ、ということだろう。理不尽な話だが、こちらの抗議は聞く耳持たずだ。
途方に暮れてとりあえず部屋へと帰る。理不尽な要求に弁護士でもと考えたが、それより先に会社に住まいを用意してもらおうと考えた。双子の生活費も請求しないと。
「おい、ワナビー、腹減った」
「おい、メラニー、らりぱっぱ」
双子がオレの服を引っ張る。
「あのな、オレは──いいや、名前なんてまた明日教えてやる。ちょっと待ってろ、今飯作ってやるよ。たくっ、所長のオッサン、昼飯ぐらい食わしてやれよ」
呼び出されてすぐ帰宅した休日出勤。昼が少し過ぎた時間帯だった。
ぶつくさと文句を続けるオレにドントが首を横に振る。
「聞いて驚け、なんと一週間食べてない!」
「聞いて驚け、なんと一週間飲んでない!」
オレは素直に驚いて、とりあえず冷蔵庫から飲み物を取り出して渡してやった。
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